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大学卒業後はプー? 就活せずにモラトリアム人間になる子どもの見守り方

  • 2015.5.6
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【ママからのご相談】

40代。大学3年生の息子は、本来ならもうすぐ就活ですが、最近になって、「就活しない」と言いだしました。 どうするのかと聞くと、「決めてないけど、いろいろやってみる。選ばなければ就職はできると思う。今は、先輩たちや同期の友達みたいに、銀行員や公務員やSEとして生きる気になれない。人生は一度きりだから、生きてることを実感できる仕事に就きたい。だから就活はしない」と言うのです。

夫は、「一理ある。そのうち考えが変わるかもしれないから、もうしばらく様子を見よう」と言います。そんなのんきな対応でいいのでしょうか。私はどう対処したらいいのでしょうか。

●A. 若い人の力を必要としている職場で、採用情報に出てこないところは無数にあります。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

ご相談者様にしてみれば、さぞかしショックだったでしょう。特に、リーマン・ショックを契機とする日本経済の景気後退により、就活戦線に勝ち残らなければ“生涯非正規労働者”という過酷な現実が待っている(少なくとも、そう考えられていた)時代が5~6年は続いたわけですから、親としては、「就活にベストを尽くして」と願うのは自然な感情だろうと思います。

しかしながら、リーマン・ショック不況のさなかでも、リクルート・メディアを使用していないだけで、若い人の力を必要としている“仕事の現場”が、実は無数にあったのです。その意味で、「生きてることを実感できる仕事を模索したい」という息子さんの考えには、たしかに一理あります。

かつて『モラトリアム人間の時代』という本を著し、わが国における家族精神医学研究の第一人者であった、故・小此木啓吾(おこのぎ けいご)先生の影響を強く受けて精神科を志した、という医師のお話を参考にしながら、息子さんとどう向き合ったらよいのかを考えたいと思います。

●カステラの木箱製造の会社も江戸切子細工の会社も、それを天職と考える若い後継者を必要としている

私自身がリーマン・ショック不況の当時、百貨店や量販店に健康関連商品を卸す会社を経営していました。そのため、あれだけの不況のさなかでもコンスタントな受注があり、伝統の技を継承してくれる若者を探し求めていた会社を何社も知っています。

ほんの数例を挙げるならば、“カステラの木箱”を職人の手作りで製造している会社や、職人の手と最新の先端技術の両方を駆使して“江戸切子細工のガラス工芸品”を製造している会社などが、これに当たります。

こういった会社は、中途半端な気持ちで就活学生たちにどっと押し寄せられても困るので、リクルート・メディアに採用情報を出したりしません。何かの偶然でその工芸品の素晴らしさと出会った若者が自分から訪ねてくるという奇跡を待つのみなのです。

『「決めてないけど、いろいろやってみる」という意味は、奇跡の仕事と出会う機会を、いろいろやりながら待つ、ということです。このような態度は、ある意味で“ポジティブなモラトリアム”であり、若者には許容されるべきあり方ではないかと私は思います。

しかし、一方で、ご相談者様が危惧されるような、“困ったモラトリアム”というものもあります』(50代女性/都内メンタルクリニック院長・精神神経科医師)

●就活しない若者の“長期間のモラトリアム”問題

『ご相談者様が懸念されるのは、「就活をしないことで、30代・40代になっても自分の人生における社会的な役割や職業的な選択が定まらず、ずるずると長期間モラトリアムに陥る」という事態だと思います。

実際、学生時代に就活をしなかったがために、卒業後は非正規の職にしか就けず、30歳になっても、「自分が本当は何をやりたいのか分からない」という患者さんを何人も知っています。こういった人が実家(親元)にいて経済的に困窮していなければ、現状を脱する欲求も希薄になり、社会問題になる恐れもありますから、ご相談者様の心配も無理はありません』(50代女性/前出・精神神経科医師)

●期間を区切って、「好きなようにしてみなさい」も一手

しかしながら、息子さんが“ポジティブなモラトリアム人間”としていずれ何かを見つけるか、“長期間のモラトリアム人間”となってしまうかは、誰にも予想がつきません。

ですから、“期間を区切ってトライさせてみる”というのも一つの方法です。1年なら1年、2年なら2年というように期間を決めて、その間は思うように“自分探し”をさせてやるのです。

この方法は、例えば芸能人やプロスポーツ選手のような、成功する確率があまり高くない職業を志す場合に、保護者との間でしばしば交わされる約束方法です。「2年やってみてダメだったら、潔く第二新卒として就活する」と、息子さんに約束させるのです。

どちらに転んでも、さほど落胆しない結果が得られる方法かもしれません。

【参考文献】

・『モラトリアム人間の時代』小此木啓吾・著

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。