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「キャリアの差は後輩のために使う」よしもと有楽町シアター支配人・星座庸子さんが愛されるワケ(後編)

  • 2020.10.20
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毎日笑わせてくれる芸人がいることが、活力になっている。

――「よしもと有楽町シアター」のこけら落としは8月8日でした。コロナ禍での劇場オープンは、かなり大変だったのではないでしょうか?

星座庸子さん(以下、星座): 異動が決まったのがなんと5月。緊急事態宣言が明けたら一気に引き継いでくれと。幕張には6年間勤務したので、すごく愛情がありました。まさかスタッフに会えないまま、幕張を離れるなんて思ってもいませんでした。当時は、有楽町のオープン日どころか、他劇場も再スタートが決まっていない状態。目標がないまま準備を始めるのは本当に不安でしたね。

――オープン日が決まり、無事に幕が上がってからはいかがでしたか?

星座: オープンしてからは、毎日があっという間。オープンからの1カ月は、精神的にも激しい浮き沈みがありました。本来、私は寝たら忘れる楽観的なタイプなのですが、この時期は、自分を嫌いになりそうなくらい落ち込むこともありました。有楽町の立ち上げは、私も含めて社員2人。休みもないし、その子が体調を崩したときは「もう無理!」と……すべてを否定的に捉えてしまうこともありました。でも、結論は「楽しい」です(笑)。吉本はマネージャーが花形だと思っていましたが、「いやいや、劇場がいちばん楽しいよ!」と胸を張っていいたいですね。

――それはなぜですか?

星座: 毎日芸人が笑わせてくれるんですよ。人って笑うとハッピーになれるじゃないですか。涙流しながら笑うことが毎日のようにある仕事場って幸せだなと。劇場で笑いが起きないことなんてまずないですから。私はたぶん人より笑っている時間が長いんです。笑わせてくれる芸人がいることが自分の活力になって、休めていなくても休んでいる感覚になる。たまに「こんなに楽しくていいのかな」と思うほどです。

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朝日新聞telling,(テリング)

「芸人×芸人」の化学反応が見たい

――ところで、「よしもと有楽町シアター」はどのような劇場なのでしょうか?

星座: 有楽町は企画ライブをベースにしていて、ネタの寄席をしていません。寄席公演はほかでも観られるし、同じことを有楽町でやる必要はないなと思っています。小さい劇場なので、たくさんの芸人を呼べないという点も考慮して、企画しています。

――毎日企画を考えるのは大変そうですね。

星座: そうなんです。ライブでは「芸人×芸人」の化学反応が見たいので、コラボを心がけています。案外芸人たちも楽しんでくれているようで、自ら「リベンジしたい」「このペアでやりたい」と意見をくれることもあります。こちらから無理に「これやって」と言うより、芸人発信でイベントを組んでいけたほうが楽しいものができると思うんです。

――芸人さんの意見からライブをつくることもあるんですね。

星座: 最近多くなってきました。オープンした頃は、先のライブが全然決まっていなくて、「続けていけるのか」と落ち込んでいましたが、芸人発信の企画が増えたこともあり、現在はかなり先まで予定が埋まっています。ベテランから若手まで舞台に立てる、吉本でもめずらしい劇場ですね。

――有楽町という場所もビジネスパーソンに刺さりそうです。

星座: まさに、仕事帰りにふらっと立ち寄れるような場所にしたいと思っています。1時間笑って、それをつまみにお酒を飲んでほしい。こういう理想があるので、コロナなのが悔しいです。
劇場を立ち上げるのは、何百人の社員のうち数人しか経験できない運のいいこと。それを2度も経験して、劇場のおもしろさもわかっているつもりです。支配人という立場でスタートしているからには、どうにかしてこの有楽町シアターを盛り上げたいです。

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朝日新聞telling,(テリング)

星座さんは愛しかない。愛情がすごい

――連日多くの芸人さんと接している中で、心がけていることはありますか?

星座: 「相手の気持ちになって考える」ことですね。俳優のマネージャーをしていたとき、19人を担当していたんです。私からすると19分の1だけれど、相手からしたらマネージャーは私1人。全員の意見を聞いているといっぱいいっぱいになってしまいますが、もっとがんばらなくてはと思いますよね。
先日、スタッフに「星座さんは愛しかない。愛情がすごい」って言われたんです。「そんなに?」と思いましたが、本当にそうなのかもしれないですよね(笑)。特定の誰かだけに愛情注いでいるわけじゃなく、みんなが大好きなんですよ。こう思える環境はありがたいです。

――芸人さんにも、その愛情が伝わっていますね。

星座: どうでしょう……。でも「有楽町の舞台にみんな立ってくれるだろうか」と不安だったとき、「星座さんが言うなら出るよ」と言ってくれる子たちがいて。そういうのを聞くと、分かってくれている人もいるんだなとうれしいです。

――星座さんのお話からは「人を育てる力」を感じますね。

星座: 一緒に劇場の立ち上げをしていた子はまだ2年目で、私と20年以上のキャリアの差があります。それでもやることは一緒だよ、と言っています。先輩後輩は関係ない。でも、私には長年やっているからこそできることもありますよね。そこは頼ってほしい。

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朝日新聞telling,(テリング)

――「星座さんと一緒に働いてみたい」という人も多そうです。最後に、telling,読者に社会人の先輩としてアドバイスをいただけますか?

星座: なにか悩んだら、人に言ったほうがいいです。それだけですっきりしますから。愚痴を言うのはいやだなと思うかもしれないけれど、私は人に話していたからこそ、ここまでストレスなく生きてきたと思っています。もちろん信頼している人にですが(笑)。あとは、笑うこと。笑うといやだったことも忘れてしまいます。つらくなったら、吉本の劇場に足を運んでみてください。

■星座庸子(せいざ・ようこ)さんのプロフィール
専門学校卒業後、制作会社に入社。その後、制作会社時代の縁で、吉本興業株式会社に入社。マネージャー、宣伝プロモーション、劇場勤務を経験。立ち上げに携わった「よしもと幕張イオンモール劇場」支配人から2020年8月8日には14館目の常設劇場「よしもと有楽町シアター」支配人に就任した。

■中村由布子のプロフィール
熊本県出身。カメラマン土井武のアシスタントを経て2008年フリーランスに。 カタログ、雑誌、webなど様々な媒体で活動中。二児の母でお酒が大好き。

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