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「あたりまえ」が失われた夏に覗く未来『七月に流れる花』『八月は冷たい城』/佐藤日向の#砂糖図書館②

  • 2020.10.18
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今年はいつもと何もかもが違う夏だった。

これはきっと、みんなが感じたことだと思う。

昨今のコロナ禍で毎年行けていたはずの旅行や帰省、 それだけでなく普通に友達と遊ぶのが難しくなってしまい、 夏特有のキラキラした時の流れを感じにくくなってしまった。

じゃあ、10年20年後の世界はどうなっているのだろうか。

そんな風に考えていた時、私はこの小説に出会った。

『七月に流れる花』『八月は冷たい城』は、恩田陸さんによるファンタジーとミステリー要素が詰め込まれた不思議な作品だ。

“緑色感冒”という感染力の強い病が終息しつつある中で未だにゼロにはならない感染者。

特に身内に感染しやすい緑色感冒は、夏流という街に患者を隔離している。

そんな夏流では、緑色感冒患者の親を持つ子ども達が親の死期が近くなると、”みどりおとこ”という存在に夏流城に招かれる。

そして招かれた子ども全員がマジックミラー越しに写る番号で親の死を確認するまで、林間学校を夏流城で続けなければならない。

七月は緑色感冒を知らない少女の視点、八月は緑色感冒を知ったうえで “みどりおとこ”という存在に不信感を抱く男の子の視点で描かれている。

七月サイドに登場する女の子は緑色感冒が蔓延した時代には生まれていない。

そんな彼女は自分の父親が緑色感冒患者ということも知らないまま、 他に招かれた5人の少女達と共に夏流城で夏を過ごすうちに、 少女には疑心、5人の少女達には見えない絆が生まれる。

緑色感冒という病を知らない少女の視点で 物語を読み進めていくうちに私は何度も5人の少女達が罪を犯してしまうのではないか、或いは既に罪を犯した後なのではないかとハラハラさせられた。

恩田陸さんの作品は小説の中にいる登場人物達の感情がリアルに伝わってくるからこそ臨場感があり、まるでその場にいるような空気感を味わえるのが魅力だと思う。

例えばこの作中にある《お城で暮らした時のことを思い出すと、ミチルはいつも眠気をさそわれる。(中略)六人の少女で過ごした時間そのものが、夏の昼下がりに風の通る窓辺でうとうとしていたかのような、短いまどろみに思えるのだ。》

この文章を読んだだけで、なるほど、確かに眠くなりそうだと想像がしやすい。

そして恩田陸さんの他作品『チョコレートコスモス』や『木洩れ日に泳ぐ魚』でもそうだが、もし、自分が舞台で演じるならどう演るだろうと考えながら読み進められるのも個人的に楽しいポイントだ。

一方、八月サイドは、親を失う覚悟を持った4人の少年たちのお話だ。

こちらはかなりミステリー要素が濃く、特にラスト数行は読み解けば読み解くほど怖いような、だけど前向きになれるような謎が深まる終わり方になっている。

そして八月サイドでは”カマキリ”がキーワードになってくるので、カマキリが共食いをするということを念頭に置いて読むと、更に緑色感冒も夏流城という存在も”みどりおとこ”という存在も私は怖く感じた。

まるで”みどりおとこ”という存在は私が愛してやまない作品『PSYCHO-PASS』に登場するシビュラシステムのようで、子ども視点ではなく大人視点だとこの作品はきっと印象が変わるのではないか、と読み終えた後、更に想像が膨らむそんな作品だった。

この作品は少年・少女の強さやその強さの中にある、触れた瞬間壊れてしまいそうな脆い部分が描かれている。

そして”普段通り”というのは私たちが過ごしていく中で、少しずつ形が変わっていくからこそ、私たちは”今も昔もここは変わらないね”といえる場所を自分たちで守っていかなければならないんだと感じさせられた。

読了後、不思議と緑の香りが感じられる気がする『七月に流れる花』『八月は冷たい城』。

夏の空気を感じたい方に、そして私たちの未来を少し覗いてみたい方に是非手に取って頂きたい作品だ。

さとう・ひなた 12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。

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