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NYから一時帰国した駐夫が目の当たりにした“背筋が凍る”日本のコロナ対策

  • 2020.10.2
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NYの隣、NJ州に住む小西一禎さん。日本に一時帰国することの想像以上の大変さと、帰国期間中に感じた日本国内におけるコロナ対策のゆるみとは――。

スーパーで買い物中の女性
※写真はイメージです(写真=iStock.com/recep-bg)
海外からの帰国者のリアル

8月から9月にかけて4週間ほど、所用で日本に一時帰国した。コロナ禍で世界的に移動が制限されている中、これまでにないほどの不安を抱えての飛行機移動、母国滞在となるため、入念に準備し、日本国内でも必要以上に神経をすり減らす日々が続いた。海外からの帰国者・渡航者には、一律14日間の自主隔離を求める日本と、ごく最近まで日本から来た人には強制的な隔離を要してこなかった米国。いつ収束するのか、誰も分からない現状を踏まえ、日米双方で重ねた実体験から浮き彫りになった事象を紹介してみたい。

「399番さん、検査結果は陰性です。偽陰性になることもままあるので、引き続き気を付けてください」。

ニューヨーク・JFK空港から14時間もの長旅を終え、羽田空港への到着直後に待ち受けていたのは、新型コロナウイルスの検疫検査だった。数カ月前に米国で受けた検査で陰性だったとはいえ、検疫官からこの言葉を聞き、検査前後の張り詰めていた心から解放され、ひとまず安堵した。同時に、偽陰性可能性の指摘を受け、緊張でしばし忘れていたロングフライトの疲れが、あらためて出てきたのを思い出す。

抗原検査で30分で陰性が判明

日本の水際検査は7月末、鼻の穴に綿棒を突っ込むPCR検査に代わって、唾液で調べる抗原検査に変更された。結果が出るまで数時間かかり、本人への通知が翌日以後になることもあったPCR検査と異なり、抗原検査は約30分で判明。PCRで行われていた当時、家族の迎えなどがある人たち以外は、座席にビニールシートが貼られ、車窓を見えないようにしたバスに乗り込み、政府が用意した隔離先のホテルに連れていかれ、結果が判明するまでの滞在を余儀なくされたと聞く。

白黒出ていない段階での「強制隔離」は避けたかったため、政府の方針が帰国直前に変更されたのには「ついていた」としか言いようがない。抗原検査は、隣の人とボードで仕切られた1メートル四方のブースに案内され、手渡された漏斗と試験管を組み合わせて、定められた量の唾液を入れる。余談だが、目の前にはレモンの写真が貼ってあった。唾液を出しやすいように、という配慮なのだろう。

自主隔離2週間の宿泊や移動費用は自腹

結果を待つまでの間、機内で書いた書類をもとに、係官から「今日からの宿泊場所」や「隔離明けの宿泊先」のほか「それらまでの移動手段」「保健所からの連絡手段」などを細かく尋ねられた。日本よりも感染が拡大している国から帰国した人たちを前に、防護服ではなく、マスク姿で淡々と対応する検疫所係官たちの働きぶりには頭が下がる思いだ。一方で、頭の中では理解しているが「こんなことまで、当局に伝えなければいけないのか」との思いも去来した。

その後の結果通知で、陰性ならば問題なく入国できる。ただし、その翌日から2週間の自主隔離が必要だ。私はAirbnbを通じて、15泊で約10万円の都内の民泊一軒家を確保。タクシーも含めた公共交通手段の利用は一切禁じられており、一律1万5000円のハイヤーで移動した。これだけで、それなりの額に上る。そして、これらはすべて自腹だ。羽田で渡された書類には「国内の滞在場所等の手配を済ませて帰国・入国するのが前提」と明記されている。

航空券代はともかく、宿泊・交通費用の全額負担がネックとなり、帰国したくても帰国できない在外日本人たちがいる。ニューヨーク在住の女性が、政府に対し14日間自主隔離中の宿泊先と移動手段の確保を求める署名を集めようと立ち上げたサイトには「お金を持っていないなら帰国してくれるな、とのメッセージが受け取れる」「タイでは政府が隔離施設を用意している」などのコメントが集まった。

日本に帰りたいと願う人の中には、コロナ禍で現地での仕事を解雇されたり、学生寮から退くよう要請されたりした留学生らもおり、金銭的に困窮している人たちもいるはずだ。現金10万円の一律給付を巡る政府・与党内の議論では、海外在住日本人の存在がほとんど念頭に置かれていなかった。海の向こうにいる日本人に対し、もう少し寄り添うような政策が採れないものかと考えさせられる。

居酒屋の様子に背筋が凍る思い

さて、14日間を振り返ると、とにかく長かったの一言に尽きる。不要不急の外出や人との接触は可能な限り控え、公共交通機関の使用は引き続き禁止。羽田で係官に確認したところ、人込みを避けての飲食料買い出しは問題ない、との回答を得ていたため、それに従い行動した。

テレビからは、都内の感染者が数百人とのニュースが毎日のように報じられ、一定の緊迫感が漂っていた。片や、客同士の間隔10センチ足らずで、ひしめき合って酒を飲んでいた店の様子を目にし、背筋が凍る思いをした。世界最悪の感染拡大国から来た身ゆえの「矜持」みたいなものが不思議と沸き起こった。ニュージャージー(NJ)州、ニューヨーク(NY)市はようやく9月に入り、客数を店舗定員の25%に絞った上での店内飲食を解禁したばかりだ。

米国のスーパーはおおむね入店者数を制限しており、行列ができるのが常。その一方、待つことなく、すんなり入れる日本のスーパーに拍子抜けした。スーパーなどの入り口に置かれた消毒液を、退店時に使う人がほとんどいない状況を目の当たりにし、他人に移さない美徳を感じながらも、自分の身を守る必要性を忘れてはならないと感じた。

都内での所用を済ませ、米国に戻ると、検疫検査どころか体温測定もなく、空港からの公共交通機関も自由に使えた。私が住むNJ、お隣NY両州は、日本から来た人に対する14日間の隔離は9月末から一部義務化されたが、それまでは「推奨」にとどまっていた。これとは別に両州などは、感染拡大が続く国内30前後の州からの流入を制限。来た人は14日間の隔離対象とし、違反者には罰金が科せられることもある。

意識のゆるみが起きていないか

日本の水際対策は米国と比べると、充実ぶりに雲泥の差がある。日本での隔離中、厚生労働省からは健康状態を確認する電話が毎日掛かってきた。思想信条を盾にマスクをしない人がいる米国と異なり、ほぼすべての人がマスクを着用。規律正しき日本の姿を再認識するばかりだ。それでも、心のどこかに違和感が引っかかる。Go To トラベルが10月から東京も対象になるとのこと。年内や年明けの衆院解散・総選挙も取りざたされている。

米国よりもいち早く被害拡大に見舞われた日本で、コロナとの共存というよりは、コロナ対策に飽きているような空気感がないと言い切れるだろうか。米国は、秋口になって再び感染者数が増加している。インフルエンザの本格化を前に、単なる杞憂に終わってくれればよいのだが。

写真=iStock.com

小西 一禎(こにし・かずよし)
米国在住・駐夫 元コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員 共同通信社政治部記者
1972年生まれ。7歳の長女、5歳の長男の父。埼玉県出身。2017年12月、妻の転勤に伴い、家族全員で米国・ニュージャージー州に転居。96年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。3カ所の地方勤務を経て、05年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。15年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。2019年1月~9月、米・コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員。研究テーマは「米国におけるキャリア形成の多様性」。ブログでは、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。世界中の日本人駐夫約60人でつくるフェイスブックグループを主宰。

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