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万引きGメンを追尾する「変な男」の正体! スーパー側が「冗談じゃないよ!」と激怒した珍事件の真相

  • 2020.8.23
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万引きGメンを追尾する「変な男」の正体! スーパー側が「冗談じゃないよ!」と激怒した珍事件の真相の画像1
写真ACからの写真

こんにちは、保安員の澄江です。

つい先日、都内の繁華街に位置する大型スーパーマーケットで勤務をしていると、他者からの強い視線を感じました。捕捉された経験を持つ万引き常習者などは、実行前に我々の存在を確認することがあるので、私たちは見られることにも敏感なのです。自分の感覚を信じて周囲を確認すると、どことなくN国党党首の立花孝志さんに似ている40歳前後と思しき体格のいい男性が、チラチラと私のことを気にしています。この上ない早足で移動してみても、しっかりと私の後についてきました。年齢のことはさておき、私も女。見知らぬ大柄の男性に後をつけられて、怖くないわけありません。無用のトラブルを避けるべく、一旦身を隠すことに決めてトイレに向かうと、私の行き先を気にするように、入口の手前までついてこられました。

(変なヤツね! いったい何がしたいのよ?)

立花さんをやり過ごすために、トイレで時間を過ごしていると、お店から持たされている保安員専用のPHSが鳴りました。慌ててボタンを押して電話口に出てみれば、妙に慌てた様子のマネージャーさんが、この上ない早口でしゃべり始めます。

「いま、どこですか? 地下の食品売場に、なんか変な男がいるので、大至急見てほしいんですけど」
「ちょうど地下におります。どんな男ですか?」
「40歳くらいの、大柄な男です。お客さんを見て回っているので、痴漢とかスリかもしれません」

(あの男だ……)

マネージャーとの通話を終えて売場内を探索すると、立花さんはすぐに見つかりました。自分の存在を認知されながらも、相手に気付かれぬよう注視しなければならない状況の緊張感は、計り知れるものではありません。職業柄、正体がバレてしまっては仕事にならず、「何を見ているんだ」と絡まれることもあるので、細心の注意が必要なのです。努めて慎重に追尾すれば、商品には目もくれず、店内を見回したり、お客さんの後をつけている様子が見て取れました。どう見ても買い物に来たようには見えず、その目的が気になります。

(いったい、何をしに来たのかしら?)

立花さんの目的を探りながら追尾していると、複数の和牛肉パックを抱えた中年女性が、私の前を通り過ぎました。普段の習性から、ついつい足を止めて動向を見守れば、不思議なことに立花さんも同じように足を止めて、まさに保安員といった体で商品棚のエンド(商品棚の端のこと)から中年女性を注視しています。まもなく、和牛肉パックをバッグに隠した中年女性は、続けて手にしたホタテのパックも同様に隠して、そのまま店の外に出ていきました。声をかけるべく後を追うと、中年女性と私の間に、立花さんが割り込んできます。

刑事でもないのに、万引き犯に声をかけた男の正体

(まさか声をかけるのかしら?)

幸いにも私の存在には気付いていない様子なので、そのまま追尾して状況を見守っていると、店の外に出た中年女性が立花さんに声をかけられました。会話の内容まではわかりませんが、隠したお弁当を出しているので、そのことについての話であることは間違いなさそうです。

(あの人、刑事さんなのかな? これから、どうするのかしら?)

近頃は、盗撮などの犯行を現認して、被疑者から金銭を脅し取る「盗撮ハンター」による事件なども発生しているため、事態の推移を慎重に見極めます。2人の行き先を確認すると、堂々と事務所に入っていくので、そこで声をかけました。

「警備の者ですが、入店手続きは、お済みですか?」
「いえ、いま万引きした人を捕まえたので連れてきました。店長さんは、いらっしゃいますか?」
「あなたは?」
「これを、専門でやっている者です」

少し待ってもらうよう伝えて、マネージャーさんを呼び出して、事態の詳細を説明します。すると、首を傾げたマネージャーさんが、立花さんに言いました。

「たまたまっていう感じじゃないですけど、警察の方ですか?」
「いえ、実はいま、フリーでこの仕事をしていまして、お仕事をいただけないかと……」
「はあ? 営業のデモンストレーションってこと?」
「まあ、そんな感じです」

勝ち誇ったように胸を張る立花さんに、呆れ顔のマネージャーが怒気を強めて言いました。

「こちらの許可もなく、こんなことを勝手にやられたら困るんだよ。なにかあったら、どう責任取るんだ?」
「え? そんな言い方ないじゃないですか。お礼もなしで……」
「余計なことされたうえに、お礼しろなんて、冗談じゃないよ。仕事を頼むこともないし、迷惑だから二度と来ないでもらえるかな」
「ああ、そうですか。わかりましたよ」

残された中年女性、家族のバーベキュー用に万引きをしていた!?

怒りや恥ずかしさからなのか、途端に顔を赤らめた立花さんは、乱暴にドアを開けて大きな音を立てながら出て行きました。一人置き去りにされた中年女性がポツリとつぶきます。

「あの、私は、どうなるんでしょうか?」
「私も見ていたので大丈夫です。バッグに入れたお肉と和菓子、全部出してもらっていいですか?」

事務室内のパイプ椅子に座ってもらい、デスクに商品を出させると、計5点、合計7,000円ほどの商品が出てきました。被疑者の中年女性は、50歳の専業主婦で、この店の近くで家族四人と暮らしているとのこと。所持金を尋ねれば2万円ほど持っており、お金に困っての犯行ではなさそうです。同じことをして捕まった経験が複数回あるそうで、半年ほど前に罰金刑を受けて20万円ほど支払ったばかりだと、まるで他人事のように話しています。

「今日は、どうしたんですか?」
「明日、家族でバーベキューやるから、つい……」
「盗んだ肉を家族に食べさせて、楽しいバーベキューになるかしら?」
「そうですよね。恥ずかしいです」

警察への通報を終えて戻ってきたマネージャーが、項垂れる女の目に立って、嫌味っぽく言いました。

「A5の和牛肉なんて、おれもなかなか食べられないよ。いいなあ、あんたは。いつでも簡単に食べることができて」

怒り心頭のマネージャーさんは、被害届を出すと熱くなっておられましたが、逮捕者である立花さんの供述調書が作れないことを理由に不受理とされ、厳重注意の上、中年女性に商品を買い取らせることで事態は終結。イライラの絶頂に達したマネージャーさんが、自分のデスクを蹴飛ばして店長さんに怒られたうえ、足の指を骨折されたのが可哀想でなりませんでした。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

澄江(すみえ)
万引きGメン(保安員)歴40年以上。スーパーで品出しのパートをしている時に、万引き犯を捕まえたことがきっかけで、この世界に。現在も週5日は現場に立っている。

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