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コロナ後も、ジョブ型雇用に移行できない日本企業が陥る落とし穴とは

  • 2020.8.27
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リモートワークが普及したことで、これまでのメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ――。という論調が強くなってきました。しかし、そんなに簡単に変われるのでしょうか。日本企業が抱える大きな課題とは。

スタイリッシュなオフィスで会議をする人たち
※写真はイメージです(写真=iStock.com/kokouu)
日本でプロのマーケターが育たない理由

こんにちは、桶谷功です。

最近いろいろなメディアで、「コロナの影響でリモートワークが当たり前になると、ジョブ型雇用が進むだろう」という意見を見かけます。しかしそのたびに私は、「そう簡単にはいかないのでは?」と思ってしまうのです。今回はその理由についてお話しすることにしましょう。

その前に、「ジョブ型雇用」について確認しておきましょう。

「ジョブ型雇用」とは、企業が社員を雇うにあたり、仕事(ジョブ)にふさわしい知識やスキルを持った人材を選ぶ(もしくは育てる)というやり方です。

それに対して過去の日本企業では、まず人を雇ってから、その人に適当な仕事を振っていく「メンバーシップ型雇用」が主流でしたし、いまもそうではないでしょうか。

しかしいまはコロナの影響で、社員にリモートワークを導入する企業が増えています。会社からすれば、ジョブ型は、「どこからどこまでがその人の仕事なのか」「何をもって仕事の成果とするか」が明確なので、リモートワークでも管理がしやすい。したがって、今後はジョブ型が主流になるだろうと言われているのです。

では、私の専門であるマーケティングという仕事は、ジョブ型とメンバーシップ型のどちらがふさわしいのか。マーケティングにはやはりプロフェッショナルのスキルが必要ですから、前者のほうがふさわしいと言えます。

しかし言うまでもなく、現状はそうなっていません。日本企業では部署異動がつきものですから、社歴は長くても「マーケティング部門に来てまだ数カ月です」という人もいれば、マーケティングという仕事がようやくわかってきたところに、「また営業に戻ります」という人もいる。つまり、プロのマーケターが育ちにくいのです。

日本がジョブ型になれない最大の原因

日本の会社の人材育成の基本方針は、専門分野を極めたスペシャリストではなく、どの部署でも使えるジェネラリストを育成することです。しかしジェネラリストといっても実際は「社内でしか通用しないジェネラリスト」なのですが、会社としてはそのほうが都合がいい。なぜなら、よそでも通用するスキルを身につけた社員は、転職してしまう恐れがあるからです。

会社は専門技術を持った社員に転職されたくなければ、常にやりがいのある仕事を提供し、本人に「自分はスキルアップしている」という実感を得られるようにしなければなりません。理想をいえば、次から次へと新しいことに挑戦できて、会社の成長と自分の成長が同期しているような状態が望ましいのですが、急にそういう体制を整えるのが難しいことは容易に想像がつきます。

そして私が思うに、日本企業がジョブ型になれない最も大きな原因は、社員教育にあります。

私は日本企業に勤めたあと、外資系の広告会社に転職しました。日本企業と外資系企業の両方に勤めた経験からいうと、そこで受けた社員教育には大きな差がありました。

日本の会社では入社時に新入社員研修を受けたあと、管理職になって管理職研修を受けるまでの数年間、一度も研修を受けないということはザラにあります。特に、職種に限定したスキルアップのための研修はほとんど行われません。

目の前の仕事より研修が大事だとする海外の文化

先日の厚労省の発表によれば、GDPに占める企業の能力開発費の割合は、日本は0.1%。アメリカは2.0%で、日本の20倍。イギリス、フランス、イタリアが1.0~1.7%と、10倍以上を社員の能力開発に使っている。日本だけが極端に低いのです。

実際に、私がいた外資系広告会社では、一度にホテルに4連泊するような泊まりがけの研修が、年に何度もありました。ロンドン本部から派遣される研修専門部隊に最新のプランニングスキルを教わるグローバル規模の研修があり、そのほかにアジア規模での研修があり、さらに日本の現状に即した国内の研修がある。

研修を受けるのは新入社員から社長まで全社員。もちろん内容は違いますが、たとえ社長であろうと、研修を受けなければならないのです。

そんななかでも私の印象にいちばん残っているのは、研修が「絶対参加」であることでした。

「桶谷さん、研修に参加してください」
「えっ、いま、すごく大事なプロジェクトの真っただ中なんですけど、ここで4泊も抜けるんですか?」

と聞くと、

「もちろん」

とあっさり言われる。

「目の前の仕事と研修のどっちが大事かなんて、研修に決まってるでしょう」という文化なのです。

研修を受けずして最高の仕事はできない

プロジェクトは常に進行中なのだから、待っていてもヒマなときなど来ない。そもそも研修を受けずして、お客様に最高の仕事を提供することなど不可能なのだから、忙しくてもスケジュールをやりくりして研修を受けるのが当たり前。まわりの人たちも、「研修なので抜けます」と言えば、嫌な顔ひとつせずにその穴をカバーする。

一方、日本企業の場合、研修は後回しにされることが多いのではないでしょうか。

「桶谷さん、研修に参加してください」
「いやー、いまちょっと忙しいので」
「じゃあ、しょうがないですね」

となりやすい。

ちょっとした部内研修ですら、全員が参加できる日を苦労して設定した揚げ句、簡単にリスケになったりします。つまり外資系企業とは、研修というものの位置づけが違うのでしょう。

OJTだけでは不十分な理由

日本では研修よりも、「上司の背中を見て学ぶ」ようなOJTが重視されているようです。もちろんOJTも、オペレーション能力を上げるためには必要でしょう。しかし体系立った理論がベースにないと、いままでのやり方しかできないので、変化に対応できません。

逆にいえば、理論があれば、何か変化があったとき、その理論に戻ればいい。そうすればどこまでさかのぼって変えればいいかという判断がつく。しかし多くの日本企業では教育といえばOJTが中心です。だからどんな上司のもとに配属されるかによって、自分の身につけられるスキルレベルが決まってしまうのです。

このように、マーケティングのプロを育成する環境としては、やはり外資系企業のほうが進んでいるのが現状です。

ただし、会社の用意してくれる教育がすべてではありません。私は会社員だったころ、社内で有志による勉強会をよく開いていました。終業後の社内で、飲み食いしながら勝手に他社の事例を分析するのです。いまはこういう会は開きにくいかもしれませんが、インターネットを利用した勉強の機会はたくさんあるのではないでしょうか。

ぜひとも自分で学ぶ姿勢を持ち続けてもらいたいと思います。

構成=長山清子 写真=iStock.com

桶谷 功(おけたに・いさお)
株式会社インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っている。

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