1. トップ
  2. ダイエット
  3. 外気温がランニングのパフォーマンスに与える影響と、暑い中で走る上での対策とは?

外気温がランニングのパフォーマンスに与える影響と、暑い中で走る上での対策とは?

  • 2020.8.26
  • 11734 views

酷暑でパフォーマンスが落ちることも。

気温が10~15度の場合

比較的涼しいと思うかもしれないけれど、長く走れば走るほど暑く感じるのは確か。スポーツ医科学専門誌『Medicine & Science in Sports & Exercise』に掲載された論文によると、運動生理学者のマシュー・エリー率いる研究チームは、数十年にわたるエリートマラソンランナーとサブエリートマラソンランナーのパフォーマンスを異なる気温で測定した。その結果、気温が10度か15度かによって、フルマラソンを2時間10分で走るランナーのパフォーマンスが1~2分低下することが分かった。フルマラソンを3時間で走る男性陣はタイムが4~8分落ちた(それ以上タイムが遅いランナーは研究の対象外)。

生理学的な話をすると、高温環境では、筋肉が効率的に動かないことを起点とした連鎖反応が起こる。オタワ大学(カナダ)熱人間工学研究所で2年以上働いたヤニック・モルガット=ソンによると、筋肉が生成したエネルギーの8割は熱になる。寒い日は、それが体を温めてくれるけれど、運動中の熱は邪魔。だから私たちは汗をかく。「血液が皮膚に送られるのも、体が熱を取り除こうとするからです」とモルガット=ソン。余分な熱を筋肉から皮膚に移動させ、汗として放出するという仕組み。

でも、体内の血液量は限られているため、皮膚と運動中の筋肉が血液を取り合う。モルガット=ソンいわく、勝つのはいつも皮膚なので、汗をほとんどかいていなくても、血液が流れてこない筋肉は酸素不足に陥って、効率的に動かなくなってしまう。

気温が15~20度の場合

大半の人にとって、あまりパーフェクトとは言えないコンディション。『The Run SMART Project』のジャック・ダニエルズによると、気温が20.5度の場合、10kmを45分で走るランナーのタイムは41秒遅くなる。同じ気温で行われたエリーの研究でも、エリートマラソンランナーとサブエリートマラソンランナーのタイムが1~4分遅くなった。

暑さの中でトレーニングを始めると、体は素早く順応する。アームストロングいわく、一週間もすれば血漿量が増え始める。その結果、体重が0.5~1kg増えるかもしれないけれど、体液が増えるため汗をかいても脱水症状を起こさない。筋肉に送る血液量を極端に減らすことなく、皮膚に十分な血液を送るのも楽になる。

暑さに慣れてきた体は体幹温度の上昇を予測するので、走るとすぐに汗が出るようになる。また、体がナトリウムを保存するため、汗の量が増える一方で塩気はなくなる。さらに、心拍数が若干低下するので、肺に取り込める酸素量が増え、血流量が増加する。「心臓が鼓動を打つたび、運動中の筋肉に血液が送られて、(発汗により)体が冷えることになります」とアームストロング。

体が慣れれば、精神的にも暑い中で走るのが楽になる。米軍の熱調査員だったマシュー・エリーの妻ブレットは、10日もあれば兵士がイラクの環境に慣れることを突き止めた。「自分をオーバーヒートさせるのではなく、徐々に体を慣らしていくのがポイントです」

気温が20~26度の場合

この気温では、マシュー・エリーのエリートマラソンランナーのタイムが3分、サブエリートマラソンランナーのタイムが最大20分低下した。でも、暑さの影響を受ける度合いはランナーによって異なる。エリーのデータを見る限り、男性よりも女性の方が圧倒的に暑さに強い。女性は男性よりも体が小さく、体積よりも体表面積の割合が大きいので、皮膚から熱を放出しやすいことが考えられる。

もちろん、小柄であることを生かせるのは女性だけじゃない。気温23度、相対湿度90%の中で始まったアトランタオリンピック男子マラソンの金メダリスト、南アフリカのジョサイア・チュグワネは、体重わずか44kg。銀メダルを獲得した韓国のイ・ボンジュも57kg程度だった。

これはマラソンランナー以外にも言えること。『Lore of Running』を執筆した運動生理学者のティム・ノークスが、2004年アテネオリンピックの直前にランニングマシンで8kmのタイムトライアルを行ったところ、涼しい部屋では小柄な男性と大柄な男性のパフォーマンスが同等だった。でも、室温が35度まで上昇すると、小柄な男性は大柄な男性より1.5kmを平均45秒速く走った。この原則は、それほど過酷ではない環境にも当てはまる。

気温が26~31度の場合

ここまで来ると、どんなに汗をかいても良いことがない。「汗をダラダラかいているときは、失われている体熱よりも失われている水分の方が多いですから」とモルガット=ソン。体が限界に近づくと同時に、どれだけ効率的に汗をかいても蒸発が間に合わず、体に熱が溜まってしまう。この状況ではペースを落とすしかない。

アームストロングによれば、外気温が26度、湿度が70%を超えると、パフォーマンスが著しく低下する。このような環境に生半可な気持ちで体を慣らすことは不可能。高温多湿の環境で行われるレースを控えているなら、その環境でしっかりトレーニングを行うこと。でも、レースの1~2日前からは、暑さ対策のトレーニングの量を減らすべき。ここまで頑張ってきたのなら、あなたの体は十分暑さに慣れているはず。それを信じて、ストレスのない状態でスタートラインに立つことに集中しよう。

気温が32度以上の場合

気温が上がれば上がるほど、走るのがつらくなるのは当たり前。2007年の世界選手権女子10,000mに向けて準備をしていたアメリカ人エリートランナーのカーラ・グーチャーは、開催地である日本の夏が超高温多湿であることを知っていた。レース当日も案の定、超高温多湿。「蒸し蒸ししていて息苦しかった」と31度の大阪を振り返る。

だからこそグーチャーは入念な準備をした。長袖長ズボンで真夏のトラックを走り、サウナスーツ(ゴムみたいなジャケットとパンツ)でジョギングを行い、レースの2週間前に日本入り。その結果、「大丈夫という確信を持って」レースに挑み、銅メダルを獲得した。

気温が50度を超える日もある米カリフォルニア州デスバレーで開催されるウルトラマラソン『バッドウォーター135』の常連、グレッグ・プレスラーによると、過酷な環境で走る際に重要なのは、パフォーマンスに影響を与えうる要素(ペースの管理や衣類のチョイスなど)を全て考慮すること。サウナ通いも役に立つ。

水分補給をマスターしておくのもいい。短めのレースでも電解質タブレットを使い、水分補給量を最大化する。そうすれば血流量が増し、脱水症状を起こしにくくなる。

もっと水を飲む練習もするといい。1時間で1リットルが限界とはいえ、プレスラーいわく、それだけの量を飲むことに慣れている人は少ない。その状態で高温多湿のトレーニングを行えば、あっという間に干からびてしまう。ただし、水分の摂取量を増やすなら、電解質のサプリメントも摂取して体内のバランスを摂ることが極めて重要。

酷暑の中でレースを走り切るだけでなく、良い結果も残したいなら、グーチャーの言う「水分補給、その環境に慣れること、早めに現地に入ること」の3点を忘れずに。

※この記事は、ランナーズワールドから翻訳されました。

Text: Richard Lovett Translation: Ai Igamoto

元記事で読む
の記事をもっとみる