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スパルタ式ダイバーシティ研修で、保守的な男たちの意識はどこまで変わるのか

  • 2020.9.23
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内永ゆか子さんが率いるNPO法人J-Winが、各社の男性管理職を集めて実施するプログラム「男性ネットワーク」。その活動の中で、男性たちが、“女性のモチベーションを奪う男性集団の悪意なき言動”に気づき、行動変容を起こしていくプロセスと、参加メンバーがつくった「男性がこころがけるべき行動原則10カ条」の中身とは――。

3人のビジネスパーソンが屋外を話しながら歩く
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Yagi-Studio)
初日のキツい洗礼

「最初はえらいところに来ちゃったという印象でしたね」――そう語るのは、東レ経営研究所でダイバーシティ&WLB推進部長を務める宮原淳二さん(55歳)。日本のダイバーシティ(多様性)推進をミッションとするNPO法人J-Win(内永ゆか子理事長)は、さまざまな企業の男性管理職を集めて、とりわけ女性社員の活用推進を目的とした1年間・月1回のプログラム「男性ネットワーク」を開催している。そこに参加した宮原さんは、初日早々にキツい洗礼を浴びたようだ。

「内永さんの講話が1時間ぐらいでしたが、最初からズバズバ言うわけです。その後、質疑応答の時間になってさらにパワーアップされた感じで、私たちの質問に対し、『そんなこと言ってるからダメなのよ』とバッサバサ返される。ある会社の管理職の方が、『女性社員がキャリアアップにあんまり積極的じゃないんですよ』という意味の質問をしたら、『それは、あなたがそう思っているだけで、本人たちは本気で思っていませんよ』と返されていました」。内永さんってすごい人だな、というのが第一印象でした(宮原さん、以下同)。

このプログラムのキーワードは「オールド・ボーイズ・ネットワーク(以下OBN)」。“マイノリティ”である女性社員のモチベーションを奪ってきた、男性集団の悪意なき言動やその文化全般のこと。プログラムの目的は、このOBNの「存在」に気づき、ハラ落ちして自社内の女性活用推進に役立てることだ。

宮原さんは、前職の資生堂時代からワーク・ライフ・バランスについては社内で中心的な役割を担い、転職した現在でも、ワーク・ライフ・バランスや女性活躍支援など、積極的に関わってきたが、内永氏の言葉に対しては「反論の余地もなかった」と振り返る。

上っ面だけではない、本気の集まり

「上っ面だけじゃないというのが、私も含めた男性たちの印象だったと思います。男性の、しかも管理職だけで女性活用をガッチリと学ぶ会合って、あんまりないですよね。年1回くらいしか集まらないセレモニー的な『女性の活躍を応援します』っていう集まりはあまり好きじゃなくて参加していません。できれば男性会員と現場での女性に対するマネジメント手法を悩みながら学んでいく実践的な会合がないかと探していたところ、この会合に出合ったのです」

月1回開かれる分科会の参加メンバーは約20人で、うち宮原さんが加わったチームのメンバーは、業種の異なる6人。「女性が社員の半分くらいの外資系生保もいれば、男性9割の重厚長大企業の方もいて、一社一社違う感じですね。テーブルを囲んで話し合う1時間があっという間でした。皆さんは、共通の問題意識を持っており、受け身の方はいませんでした。誰かがしゃべればすぐ他の誰かがしゃべる。社内事情も含まれるので、一歩外に出たら口外しない紳士協定が前提ですが、自分の体験などを洗いざらい話していましたね」

「指示には120%で返す」「ランチは最短で」を見直す

主に40代、50代の男性管理職。会社は違えど、育ってきた環境はかなり近い。女性の部下についての「あるある!」話がどんどん飛び交ったという。

東レ経営研究所 宮原淳二さん
東レ経営研究所 宮原淳二さん

「例えばある生保の方が言ってましたが、『われわれの世代は上からこれやれ、と言われると、言われなくても120%で返すのが当たり前。今の人たちが100で返したときに、ちょっと機嫌が悪くなる自分がいる』『120%と言われなくても当然やるもんだ』と。そういう心情は確かにあるなあと思いました。対面できちんと伝えればよいものを、それが言えないのです」

職場の冷房の快適な設置温度や、ランチの取り方にも男女間で大きなギャップがあった。コロナ禍で少し状況は異なるが、しゃべるヒマもなく食べてすぐ自席に戻る管理職はいても、皆で黙ったままランチを取る女性たちはそうはいない。

「われわれはいかに短い時間でランチを食べて職場に戻るかを考えていました。早く食べる人は仕事ができる、という観念がありましたから。でも彼女たちは1時間なら1時間、コミュニケーションの場だと捉えて目一杯使います。そこで早く食事を終えて暇そうにしているのは良くないね、ゆっくり食事をしながら話に耳を傾ける必要もあるよね、という話も出ましたね。食事に関しては、夫婦間でも言えることですが(笑)」

「役員に忖度しすぎ」女性からの厳しい意見

女性側から、男性のOBNはどう見えるのか。J-Winの女性メンバーが回答したアンケート。女性社員が日々感じている(いた)モチベーションの低減・職務遂行上の弊害となりうる「男性管理職が無意識に行っている職場での行動や考え方」を、一人3個程度ずつ記したものだ。その結果を落としたエクセルを、栗原さんチームの各人が持ち帰って読み返すのだという。

「かなり、きつかったですね(苦笑)。たとえば部長決裁を貰うために、部内で話し合ったことを提案しますよね。そこで、役員が提案とは違うことを言うと、管理職は『私もそう思ってました』と忖度してしまう。部内の提案がまったく変わってしまうのを目の当たりにした女性部下の方の、『せっかく部内で検討したのだから、そこでもっと戦ってほしい』という指摘もありました。『今までの打ち合わせは何だったのか』とか、『役員に忖度し過ぎ』とか、そんなことがいっぱい書いてありました」

「仕方ない」「組織とはそういうものだ」という男性と違って、そんなリーダーは人間的に尊敬できない、と部下の女性たちは見ているのだ。

過度の配慮は女性のやる気を奪う

「育児短時間勤務中にかけられた『もういいから、早く帰っていいよ』という言葉に過度の配慮を感じたという意見もありました。途中でその仕事は男性部下に渡されたようで、『男性ほど期待されてないんだな』と書かれている方もいらっしゃいましたね。また『同期でもチャレンジタスクは男性に、サポートタスクは女性に割り振られる』との意見もありました」

しかも、管理職側は意外にそれを疑問に思わない。

「一緒に営業にいくと、先方と話すのは男性、議事録をつくるのは女性と決まってしまっている。そういうのを見ていると、だんだんやる気がなくなってしまう。私は補助的な仕事を任されているんだとアンケートには出ていました。J-Winに来る女性は意識の高い方が多いので、過去に自分がイヤな思いをしたことはしっかり記憶していて、それを文章化することに長けている。すべて読ませていただきましたが、本当に心に響きましたね」

このアンケートを読み込んだ6人は、合計385のコメントを「キャリア支援」「仕事」「子育て」など10項目程度にカテゴライズし、おのおので最も印象に残ったコメントを各自3つずつ選んで感想を共有し、なぜ男性管理職がそういう行動を起こしたのかを検証しリスト化した。……というと聞こえはいいが、「はっきり言えば男の悲哀、言い訳探しだった」と宮原さんは苦笑する。

「たとえば、『仕事は気に入った人に任せる』というコメントには、あ・うんの呼吸でやったほうがスピーディで結果も出るから、といった理由が出てきました。『男性は食事が早い』や、『いっしょに歩くと先に行ってしまう』には、別に嫌がらせでやっているわけではなく、速く歩いたほうが効率的だから、という軍隊の名残りみたいな文化が体に染み込んでいるせいかもしれません。自分がそういう文化で育ったものだから、ついつい部下にも同じことを求めてしまうのだ、といった言い訳が出ました」

「男の言い訳」からの大転換

ここから大きな転換が起きた、と宮原さんは言う。無意識のうちにやっていることが、職場の女性たちをどれだけ傷つけているかを知ろうじゃないか。やったらイタがられる、モチベーションを下げることを気づかずやり続けるのは、今後職場から生まれるかもしれないさまざまな可能性を、確実に潰していることになる。何とももったいない。

分科会の成果を職場にフィードバックしたメンバーの中で、何か変化はおきたのだろうか?

「持ち帰って実際に試してみたいという人もいました。雰囲気がよくなったとか、データとして取っていませんが社員の定着率が上がったという話は聞いています。私も女性の部下へのプラスのフィードバックを心がけました。他のメンバーからも冷房の話や、一緒にランチをとる際には、相手のペースに合わせながら、コミュニケーションをとることを実践された方もいました。分科会に参加したおかげで、だいぶ職場の雰囲気は変わってきたようです。私も今後は仕事の分担も性別ではなく仕事ベースで行い、部下のキャリアプランに深く関わっていくことを目標にしています」

冒頭の内永理事長の指摘にある、OBNのあおりでキャリア形成に消極的な女性はたくさんいる。そうした女性たちを”変える”ことに重きを置く宮原さんは、1on1ミーティングで対応していくという。

「『何かあったら責任持つから』『支援するから』などと最初に伝えておけば女性部下も安心するけど、『後は勝手にやって』など、任せすぎて放置すると不安が広がっていきます。男性はある程度放置されるのに慣れているでしょうけど、女性はやっぱり適宜、仕事の進捗状況や、今仕事で悩んでいることを頻繁にきく必要はあるかなという気がしますね。まあ、女性でも『ほっといてほしい人』とか、たまに確認すればいいという女性もいますから、それぞれの個性に応じて……ではありますが」

男たちが考えた「男性が心がけるべき行動原則10カ条」

宮原さんら6人は、最後に男性が心得るべき行動原則を10カ条にまとめた。

第1条【行動(成功体験)の押し付け】

成功体験はあなたの宝物として心の中にしまっておきましょう

第2条【上司への忖度】

上司の顔色よりも部下の仕事の成果を見ましょう

第3条【男女間の不平等】

仕事の進めやすさ、振りやすさに関係なく、平等に仕事が分担できるよう、マネジメントしましょう

第4条【傾聴がない】

話の腰を折らず、最後までしっかり聞きましょう

第5条【理解不足】

一人ひとりの仕事に対する価値観を尊重しましょう

第6条【放置】

仕事の目的、背景をしっかり説明した上で、部下に仕事を任せ、伴走しましょう

第7条【男性固有のネットワーク】

部下から誤解を招くような固有ネットワークは避けましょう

第8条【男性固有のイベント】

物事はオープンな場所で決めましょう(喫煙所、飲み会、ゴルフ場等では決めない)

第9条【生活リズムの男女差】

歩行や食事のスピードに配慮しましょう
冷房のかけ過ぎに注意しましょう

第10条【合間(ランチタイム、移動時)】

歩行中もランチタイムも(部下との)貴重なコミュニケーションの機会と捉えましょう

「第1条については、多いんですよ、武勇伝を話す男性の方が。たとえば昔の残業100時間とか、そんなことを。心の中にあるだけならいいのですが、他人に言ってしまう方がいるんです。食事のときも特にワリカンだったら仕事の話はヌキで。もっと人間的な話がしたいですよね。じゃないと誰もついてきませんからね」

「上」はいなくなるから放っておけばいい

第2条については、それこそダイバーシティの神髄だ、と宮原さん。

「異なった意見をもつ上の役職の人とも、とことん議論する過程って大事じゃないですか。そもそも担当レベルのほうが、上より現場の情報を持っていますし、上の意見は、過去にはそうだったかもしれませんが、今は競争環境も変わっています。でも、自分の出世もあるから、役員には気に入られたい。そんな豹変ぶりを、横で見ていてがっかりしているんじゃないでしょうか」

開講当初、“上が変わらない”“組織が変わらない”と言うメンバーたちに、内永理事長が放った「上は放っておいていい。変わんないんだから」「上はいなくなる。あなた方から変えていかなきゃ」という檄も刺さっていたようだ。

この10カ条を観音開きの冊子にして各社で配ったり、各職場のパソコンの壁紙やスクリーンセーバーに強制的に記載する等々を計画したものの、残念ながらコロナのおかげで全員が集まる場が消滅。4月のオンライン会議を最後に、プログラムは5月でいったん打ち切りとなった。

「もったいないですけど、新しく今期から参加する人たちは、前回から引き継ぐことに前向きのようです。また一からやるよりも、われわれの期がここまでやったことをどう展開していくかという考え方もあるかもしれません」

今後の展開について、何か腹案はあるのだろうか。

「内永さんの力も借りつつ経営層に10カ条を渡すという話も出ています。ただその前に、社内勉強会みたいなものを持ち回りでやっていきたいというメンバーもいます。私も10月にメンバーの会社の勉強会にアドバイザーとして参加する予定でいます」

この成果を共有し、おのおのの社内でどう進めていくかについてアイデア出しを行っているところだとか。今、大企業の大半にはダイバーシティ推進部門がある。そうした部門の人たち向けに成果を伝える活動だという。少しずつでも、こうした活動が拡大していって、日本企業の内側からの活性化・生き残りにつながってほしい――これは女性の働き手だけでなく、心ある職業人たちの切なる願いでもある。

写真=iStock.com

西川 修一(にしかわ・しゅういち)
プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。

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