1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「人間は生まれながらに美しい」人気番組「クィア・アイ」ジョナサンの言葉に込められた真意とは

「人間は生まれながらに美しい」人気番組「クィア・アイ」ジョナサンの言葉に込められた真意とは

  • 2020.9.11
  • 1449 views

今や世界中で知らない人はいないであろう超人気番組であるNetflix『クィア・アイ』。日本編ではあの水原希子をナビゲーターに迎え、日本女性たちのマインドセットを次々とポジティブに変え、高い視聴率を獲得したことも記憶に新しい。番組の中でも別格の人気を誇り、押しも押されぬスーパースターとして番組を牽引しているのが、底抜けに明るくポジティブな“ヘアドレッサー”のジョナサンだ。

クィアアイ
『クィア・アイ』は、それぞれ専門知識を持つゲイ5人組から成るチーム「ファブ5」が依頼人を変身させるリアリティ番組。左から、ジョナサン・ヴァン・ネス(ビューティ担当)、アントニ・ポロウスキ(フード担当)、タン・フランス(ファッション担当)、カラモ・ブラウン(カルチャー担当)、ボビー・バーク(インテリア担当)。

母校を訪れた時に見せた見事なチアリーディングスキルや、プロレベルのスケーティングテクニックを見せたりと、そこはかとない多才ぶりを見せつけるジョナサン。まさに“ジーザス・クライスト”という言葉がピッタリくるその神々しい風貌に、トレードマークのヒゲがどこかコミカルな印象だ。

本名ジョナサン・ヴァン・ネスは、アメリカ、イリノイ州のクインシーというミシシッピー川流域の小さな町で生まれ育った。曰く「生まれた頃からリトル・ベイビー・クイーン」。幼少期からフェミニンで可愛らしかった彼は、家族全員に大切に育てられ、特に母のメアリー・ウィンターズを「生涯のベストフレンド」と呼んではばからない。

しかし、クインシーシニアハイスクールに進学すると、状況は一変する。学校初の“男のチアリーダー”を務めたものの、試合の最中には物を投げつけられることもしょっちゅう。さらに、“女みたいな男”とからかわれることが増えたことで、学校生活は彼にとって心地良いものではなくなってしまった。そして、周囲の好奇の眼に晒される中で徐々に自己肯定感を失い、遂にセラピーを受けるまでに精神が疲弊しきってしまったという。さらに、そのセラピーの最中に発覚したのが、幼少期に体験した“ある事件”が、大人になった今でも彼の心の奥底にずっと巣食っているという事実だった。

明るくポジティブなキャラクターの裏に

「メディアにはできるだけオープンでいたいと思っているけど、どうしても辛くて話すことができなかったことがあるんだ…でも、話す必要があるね」と語るジョナサン。その口から飛び出したのは、教会に通っていた子供の頃、年上の男の子たちから性的虐待を受けたという何とも重い事実だった。

「幼少期に性的虐待を受けると、大人になっても大きなトラウマになって心をいつまでも締め付けるんだ」と、今でもこの事件を思い出すたびに所構わず涙が浮かんでくるという。

「でも、どんなにフラッシュバックしてきて心が締め付けられても、皆が僕に期待するのはいつもの明るくて“バブリーなJ.V.N”とセルフィー。仕方ないよね」とスターになった今の本音も吐露した。

10代前半でセラピーを受けた後の彼は、これで精神面が回復するかと思いきや、かえって自暴自棄になり、ネットで“遊び相手”を探したり、過食で心を満たそうとしたという。そしてクインシーを飛び出し、トゥーソンのアリゾナ大学に学ぶも、学費を全てドラッグに費やしてしまい、19歳でドロップアウト。だがその後もともと好きだったというビューティー業界を目指して、ミネアポリスのアヴェダ・インスティテュートのビューティシャンプログラムに学び、ソマリアからの難民を含めた人生初の“クライアント”のヘアを手がける。そしてアリゾナからLAに拠点を移し、サロン「サリー・ハーシュバーガー」のアシスタントとして職を得て、ようやくこれで全てが上手く行く——そう思った矢先、サロンでクライアントの髪をカラーリングしている最中に突然倒れこんでしまった。そのまま病院に搬送され、検査で発覚したのはHIV陽性という残酷な事実だった。

人間は、生まれながらに美しい

これを機に、ジョナサンはまるで目覚めかのように“悪い習慣”を全て断つことを決意。すると同時に新たなチャンスも次々と舞い込んできた。もともとエンターテイメントの世界に興味があったジョナサンは友人のエリン・ギブソンとゲイ版『ゲーム・オブ・スローンズ』(2013)を製作したところこれが大当たり。そしてそのスーパーポジティブでユニークなキャラクターはすぐに大物プロデューサー達の知るところとなり、ついに『クィア・アイ』(2016)のオファーが舞い込んできたのだ。

クィアアイ
『クィア・アイ』は“テレビ界のアカデミー賞”とも呼ばれる米・エミー賞を多数受賞

放映開始と同時に番組は全米で大きな反響を呼び、様々なコメントが山のように寄せられた。中でも抜毛症などが原因で髪の薄さに悩む黒人女性のメイクオーバー(変身)を手がけたカンザスシティの回に、ヴァージニアコモンウェルス大学の社会学教授から寄せられたコメントには、彼も思わず感涙でむせび泣いたという。

「(髪が薄くて悩む黒人女性に)こんなに愛情深い心遣いをしてくれるTVパーソナリティは見たことがない」

その卓越したヘアテクニックはもちろん、出会う人全てを幸せにするその笑顔、頭の回転の早さ、そして何より、太陽をもかすめるほど熱くポジティブな“パワー”は、自身の壮絶な人生がもたらした“宝物”だ。

「『クィア・アイ』がスタートした当初は本当に自分のことを話していいのか、と正直躊躇していた自分がいた。同時にもう一人の自分がこう言ったんだ。『でもトランプ政権は自分の大切な“仲間達”(=LGBTコミュニティ)を非難し続けているじゃないか!』と。だから声を挙げてもっとオープンにする必要があるんだと思ったんだ」。そして、自称「美しきHIVポジティブコミュニティのメンバー」はこう締めくくった。

「『クィア・アイ』とは関係なく皆に分かって欲しいのは、人は皆生まれながらに綺麗だということ。誰かに“変身”させてもらう必要なんてないくらいにね」。

プロフィール

Jonathan Van Ness/ジョナサン・ヴァン・ネス
1987年3月28日、アメリカ、イリノイ州クインシーに、代々新聞等のメディアを運営するジャーナリスト家系に生まれ育つ。クインシーシニアハイスクール卒業、アリゾナ大学で政治学を学ぶも中退し、ヘアドレッサーの道を追求すべくアヴェダ・インスティテュートで美容を学ぶ。著書に『Over the Top: A Raw Journey to Self-Love』等がある。

ライター/横山正美
ビューティエディター/ライター/翻訳。「流行通信」の美容編集を経てフリーに。外資系化粧品会社の翻訳を手がける傍ら、「VOGUE JAPAN」やデジタルメディア「VOGUE CHANGE」等でビューティー記事や海外セレブリティの社会問題への取り組みに関するインタビュー記事等を執筆中。

元記事で読む