1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 準備しておかないと危ない! 在宅シフトでこれから働く日本人に起こる意外な大変化3つ

準備しておかないと危ない! 在宅シフトでこれから働く日本人に起こる意外な大変化3つ

  • 2020.9.16
  • 1080 views

コロナショックによって一気に広がった在宅勤務。これは、会社員の今後の働き方や生活スタイルにどんな影響をもたらすのでしょうか。職と住の境界があいまいになることで起こる「大問題」とは──。家族社会学が専門の筒井淳也先生が解説します。

建築家の職場(自宅)
※写真はイメージです(写真=iStock.com/Pekic)
ワークスペースの掃除は家事か仕事か

在宅勤務は、コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言で全国に広がりました。宣言の解除以降は出社に戻す企業も出てきてはいますが、それでもコロナ以前に比べると、在宅勤務をしている人の割合は間違いなく増えています。

日本では、およそ100年かけて「働く場」と「住む場」の分離が進んできました。現在の会社員の働き方や生活スタイルも、それを前提として出来上がっています。しかし今、この2つの場は、逆に融合するほうへ向かいつつあります。これは大きな転換点となるはずです。

この現象は今後、働き方や生活スタイルに大きな変化をもたらすでしょう。そうなった時、私は3つの問題が起きるだろうと考えています。

ひとつは、有償労働と無償労働をどこで分けるかという問題です。有償労働は賃金・(金銭的な)報酬が発生する仕事のことで、主に会社などの「働く場」で行うもの。無償労働は賃金・報酬が発生しない家事や育児などで、主に「住む場」で行うものです。

職住が分離している場合には、有償労働と無償労働はある程度はっきりしています。しかし例えば、自宅に仕事をするスペースをつくってそこを掃除した場合、これを「仕事」と見るか「家事」と見るかは微妙な判断です。会社で自席の周りを掃除する場合は、出社しているわけですから明らかに仕事の一環です。しかし、これが自宅となると、仕事と家事の境界は途端にあいまいになってきます。

在宅勤務の経費は自腹でいいのか

境界があいまいなケースは、職と住の融合が進むにつれて今後も増えていくでしょう。すると、そこにかかるコストを誰が負担すべきか、という問題が出てきます。

オフィスでは、自席周りの掃除もフロア全体の清掃も有償労働で、そのコストは会社が負担しています。業者に外部委託する場合も会社負担ですし、自分で清掃する場合も業務の範囲内です。これが在宅ワークになった瞬間に、無償労働になってしまう。自宅の仕事部屋の掃除は仕事環境を整えるための業務だと考えられますから、無償労働、つまり個人負担のままでいいのか、という問題が当然出てくるのではないでしょうか。同じことは、仕事中の光熱費や通信費にも言える問題です。

こういったコストについては、在宅勤務はオフィスを自宅へ移転させたものだから会社が負担すべき、と考えるのが基本だと思います。会社側は、在宅勤務の社員に関しては清掃費も光熱費も通信費も個人に負担させているわけですから、そのぶんを業務上の経費として払うか、あるいは給料を上げるべきなのかもしれません。

コストに関しては、すでに何らかの対応策をとり始めている企業もありますから、「うちの会社はまったく気にしてくれない」という人は声を上げたほうがいいと思います。

ただ、掃除のような無償労働は時給に換算しにくく、また光熱費や通信費などは仕事で使った分とプライベートで使った分の仕分けが難しいもの。こうした「見えにくいコスト」を会社にどう主張していくか、これもまたあらためて考える必要が出てきます。

「個人事業主マインド」が必要になる

日本には、会社員が本業にかかった費用を「個人の経費」として計上する仕組みがありません。欧米では会社員も確定申告をするのが一般的で、在宅勤務にかかったコストも個人個人が経費として計上できます。そのため、経費に関しては、会社員も個人事業主と同じように高い意識を持っていることがほとんどです。

対して、日本の会社員は長らく「雇用されている」という意識の下で、職住分離が前提の働き方をしてきました。この職住分離が変わりつつある今、意識のほうも欧米のような「個人事業主マインド」に変化させていく必要があるように思います。

会社に管理してもらう、雇用を守ってもらうといった意識を改めて、働く時間も場所も自分の裁量で管理し、そこにかかったコストは正当に要求していく──。職住融合を前提とするなら、この働き方のほうがメリットを得られるはずです。オフィスの仕組みをそのまま自宅に持ってくるのではなく、在宅勤務ならではの新しい働き方、新しいマインドセットをつくっていくのです。

有償労働と無償労働の境界についても、一人ひとりが事業主という意識を持って会社と話し合い、前例を積み上げていくことで、解決が可能になるのではないかと思います。

意外と大きい「住まい」の問題

さて、二つめの問題は「住まい」です。日本では長く職住分離が主流だったため、住宅は暮らしに重点を置いたつくりになっていることがほとんど。実際、在宅勤務が始まって初めて、「自宅は仕事場に向いていない」という事実に気づいた人も多いのではないでしょうか。ワークスペースがなかったり、家族がいて集中できなかったりして、わざわざシェアオフィスを借りた人もいると聞きます。

住宅メーカーの調査でも、リビングやダイニング、家族と共用の個室などで仕事をした人が多いという結果が出ています。ただ、一口に在宅勤務と言っても、個室の必要性や求める設備条件などは業種によって多種多様です。そう考えると、今後住宅メーカーは「暮らす」だけでなく、さまざまな業種の人の「働く」にも対応できる、柔軟な住まいづくりをしていかなければなりません。

快適に生活できるだけでなく、多様な在宅勤務の形に対応できる柔軟な家。あるいは共用オフィスやコワーキングスペースを設けたマンション。こうした職住融合に適した住まいの需要は、今後ますます増えていくと思います。

「家事分担問題」は、よりシビアになる

三つめは夫婦間の家事分担問題です。これは職住の融合が進むにつれ、さらに大きな問題になっていくと思われます。少し前は、男性は外で働き女性は家庭内にいる形が主流でしたが、在宅勤務の割合に関しては男女で逆転現象が起きているようです。

これは、女性は対人サービスのパートタイムや、介護や保育といったケアワークなど、現場に居合わせる必要がある仕事に就いている割合が高く、逆に男性は在宅勤務をしやすい職種に就いている割合が高いためです。その結果、「夫婦のうち、家事スキルが低いほうが家にいる」というミスマッチが起きています。これも大きな転換の1つです。

最近は家事をする男性も少し増えてきたとはいえ、まだまだ妻に丸投げ状態の人も少なくありません。夕方6時、妻がやっと仕事が終わって帰宅しようという時に、家にいる夫から電話で「今日の夕食は何?」と聞かれたら、家にいて仕事が終わってるのなら食事の支度ぐらいしてよと思うのは当たり前ではないでしょうか。これでは妻の不満はたまっていくばかりです。

在宅勤務の割合が男女で逆転していることを考えると、これからは日本の夫婦の家事負担バランスも変わっていくべきでしょう。この点に、多くの男性が気づいてくれるよう期待しています。

企業は仕事中の家事を認める裁量を与えるべき

最後に、職住の融合が進むと会社側にも意識の変化が求められます。在宅勤務では、会社が細かく時間割を決めたり監視したりすると不要なストレスを招きかねません。仕事の合間に家事をする、夕食後に仕事をするなど、フレキシブルな働き方を最大限認める姿勢が大事です。実際、人間は仕事の裁量権があると仕事のストレスが大幅に減るという研究結果も出ています。

コロナウイルスの収束がいつになるか不透明なこともあり、今後も職住の融合は進んでいくでしょう。企業も働く側も、新しい環境にあった新しいマインドセットを身につけていってほしいと思います。

構成=辻村洋子 写真=iStock.com

筒井 淳也(つつい・じゅんや)
立命館大学教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。

元記事で読む
の記事をもっとみる