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パリ・モード界の新星【1】シャルル・ドゥ・ヴィルモラン。

  • 2020.10.16
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4月末というフランスの外出制限期間の真っ最中にファッションブランドを立ち上げた23歳のシャルル・ドゥ・ヴィルモラン。それだけでも話題性がたっぷり。さらに久々に登場したエキセントリック・ファンタジーにあふれるクリエイションそのものも見ごたえ十分で、そして学生時代はモデルをしていたというシャルル自身のルックスのよさも加わり、パリ・モード界注目の若手クリエイターとして、メディアが彼に注目するのももっともだろう。

自作のデッサンを背景に、シャルル・ドゥ・ヴィルモラン。

4月末に発表されたデビューコレクションより。

陽気でカラフルなデッサンが身体の上で弾けるシャルルのクリエイションには、 山本寛斎のエネルギッシュな派手さ、ジョン・ガリアーノのエレガントなエキセントリック、クリスチャン・ラクロワの華やかなカラーハーモニー……こうしたものすべてが共存している感じだ。

人形や妹のためにブーケを包む薄葉紙でドレスをデザインし、12歳の頃からモードが自分の道、と確信していた彼。中学最終年、生徒たちは外部研修をする習わしがフランスにあり、シャルルは迷わずランバンへ。「当時アーティスティックディレクターを務めていたアルベール・エルバスのボリューム、クレイジーさ、カラー……などが僕は大好きでした」と彼は振り返る。

高校卒業後はパリのラ・シャンブル・サンディカル・ドゥ・ラ・クチュール校で4年学び、IFM(アンスティチュ・フランセ・ドゥ・ラ・モード)では会社設立法などを習得し、と目標まっしぐら。そんな彼に訪れたのは、2019年、パリのラ・シャンブル・サンディカル・ドゥ・ラ・クチュール校の卒業制作で作ったボンバージャケットのコレクションを、あるコレクターがすべて購入するという幸運だった。これを資本に彼はブランドを設立したのだ。

自作のジャケットを纏ったシャルル。彼をフランスのメディアが、モード界のプティ・プランス、新しい種、シザーハンズと形容する背景は記事の最後に。

「自分のブランドを持つというのはずっと夢見ていたこと。だけど、まさかこれほど早くとは 、思っていませんでした。機会に恵まれたので、一瞬もためらわずにスタートしたんです」

服のデッサン、縫製、撮影……こうして準備万端整えて、4月27日、彼はインスタグラムで自分の名を冠したブランドを立ち上げたことをアナウンスし、最初のコレクションを発表した。彼はこのコレクションを愛、寛容、喜びへの讃歌だと表現。彼は仕事をシェアする場所として、インスタグラムは素晴らしい場だと考えている。分かち合い、意見を交わし、発見ができて、と。それと並行してホームページでもコレクションを発表。環境問題に敏感な彼は無駄を出さぬよう、服は受注生産制だ。

ペイント、パッチワーク、プリントといったテクニックがシャルルの好み。ジャケットは4層重ねたキルティングに細かいステッチを施し、ボリュームを出す。

9月にカプセルコレクションを発表。

今回のパリコレ時には、インスタグラムでカプセルコレクションを発表した。

「テーマは特にありません。でも、いつも花とモンスターは僕にとって特別に大切なテーマとなっています。このカプセルコレクションの狙いは、僕によるデッサンをクリエイションのメインにおいて、より入手しやすい品を提案することでした。デッサンには物語やメッセージが込められていて、それを強調するためにディテールを付け加えています。花のモチーフは僕のDNAから発している、というのは確かですね。僕が育ったのは花、模様、色のある環境でした。庭、絵画、ウォールペーパー……花と色、ポエジーに常に包まれていました。この世界が持つ美しさは僕の心に触れ、特別に語りかけてくるものです」

子ども時代の家庭環境を彩っていた美に限らず、彼にとってのインスピレーション源はいろいろ。何よりも彼をインスパイアするのは、彼の周囲の人々、友人たち、強い個性の持ち主だという。アーティストとしては、ニキ・ド・サンファル、クリムト、シャガール、ロダンといった名を挙げる。

「映画ではティム・バートン、セドリック・クラピッシュ、フランソワ・オゾン。このカプセルコレクションは湧き出るように生まれた本能的なもので、映画からは特にインスパイアされていないけれど、この3名は好きな監督ですね。僕は極端、過激というのが好き。ティム・バートンはファンタジーという点で、クラピッシュとオゾンは人生や人物のリアリティの見せ方という点でそれに該当します。アーティストのビジョンが極端で、かつそれが全うされている……それは音楽にも芸術全般についてもいえることです」

音楽は彼のクリエイトを助ける役を担っていて、色と動きの世界に彼が浸れるのも音楽のおかげなのだという。今回のカプセルコレクションを準備している間ずっと聴いていたのはフラヴィアン・ベルジェのアルバム『Contre-Temps』だったが、ヴァネッサ・パラディやエティエンヌ・ダオなども彼のインスピレーション源となっている。また衣服は時代の反映で、社会の進歩がなければモードの有用性はないと考える彼は、社会運動からもインスパイアされるという。

9月に発表されたカプセルコレクションより。

次はどんなコレクションを発表するのかが、気になるクリエイターである。年に2回の発表という従来のリズムをとるのだろうか。

「コロナ禍が収束されていない状況なので、モード界でも多くのことを変えていかざるをえません。僕は状況の展開に適応します。準備ができたら、適切な時期に発表しようと思っています」

10月上旬にテレビ出演した際には、次は来年の1月……というようにも語っていた彼。1月ということは、オートクチュールなのだろうか??9歳の時から6年間クラシックバレエを習っていたシャルルは、ダンスのコスチュームの仕事をすることにも興味を持っているそうで、「ダンス、動き、照明、音楽、モードなどが結びつく。これこそが僕がこの仕事で好きなことです。舞台は僕のクリエイションの過程でとても大切な位置を占めています。ダンスを習っていた頃を振り返ってみて、僕がダンスで感動を覚えたのは年度末のガラ公演だったなあと。舞台裏、ステージフライト、衣装の試着、リハーサル……。ダンスとモードを結びつけるということには、心をひきつけられますね。コスチュームの仕事は僕の目標のひとつです。いま僕が好きなのはコンテンポラリー作品で、とりわけイリ・キリアンの『小さな死』が好きです」

彼のカプセルコレクションを纏った仲間たちがストリートを闊歩する。

語るべき多くのことを持つ23歳の若者シャルルをとりあげるフランスの多数のメディア。モードと花にまつわるシャルル・ドゥ・ヴィルモランについて、日本までは届かないトリビアルな背景を紹介しよう。

彼の苗字のヴィルモラン。フランスの園芸好きにはピンとくる名前である。というのも、18世紀に歴史を遡る種子会社の老舗だからだ。クリスチャン・ディオールがグランヴィルでの幼少期に愛読していたのが、このヴィルモラン社の花や植物のカタログだったというのは有名なエピソード。シャルルはこの一族であると知れば、先に彼が語ったDNAの意味が理解しやすいだろう。またシャルルの大叔母にあたる故ルイーズ・ドゥ・ヴィルモランゆえに、この苗字はモード界、文学界の人々をも反応させるのだ。美貌と才気に恵まれ、作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ、俳優オーソン・ウェルズ、文化相アンドレ・マルローといった男性たちを虜にした魅惑の女性である。ランバン、バレンシアガをはじめオートクチュール界でも愛されたシックなパリジェンヌ。作家の彼女に自伝の執筆を、と声をかけたのはガブリエル・シャネルだ。あいにくとこれは日の目をみることがなかったが……。

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