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<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「『面白い』を基盤から作る」【短期集中連載/第8回】

  • 2020.10.12
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映画『えんとつ町のプペル』(12月25日[金]公開予定)誕生の背景とそこに込めた想いを語る連載第8回
KADOKAWA

【画像を見る】映画『えんとつ町のプペル』より。10月20日(火)に声優陣、90秒の本予告、主題歌などが発表され、遂に全貌が明らかになる

芸人、絵本作家ほか、ジャンルの垣根を飛び越えて活躍する西野亮廣。2016年に発表し50万部を超えるベストセラーとなっている絵本『えんとつ町のプペル』だが、実は映画化を前提として設計された一大プロジェクトだった。構想から約8年、今年12月の映画公開を目前に、制作の舞台裏と作品に込めた“想い”を語りつくします。第8回目は、『えんとつ町のプペル』という圧倒的にオリジナルな作品を生み出すために設計した「制作基盤」、そしてそこを貫く「思想」を明らかにします。

【画像を見る】映画『えんとつ町のプペル』より。10月20日(火)に声優陣、90秒の本予告、主題歌などが発表され、遂に全貌が明らかになる
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作品をどこから作るか

「作る」とは何か? つまるところそれは、「作者が思い描いた世界を具現化し、お客さんの手元に届けるまでの作業」であり、あるときから僕は、具現化以降の「届ける作業」を他者に委ねてしまった作品を「未完成品」と呼び、「届ける作業」を他者に委ねる行為を「育児放棄」と呼ぶことにしました。

自分が生み出し名前をつけた作品は、ボロを着てでも、泥水をすすってでも、日本中から殴られてでも、お客さんの手に届ける……それこそが親の務めだと信じて、今日もせっせと届けています。『キンコン西野のサイン本屋さん』というオンラインショップを立ち上げ、そこでサイン本の受注を取り、毎朝、絵本にサインを入れて、梱包し、配送。

小細工などありません。胸を張って言えるのは、僕が世界で一番サイン本を作っているということ。親が子に御飯を作ることを「努力」と呼ばないように、こんなものは努力でも何でもありません。だって、せっかく生まれた作品です。届けたいじゃないですか。

作品の完成を「お客さんの手に届くまで」とすると、販売に口を挟むことになるので、一部の方々から「商売人」と揶揄されることもあります。なんとでも言ってくれ。そんなことより、僕は、生まれてきた我が子を全力で守りたいです。作品制作の最後の工程を「お客さんの手元に届ける」と決めた後、今度は、「作品をどの段階から作るか?」という問いと向き合いました。

たとえば、キャンバスに絵の具で絵を描く以上、それが立体作品になることはありません。その作品が音を奏でることもありません。同じルールで作られたものは、概ね同じ形になります。

少し踏み込んだ例を挙げると、テレビ番組はスポンサーさんから受け取った広告費を「番組制作費」として、そのお金で作られています。したがって、番組のスケールが、その番組に割り当てられた予算を上回ることはありません。番組の企画会議で、どれだけ面白いアイデアが出ようとも、採用されるのは「広告モデルによって割り当てられた予算が回収できる範囲の企画」に絞られます。スポンサーさんからの広告費から作られる以上、「全編フルCGの番組」など作れないわけです。

同じルールで作られたものは、概ね同じ形になります。したがって「まだ誰もやったことがない面白いモノ」を作るには、ビジネスモデルから再構築する必要があります。人はそれを「ビジネス」と呼びますが、僕は「作品作り」と呼んでいます。発想の具現化に制限をかけていない作品は、発想の具現化に制限をかけなくてもいい「制作基盤」から作らないと生まれません。その基盤を作る作業を「作品作り」と呼ばずに、何と呼びましょうか。

キンコン西野の活動を語る上で外せない「シナジーマップ」

『えんとつ町のプペル』を支える西野亮廣の思想を具体化した「シナジーマップ」。宣伝もお金もすべてを掌握することで、壮大な作品作りを可能にした
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僕は、「自分が手がけているプロジェクトが、他のプロジェクトに、それぞれどのような影響を与えているか?」を可視化した『シナジーマップ』を作っています。スケッチブック上に、今現在、自分が手掛けているプロジェクトを書き出し、それらを「AD(宣伝)」「ID(世界観)」「マネー」の矢印で結びます。

たとえば、僕は毎朝「ブログ」を書いています。この「ブログ」は「ビジネス書」や「オンライラインサロン」を宣伝する為にやっているので、ぞれぞれに「AD」という矢印が伸びます。「ブログ」での収益を目的としておらず、「ビジネス書」や「オンラインサロン」の宣伝を目的としているので、この時、何より大切なのは「こいつの言うことには嘘や誇張がない」という「信用」です。ということで、僕は「ブログ」から広告(バナー)を外しており、僕の「ブログ」が何百万人に読まれようが、僕には1円も入りません。そうすることによって、収益化を目的としている他所様のブログとは内容が大きく変わってきます。

「ビジネス書」は「オンラインサロン」を宣伝する為に書いているので、「ビジネス書」から「オンラインサロン」に「AD」という矢印が伸びます。収益を目的としておらず、かつ、一人でも多くの方に「ビジネス書」を読まれることが「オンラインサロン」の宣伝になるので、「ビジネス書」で発生した印税は全額「ビジネス書」の宣伝費に使います。収益のことだけ考えても、印税よりも、月額980円のオンラインサロンメンバーが増えた方が大きいわけですね。こうして「ビジネス書」で収益を作らなくても良い基盤を作ることで、競合との差を作ることができます。

「オンラインサロン」では、毎朝、現在進行形で僕が手掛けているプロジェクトの裏側を綴っております。毎朝2000文字〜3000文字ほど。僕の「オンラインサロン」は月額980円で、現在、会員数は7万1000人なので、「オンラインサロン」の年間売り上げは8億3000万円ほど。ここで生まれたお金は、サロン運営費(スタッフさんの給料を含む)を除いた全額を、エンタメ投資か、被災地や貧困国や子育て支援に回します。

絵本は「5000部売れればヒット」という世界。たとえば著者印税が10%だとして、1000円の絵本が5000部売れると(ヒットすると)、作者に入ってくる印税は50万円です。この印税はそのまま作者の生活費に回され消えてしまうので、制作費に回すことができません。まさか人を雇うことなどできません。したがって絵本作家は「制作費がかからない範囲での制作活動」を余儀なくされるわけですが、僕の「絵本」の制作費は「オンラインサロン」の売り上げから出ています。「オンラインサロン」から「絵本」に「マネー」の矢印が伸びているわけですね。これにより、「制作費がかかる絵本」の制作が可能になります。

作者が思い描いた世界の具現化に制限がかからない。この基盤を作ることが非常に重要だと考えています。

そこで作られた絵本が面白ければ面白いほど、その裏側(メイキング)に需要が発生するので「絵本」から「オンラインサロン」に「AD」の矢印が伸びます。そして僕の「絵本」は、それ単体での収益を目的としていないので、「絵本」の印税は全額「絵本」の宣伝費に回します。

そうして生まれた絵本『えんとつ町のプペル』からは、えんとつ町の世界観を再現したスナック「CANDY」や、音楽フェス「天才万博」や、レンタル会議室「ZIP」や、宿泊施設「頓堀宿泊室」や、「各地の個展」や「グッズ」に、「ID(世界観)」の矢印が伸びています。その世界観のファンは、それらの施設に足を運ぶので、「ID」と同時に「AD」の矢印も伸びています。

「CANDY」や「天才万博」や「ZIP」や「頓堀宿泊室」や、「各地の個展」や「グッズ」の制作の裏側は「オンラインサロン」で綴っているので、それぞれの施設から「オンラインサロン」に向けて「AD」の矢印が伸びています。どこにも矢印が伸びないプロジェクトや、どこからも矢印が伸ばされていないプロジェクトでは他者と差別化を図ることが難しいので、そういったプロジェクトは潔く畳む。こうして全ての活動を有機的に結ぶことによって、それぞれの活動の役割を明確化し、そこで発生したエネルギーを循環させ、無駄をなくし、圧倒的オリジナル作品を生み出す為の基盤を作ります。ここから作らないと『えんとつ町のプペル』なんて作れないんです。

世界を変える

世間は既存のルールに乗る者を求め、そこから外れた者を容赦なく叩きますが、一つ確かなことは、既存のルールから生まれるモノは概ね同じ形をしていて、それでは世界を変えることはできません。いつの時代も、圧倒的オリジナルは「違うルール」から生まれます。

世界を変えるには、ルールから変えなければいけません。ただし、そこには大きな痛みが伴います。ルール変更を快く思わない人がいます。自分が想像できないことに不快感を覚える人がいます。

映画『えんとつ町のプペル』では、原作・脚本・製作総指揮のほかに、主題歌の作詞作曲も担当させていただいております。作品タイトルそのままの「えんとつ町のプペル」(歌・ロザリーナ)という曲です。その曲の二番の歌詞は、こんな感じ。

「夢を持てば笑われて、声を上げれば叩かれる。見上げることができない町で、僕はどうだ? 輝く星が煙に飲まれて、明日が見えなくても、ゆこう、嵐の海を越えて光の世界へ。もう聞こえているんだろう? 勇気の産声を」

日本語表現としては「勇気の産声が」の方が正しいのかもしれませんが、曲の展開(このあとサビなんです)を考えたときに「勇気の産声を」の方が気持ちが良かったので「を」を選びました。

そんなことはさておき、この曲で歌っているのは、現実世界の話で、挑戦者の半径5メートル以内で起きていることです。まだ誰もやったことがない挑戦には痛みは付きもので、くわえて指針となるようなものがありません。来る日も来る日も手探りです。そんな中、身体を前に進めてくれるのは、胸の中の一番奥の部屋から響いてくる「それでも、やりたい」という声で、あとはその声に従うか否か。

僕の場合、その声は「テレビで売れたい」でもなく、「人気者になりたい」でもなく、「エンタメで世界を獲りたい」でした。

そうなると、当然、「ルール変更」にメスを入れ、そこから作品を作らないといけません。最初は理解(共感)されないことなんて百も承知です。だって、誰も「エンタメで世界を獲りたい」なんて考えていないんだもの(笑)。

2018年、ビジネス書『新世界』刊行にあたり西野が自腹で宣伝をうった際の毎日新聞紙面。第86回毎日広告デザイン賞最高賞を受賞した
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もし貴方が、目の前の人達が求めているものに満足できないのであれば、どうか「自分が思い描いた世界を、制限なく具現化できる環境作り」から手をつけて欲しい。そこから工事を始めないと何も変わりません。ただし、そこの工事を許さない人が、かなり存在します。味方の姿が見えなくなるほど。それでも、やれるか?

今日はこれからアフレコ収録。コロナシフトで色々スケジュールがズレましたが、ようやく今日でアフレコ収録が終わります。俳優の皆様が全力で作品と向き合ってくださって、おかげで本当に素晴らしい収録ができました。主演俳優さん(※10月20日に発表になります)から「この作品は、特に今の時代の人達に絶対に届けなきゃいけない作品ですね」というお言葉を頂戴しました。

映画のスタッフは皆、大きな挑戦に伴う痛みを知っています。自分達の一世一代の大勝負の年に、100年に一度のウイルスに襲われたので、コロナがもたらした痛みもよ〜く知っています。だからこそ、チーム一丸となって「今まさに勇気を振り絞ろう」としている人達に向けた『えんとつ町のプペル』という応援歌を作っています。貴方に届くといいな。

(第9回は10月20日[火]更新予定)(ザテレビジョン)

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