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給付金に「甘い」と厳しい声も…大学進学、親子が心掛けるべきことや必要資金は?

  • 2020.8.17
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困窮から退学を検討する学生も…
困窮から退学を検討する学生も…

新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、困窮する大学生が続出しています。親の収入が激減したり、本人のアルバイト収入が減ったりしているためです。そこで、国は大学生などを対象とした給付金制度を5月に設けましたが、「大学に行けなくても死なない」「金銭的余裕がなければ働くべきだ」「金をもらうのは甘い」といった厳しい意見が出ています。

大学進学にあたり、親子が心掛けておくべきことや大学卒業までに必要なお金の総額などについて、ファイナンシャルプランナーの長尾真一さんに聞きました。

1000万超のお金が必要なケースも

Q.大学の学費は4年間でどれくらいかかるのでしょうか。また、自宅から通う場合と1人暮らしをする場合の生活費はどの程度違うのでしょうか。

長尾さん「国立大学は入学金28万2000円、1年当たりの授業料は53万5800円が標準額なので、4年間の総額は242万5200円です。ただし、標準額の上限120%まで各大学が独自に金額を設定できるため、最近は授業料を引き上げる国立大学も増えています。

私立大学は大学によってさまざまですが、文部科学省が2018年度の私立大学入学者を対象に調査したところ、私立文系の平均額は入学金22万9997円、授業料78万5581円、施設設備費15万1344円で4年間総額397万7697円。私立理系は入学金25万4309円、授業料110万5616円、施設設備費18万5038円で4年間の総額は541万6925円です。

全国大学生協が2019年に行った調査によると、1カ月当たりの生活費は自宅生が月額6万6080円、下宿生は12万9090円です。下宿生の収入の内訳は仕送りが7万2810円(56%)、奨学金が2万900円(16%)、アルバイトが3万3600円(26%)となっています。ただし、生活費は地域によって大きく違うため、進学を希望する大学の情報をより具体的に調べることが大切です」

Q.奨学金を借りずに大学に通うためには、入学までにどの程度資金をためておく必要があるのでしょうか。また、奨学金を借りた場合、返済にかかる期間は。

長尾さん「先述のデータに基づくと、私立理系で下宿の場合、学費と生活費を合わせた4年間の総額は約1160万円です。予想以上にお金が必要になることもありますので、できるだけ余裕を持って準備しておいた方がよいでしょう。

また、見落としがちですが、大学資金の一番の山は入学前にあります。全国大学生協が2019年に入学した新入生の保護者に調査を行ったところ、私立大学進学で1人暮らしをする場合、受験時の受験料や交通費・宿泊費、入学金、前期授業料・施設設備費などで、入学までに総額約222万円かかっています。入学前にかかる費用は奨学金を充てることもできないので、最低限このくらいは準備しておく必要があります。

奨学金ですが、日本学生支援機構の第2種奨学金(有利子)を月額8万円で貸与を受けた場合、卒業後に毎月約1万7000円(金利0.5%とした場合)を20年間にわたって返還することになります。しかし、必ずしも返すことが困難な金額ではないと思いますし、ボーナスなどを繰り上げ返済に充てて早めに返還を終える人もいます」

Q.子ども1人を大学に通わせる場合、世帯年収はどの程度あるのが望ましいのでしょうか。

長尾さん「学費と仕送りの平均額を家庭から支出する場合、私立理系(下宿)の場合、年間約216万円必要になります。仮に家庭(実家)の生活費を300万円とすると合計516万円のため、手取りでそれだけの収入を得ようとすれば、世帯年収は700万円以上必要になります。国立大で下宿の場合は学費と仕送りが約141万円、実家の生活費との合計が441万円ですので、世帯年収としては600万円くらい必要でしょう。兄弟姉妹がいれば、必要額はさらに増えます。

日本学生支援機構が2018年に行った調査結果によると、大学生の家庭の年間平均収入額は国立大で854万円、私立大で871万円となっています。ただし、実際には、ほぼ半数以上の学生が何かしらの奨学金や特待生制度などを利用しています。

また、本年度から、『高等教育の修学支援新制度』として住民税非課税世帯、および、それに準ずる世帯で所定の条件に該当する学生は授業料などの減免と返還不要の給付型奨学金を受けられるようになりました。必ずしも経済的な理由だけで進学を諦めたり、選択肢を限定したりする必要はありません」

Q.コロナ禍を受けて、国は大学生などを支援するため「学生支援緊急給付金」(申請は7月末で締め切り)の制度を設けましたが、ネット上では「金をもらうのは甘い」などの厳しい意見が続出しました。困窮した大学生が給付金をもらうのは「甘え」なのでしょうか。

長尾さん「緊急事態宣言解除後、企業や全国の小中高校は通常時に戻りつつある一方、多くの大学はいまだにオンライン授業を継続しています。それでも、授業料や施設設備費はかかりますし、実家でオンライン授業を受けながら、下宿の家賃を払い続けている学生もいます。

また、大学生のアルバイト先として最も多い飲食業では仕事が減少しており、経済的にも精神的にも学生の負担は大きくなる一方です。このような状況の中で、困窮した学生を支援することは必ずしも甘やかすことや優遇することにはならないと思います。

採用を停止する企業や解雇・雇い止めに踏み切る企業も増えており、学業だけでなく就職環境も厳しくなりつつあります。夢や希望を持って大学に進学したにもかかわらず、苦しんでいる学生への支援は必要なことなのではないでしょうか」

進学にあたっての心構えは?

Q.大学進学を決めるにあたり、親子が心掛けるべきことはありますか。

長尾さん「大手企業の総合職採用は大卒が中心で、大卒は高卒よりも就職の選択肢が多いです。ただ、最近は高校卒業者の半数以上が大学や短大に進学しており、『大卒』というだけではブランドにはなりません。そのため、『大学で何を学び経験したいのか? そのためにどの大学を選ぶのか?』『学びや経験を社会に出てどう生かすのか?』をイメージして進学先を決める必要があります。

中には、大学に進学せずに自ら起業する人や完全オンラインの通信制大学で学ぶ人もおり、学び方や働き方の環境も変わってきています。常識や先入観にとらわれず、広い視野で将来を考えてみると選択肢が広がるかもしれません」

Q.一般的に、高卒と大卒で生涯年収にどのくらいの差があるのでしょうか。

長尾さん「独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表する『ユースフル労働統計2019』によると、同じ企業で60歳まで正社員で勤め続けた場合の生涯賃金は、高卒が男性2億6000万円、女性1億9000万円であるのに対して、大卒は男性2億9000万円、女性2億5000万円で3000万円以上の差があります。したがって、大学費用に1000万円かかったとしても生涯の収支では大卒が上回ることになります。

ただし、企業規模別のデータを見ると、従業員1000人以上の企業では、高卒の生涯賃金が男性2億8000万円、女性2億1000万円であるのに対して、従業員10人から99人の企業では大卒で男性2億2000万円、女性2億円となっており、企業規模によっては大卒と高卒の生涯賃金が逆転することもあります。絶対に大卒の方が稼げるとは言い切れません。

起業して成功している人の中には、大卒でない人もたくさんいますし、最近は一流大学卒でベンチャー企業やNPOを選択する人も増えています。生きていく上でお金は必要なものですが、お金と幸せは必ずしも比例するわけではありません。多様な生き方や働き方がある中で、自分にとってより充実した働き方、幸せな生き方を考えてみることも大切ではないでしょうか」

オトナンサー編集部

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