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男だってメイクがしたい! なのに、コスメが買えないおじさんの話【メンズメイク入門】

  • 2020.8.20
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【執筆したのは……】

鎌塚亮
1984年生まれ。会社員。ある日「そういえば、自分はラクに生きたいだけだった」と気づき、セルフケアについて調べ始める。メンズメイク初心者。
Twitter: @ryokmtk
note: 週末セルフケア入門

コスメを買えなかったおじさんの話

先日、原宿のコスメショップにひとりで行きました。でも、何も買えませんでした。中年男性である自分がひどく場違いな気がして、レジに行く勇気が出なかったのです。

最近、メイクに興味を持ち始めた私。メンズメイクに関する記事やツイート、動画などを検索するようになってまる一ヶ月が経ちました。はじめはドラッグストアやスーパーのコスメ売り場で気になったものを買っていたのですが、いろいろと調べるうちに、専門店でしか売っていないものにも興味が出てきました。いまは、有名ブランドのメンズラインも充実しています。下調べはばっちりでした。

原宿のショップは検索で見つけました。手を消毒して冷房のきいた店内に入ると、入り口近くでは夏用の制汗剤や、新商品がワゴン売りされています。照明は明るめ。フロアの中心には、商品がPOP付きでぐるりと陳列されています。店内はお洒落な人ばかりでした。ほとんどが女性。皆、完璧なメイク。一朝一夕ではなく、長い年月をかけて見つけた、自分に似合うメイクをしていることが一発で分かります。

男性も2、3組いました。ちょっとK-POP風で、カラフルに染めた髪に、シンプルでゆるい服を着こなしています。たぶん二十代前半くらい。軽くアイラインも引いていたかもしれません。それがしっくりきていて、本当にかっこいい。ひるがえって私は、これまでスキンケアもしてこなかった36歳の中年男です。中肉中背。ジムには通っているものの、スマートな体型ではけしてない。ゆるい服を着たら、たぶんただのゆるい人になるだけでしょう。

平日の夜だったので、半袖のボタンダウンシャツにチノパン、ローファー。明らかに「仕事帰りの会社員の男」。誰かと待ち合わせでもしているのかな? という感じ。気にしなければいいのに、どうしてもひとりだけ浮いている気がして、めちゃくちゃ挙動が不審になってしまいました。たぶん、ちょっと怪しかったと思います。

結局、その日は何も買うことができずに帰りました。


知識がないだけ問題

いま、メンズメイクは黎明期なのだと思います。私の場合、洗顔料や整髪料を使い始めたのは中学生の頃でした。洗顔料は家族にもらったもの。整髪料はクラスメイトの真似。髭剃りは家にあるものを使い、高校であぶらとり紙を知りました。それから20年の時が流れ、アイテムは変わったものの、手入れの内容は変わりませんでした。朝起きて歯を磨き、洗顔して顔を剃る。たまにアフターシェーブローションを使い、あぶらとり紙がフェイスシートになっただけ。

肌荒れが気になったことがきっかけで、スキンケアを試し始めたのはつい最近です。やってみて、衝撃を受けました。これは楽しい! 肌が整っていると気持ちいいし、毎日がちょっとだけいい感じになる。これまで一切してこなかったことが、信じられないくらいでした。

なぜまったく知識がなかったのでしょうか? それは、美容に手をかけている男性が周囲にいなかったし、知識を得る機会もなかったからです。私自身「美容は自分には関係ないジャンル」と思い込んでいました。しかし、そうではありませんでした。美容は自分の顔をメンテナンスし、日々をいい感じに過ごすためにあるもの。そういう意味では、洗顔や髭剃りと一緒だったのです。もっと早く知りたかった。

この経験を自分のブログ(『メンズメイク入門の入門』)に書いたところ、予想を超える大きな反響がありました。驚いたことに、性別問わず、ネガティブな意見はほとんどなかった。「実は興味あった」「誰でもメイクしてもいいし、しなくてもいいよね」という声ばかりでした。「なんだ、みんな気になっていたんじゃないか!」と思いました。やる気がないわけではなく、ただこれまでメイクにふれるきっかけがなくて、知識がないだけだったのです。

コットンを手に取る勇気

ブログの記事がきっかけで、VOCEでメンズメイクについて書かせてもらうことになりました。といっても、私は美容の専門家ではないし、知識ゼロから始めたばかりの初心者です。だから、初心者として試行錯誤し、考えたことを書いていこうと思います。読んでほしいのは、これまで美容に親しみがなかった人。でも、興味はあったり、入門したいと思っている人です。

原宿のコスメショップに入ったとき、「メイクは文化なのだ」と実感しました。ランキングコーナーだけでも商品は100種類以上。私はそのひとつも使ったことがなかった。それらは、人の数だけあるはずの「いい感じのメイク」を作るために生み出されている。目がくらむとはこういうことかと思いました。その日、コスメは買えませんでしたが、内心では楽しかったのです。「これはすごい、面白い」と思っていた。まったく未知の、とてつもなく豊かな文化を見つけたからです。私はまだ、コスメ売り場をどんな順番で歩けばいいのかも知りません。どこに何があるのか、どんなブランドが、何を出しているのかも知らない。でも、それだけ楽しみが多いと考えています。

後悔していることがあります。店内には、気になったコスメがすぐ試せるよう、鏡とコットンがいたる所に設置されていました。目当てだった化粧水を見つけたとき、試すことができる環境がありました。

しかし、私は、その小さなコットンを手に取る勇気がどうしても出なかった。それは、人の目を気にしたからです。店内には警備員もいて、私を見ているような気がしました。でも、じっさいにはそうでもなかったはずです。私が勝手におじけづいただけ。だいたい、メンズメイクコーナーがあるのだから、何をはばかることがあったでしょう。あの日、「メンズだってメイクしていい」というメッセージは十分発信されていた。心の準備ができていなかったのは、私のほうだったのです。


男子、鏡の前に立たず?

「メイクなんて男らしくない」と感じる人もいるかもしれません。でも、メンズメイクは男性の良さを損なうものではない。むしろ、もともとある男性の魅力を引き出すためのものではないかと思います。昔は「男子厨房に入らず」という抑圧がありました。でもいまは、男性が料理するのは当たり前ですよね。料理は生きるために必要な技術だから、できるならやったほうがいい。

美容もおなじです。「男子、鏡の前に立たず」なんておかしいですよね。すでに毎日立っているわけだし。お気に入りのメイクをして、いつもご機嫌でいる男。コスメの話題ではしゃいでいる男。いいなと思います。もちろん、そんなことをしている余裕がなかったり、肌が弱かったりして、メイクができない理由がある人もいます。前提として、メイクしない自由があることは明記しておきます。

メンズメイクは、いずれ「メンズ」の冠が取れ、自炊くらい当たり前の、ただの「メイク」になるかもしれません。そうすれば、世界は今よりもうちょっとだけいい感じになるような気がします。「こうだったらいいな、という世界の変化に、あなた自身がなりなさい」とガンジーは言いました。

だから、私はまず私自身が変わってみることで、自分が見たいと思う世界の変化になろうと思うのです。

メンズメイク
メンズメイク

コットンは資生堂、スポンジは粧美堂のものを買ってみました。

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