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【麒麟がくる】第27話。光秀「将軍のおそばに参ります」選ばれなかった信長の心情が気になる!

  • 2020.10.17
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毒殺で盛り上がる物語

大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合日曜夜8時〜)27回「宗久の約束」(脚本:池端俊策 演出:一色隆司)

サブタイトルにある今井宗久(陣内孝則)は堺の商人で、茶人でもあり、千利休、津田宗久と並ぶ天下三宗匠のひとり。

お茶といえば、「麒麟がくる」の初期、明智光秀(長谷川博己)の上司・斎藤道三(本木雅弘)が娘・帰蝶(川口春奈)の夫をお茶で毒殺したところが物語の第一ピークだった。
その後、お茶ではなかったが毒殺は何度もあって、そのたび、不謹慎ながら、物語はいやおうなく盛り上がる。
そして27回。キーマン・宗久のもとに、駒(門脇麦)の手はずで訪れた光秀は、お茶をすすめられて……。

宗久は、堺の会合衆という商人の組織に属していて、14代将軍・足利義栄(一ノ瀬颯)を担いだ三好一派に経済的援助をしていた。
朝廷の時代でもなく、武士の時代でもなく、商人の時代の萌芽。宗久の経済的援助なくしては三好も自由に行動できない。光秀はだからこそ宗久に援助しないように頼むのだ。

宗久は引き受ける条件として「鎧兜を召されたままおいでにならぬこと」を提案する。
駒が、京が戦場になることを心配し「刀をもたずに来てくれ」と頼んだことと同じ思いであろう。

「それ(条件)をおのみいただければ」と言われた光秀はじつに端正な作法で宗久のいれたお茶を飲み干す。条件をのむとお茶を飲むがかかっている。だじゃれみたいだけれど、光秀の飲み方の上品さはそんな笑いを打ち消し、宗久との契約に対する姿勢の真摯さのほうが色濃く感じられる。

お茶をいれながら、互いの心を探るように語る宗久と光秀。やたらと緊張感高まる間合いだったが、主人公の光秀がここで毒殺されるわけはない。
宗久は帰蝶と知り合いで、戦の切り盛りは帰蝶ではないかと堺ではもっぱらの噂で、その帰蝶が頼りにしている人物が明智光秀だと思っていたとなんだか好意的に接してくる。
とすると、どれだけたっぷり間をとりながらお茶を入れても、光秀は大丈夫という安心のスリルがあった。矛盾する楽しみである。日曜の夜はそれくらいがちょうど良いのかもしれない。

歴史が変わってしまうかも?の楽しさ

大河ドラマをはじめとした時代劇は良くも悪くも結末がわかったうえで見ることが多く、知っている筋を追体験し、おなじみの場面や台詞を何度でも味合うという楽しみ方がスタンダードになっている。とはいえ、筋を知っていながら、あれ、もしかして違う流れになるかもしれないと不思議な期待感を覚えるときがあって、そういうのも良いものだ。

例えば「真田丸」のとき今回は“大坂の陣”の勝敗が変わってしまうのではないかという話の流れで、そんなわけはないがもしかして……という期待があった。「信長協奏曲」や「アシガール」など、現代人が戦国時代にタイムスリップしたことで歴史が変わってしまうかも?という作品は人気が高い。
「麒麟がくる」はもともと光秀の活動が“本能寺の変”の活躍以外あまり知られていないので、どうなるのかわからない楽しみがある。27回で主人公が毒殺されるわけはないのだが、なにか起こりそうなざわめきを楽しんだ。

光秀が帰って宗久の提案を話すと、織田の家臣ーー稲葉良通(村田雄浩)、柴田勝家(安藤政信)、佐久間信盛(金子ノブアキ)たちは「半沢直樹」を思わせるような飛沫飛び交いそうな勢いで猛反対する。
鎧兜をつけずに京に入ることは、三好の罠かもしれないという家臣たちの心配も一理ある。だからこそのお茶シーンの緊張感。宗久の本心はわからない。

足利義昭(滝藤賢一)は鎧兜をつけずに上洛に大賛成。
信長は家臣たちの意見に賛成するが義昭の考えを優先するしかない。
そして、光秀に「義昭に仕えるか わしの家臣となるか 今それを決めよ」と言う。

「将軍のおそばに参ります」と心を決めている光秀に、「残念だがわかった。以後そのように扱う。よいな」と目を上にあげてすこし泳がせたあと、淡々と応じる信長の心情が気になる!

番組公式Twitterで染谷翔太が「自分の家臣になれと言って光秀に断られる。将軍のそばに行きたいと言われるのは、何となく分かっていたのだと思います。誘いを断られても、信長の光秀に対する信頼感は何一つ揺るがないはず。ともに“大きな世をつくる”という野望でつながっていますから」とコメントしていた。

愛情に飢えがちな信長だから、やっぱり自分を選ばないことに寂しいような気持ちはなかったんだろうか。去っていく信長、ポツンと残った光秀を見ると、ここがひとつの分岐点のような気もして……。でもそうじゃなかった。ふたりは強い信頼感で結ばれているのだと知ってホッとした。
史実(本能寺の変)でふたりの行く末がわかっているから、ふたりがうまくいかなくなる分岐点をなにかと探ってしまいがちだが、もしかしたら、「麒麟がくる」では違う世界線があるかもしれない。

「光秀のスマホ」が面白い

ただこれで、ますます信長は、木下藤吉郎(佐々木蔵之介)を重用するのではないか。面白いのが、藤吉郎まで、信長は大変なことを頼んでくるが、やり遂げると褒めてくれて褒美をくれると顔を輝かせていること。褒められると頑張れる信長は部下にもそれをやっている。
信長、光秀、藤吉郎(のちの豊臣秀吉)の関係性といえば、NHKで10月13日(月)からはじまった5分間番組「光秀のスマホ」が面白い(全6話、1〜3話は終了、4~6話は26、27、28日の3日間) 。光秀たちはスマホを使って連絡をとりあっている。時々、信長(島崎信長 さきは立さき)から電話がかかってくることも。信長のFUMI(LINE的なもの)に、光秀、秀吉、どっちが先に反応するか牽制しあったり、最初、秀吉(和田正人)のフォロワーが少なくて、光秀(声:山田孝之)はかわいそうだからフォローしてやるかという感じで軽く扱っていると、秀吉が手柄を立てフォロワー数が逆転されてしまい、悔しくてフォローを外してしまったり。こっちの光秀は「麒麟がくる」の光秀と比べてものすごくみみっちい。でも憎めない。

平成、令和の視点だと、スマホ光秀のような人間の矮小さも魅力だが、「麒麟」では伊呂波(尾野真千子)が「世の中は醜いか美しいかどちらかだと」と言ったことが印象的だった。舞台となる時代(16世紀)が同じくらいであること、国盗り合戦の物語など、シェイクスピア劇のようなところがあると言われてきた「麒麟」だったけれど、「マクベス」の魔女のように「きれいは汚い、汚いはきれい」と伊呂波には言わせなかったことが意外だった。ものごとには表と裏があり視点を変えれば見え方が変わるという考え方が「麒麟がくる」の世界にはまだなく、武士と庶民はあからさまに格差がある。伊呂波の言葉はその皮肉でもあるだろうし、世界には、揺るぎなく正しい(美しい)ものが厳然と存在するのではないかとも思えてくる。

〜登場人物〜
明智光秀(長谷川博己)…越前で牢人の身。

【将軍家】
足利義輝(向井理)…室町幕府13代将軍。三好一派に暗殺される。
足利義昭(滝藤賢一)…義輝の弟。僧になって庶民に施しをしているが、兄の死により政治の世界に担ぎ出される。

細川藤孝(眞島秀和)…室町幕府幕臣。義輝が心配。光秀の娘・たまになつかれる。
三淵藤英(谷原章介)…室町幕府幕臣。藤孝の兄。

【朝廷】
関白・近衛前久(本郷奏多)…帝を頂点とした朝廷のひと。

【大名たち】
三好長慶(山路和弘)…京都を牛耳っていたが病死。
松永久秀(吉田鋼太郎)…大和を支配する戦国大名。
朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)…越前の大名。光秀を越前に迎え入れる。
織田信長(染谷将太)…尾張の大名。次世代のエース。

木下藤吉郎(佐々木蔵之介)…織田に仕えている。

【商人】
今井宗久(陣内孝則)…堺の豪商。

【庶民たち】
伊呂波太夫(尾野真千子)…近衛家で育てられたが、いまは家を出て旅芸人をしている。
駒(門脇麦)…光秀の父に火事から救われ、その後、伊呂波に世話になり、今は東庵の助手。よく効く丸薬を作っている。
東庵(堺正章)…医師。敵味方関係なく、戦国大名から庶民まで誰でも治療する。

■木俣冬のプロフィール
ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。

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