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一流店のプロに聞く、初心者でもわかる「ワインと日本酒」注文時のポイント

  • 2020.8.16
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接待は、クライアントとの仕事をスムーズに進めるための潤滑油のようなもの。おいしい食事とお酒があれば、その距離をグンと縮めることができる。知識は最低限でOK。楽しい時間を過ごせるマナーとオーダー方法をワインと日本酒のスペシャリストに指南してもらった。

【ワイン編】ソムリエを味方につけてリラックス
Q.予約の段階で伝えておくことはありますか?
A.お客様の好みと予算を、しっかり伝えてください。
まずはリラックス。ワインのことはソムリエに任せて、食事と会話を楽しみましょう!
イラスト=西田真魚、以下すべて同じ

「接待では、ぜひソムリエの力を借りてください」と情野博之さん。まず予約の段階で、クライアントの情報をある程度伝えておくことが、接待を成功に導くカギと言う。料理なら、「ソースは軽やかなもので」「旬の食材を」など。ワインに関しては「白ワインをよく飲む」「赤ワインの重めが好み」など。ワインは赤か白か、重めか軽めか、併せてシチュエーションも伝えると、それに合うものやサービスを考えてくれる。

一番重要なのが予算。一般的に、料理の約8割を目安にワインを選ぶそう。コース2万円の場合、ワインは1万6000円前後のものを。予約の段階で料理を決めて、それに合うワインを用意してもらうのがベスト。ワインの本数は、1人当たりボトル半分が程よい量だ。「4人の場合は、乾杯のシャンパーニュをグラスで、白・赤ワインを各1本ずつ、飲み足りなかったら食後酒を別にオーダーするといいでしょう」。接待ということを忘れずに、飲みすぎには注意したいところだ。

肉料理なら、ボルドーの赤ワイン
Q.ワインリストを見ても選べません。
A.迷ったら“ボルドーの赤ワイン”を。

事前にレストランと打ち合わせができなかった場合、ワインリストを見て注文するのは、至難の業。ある程度の知識や経験がないと、いくらリストを眺めていても、選べないはずだ。ここで情野さんから必殺技を伝授! 「肉料理なら、ボルドーの赤ワインを注文すれば、ほぼ間違いありません」。その理由は、ワインの味わいにあった。

レストランで人気のある赤ワインの産地は、フランスのブルゴーニュやボルドー、アメリカのカリフォルニアなどだ。それぞれの特徴は、ブルゴーニュは酸味のある繊細な味、カリフォルニアはパワフルで濃厚。接待の場では、ワインを飲み慣れていない人もいるので、「万人に好まれる、味のバランスのいいボルドーがおすすめです」。

しかもボルドーは長熟タイプで、レストランでは10年以上も熟成させているという。時とともに“澱おり”がたまるため、グラスに入らないようにサーブする前にデキャンタに移して澱を除く“デキャンタージュ”という儀式を行うのだ。「ソムリエが目の前でデキャンタージュする姿は、レストランでしか見ることができません。特別感が演出されて会話が弾み、まさに接待向きのワインといえますね」

2006 シャトー・フィジャック サン・テミリオン/2005 シャトー・モンローズ サン・テステフ/2006 シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランド
Q.テイスティングは、誰がするのでしょうか?
A.ホストの役目です。

ボトルワインを注文すると、必ずソムリエからテイスティング(試飲)を求められる。プライベートの席ならワイン好きが喜んでする場面だが、接待時は“ホスト”の役目になる。ワインの知識がないのにと思われるが、「ひと口味わってから“お願いします”と伝えていただければ大丈夫ですよ」。ドラマで見るような、味のコメントや感想を述べる必要はないので安心だ。

すべてのグラスにワインが注がれたら、「料理もそうですが、ワインもクライアントが飲むまで待つ、がマナーです」。

ちなみに接待される側のマナーとして、“おいしい”や“好み”などのコメントを、ソムリエではなくホストに伝えよう。その言葉を受けて、ソムリエがワインの説明をし、会話を盛り上げてくれるのだそう。

Q.最低限、身につけたいワインの知識は何ですか?
A.5つの品種の特徴を覚えましょう。

“ワイン”と聞くと、“難しい”“わからない”という人が多いと思うが、最初の一歩はブドウ。5つの品種を覚えれば、大まかにワインの味を分類できると情野さんは言う。その5つとは、白ワイン品種のシャルドネとソーヴィニヨン・ブラン、赤ワイン品種のピノ・ノワール、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンである。それぞれの味わいは表を参考に。

赤ワインのブドウ品種/白ワインのブドウ品種

さっぱりした白ワインが好みの人には、ソーヴィニヨン・ブランがおすすめ。逆に重厚感のある赤ワインならカベルネ・ソーヴィニヨンになる。産地や造りによって味はさまざまだが、品種の個性を覚えることで、自分の好みも伝えやすくなり、イメージ通りのワインに出合える。「接待では難しいですが、同じ品種を国や、造り手別で飲み比べるのも、ワインの楽しさの1つですよ」

APICIUS(アピシウス)
☎03-3214-1361 東京都千代田区有楽町1-9-4 蚕糸会館B1F
営/11:30~14:00(L.O.)、17:30~21:00(L.O.)
休/日曜 交/JR「有楽町駅」から徒歩3分ほか 情野 博之(せいの・ひろゆき)
APICIUS シェフソムリエ
2007年よりフランス料理店「アピシウス」のシェフソムリエに。2019年「ゴ・エ・ミヨ ジャポン」のベストソムリエ賞に選出。女子栄養大学の非常勤講師としても活躍。

文=石出和香子

【日本酒編】メリハリをつけて楽しませる
Q.大吟醸が蔵の最上級のお酒ですか?
A.実は、大吟醸と名乗らないお酒もあります。

大吟醸は日本酒の華。とっておきの席で封を開けるような、特別なイメージをもつ人が多いのでは。日本酒と発酵フレンチのペアリングを提案する簗塲友何里さんのお店でも、「接待の予約では、幹事さんから『大吟醸メイン』の要望が入ることがよくあります」とのこと。

「原料のお米を50%以上も磨いて造るわけですから、品質、値段ともに最上級クラスであることに違いありません。香りが華やかで、ラベルやボトルデザインに高級感があるタイプが多いことも、セレブ感を上げる理由かもしれませんね」

とはいえ、「“大吟醸ファースト”感は、全体的に以前ほど強くなくなっている」という。

「たとえば、若手のスター杜氏とうじによるマニアックな限定品だったり、『愛山』のように高価で希少性の高い酒米で造っていたり。富士山の湧き水仕込み、特定の田んぼで栽培された有機米仕込みといったように、お酒がもつストーリーに注目が集まる傾向も。もちろん、飲んでおいしいことが大前提ですが、上質感の切り口が多様になっているのを感じます。精米歩合50%で造りながら、あえて純米吟醸を名乗る“隠れ大吟醸”もあるんですよ(笑)」

つまり、日本酒のバリエーションが広がり、ハレの日本酒の選択肢が増えてきているということ。“大吟醸”のブランドに捉われず、一歩先を行くプレミアム感に注目したい。

Q.“生酛”や“山廃”はクセが強い印象がありますが……。
A.ワイン好きにも好まれる味わいです。

“生酛きもと”“山廃やまはい”といえば、通が好む古典的な日本酒。初心者にはハードルが高そう、という声もよく聞く。でも、恐れるには足らず!

グラス、磁器の平盃、陶器のぐい呑み。器の形と質感によって味の印象もガラリと変わります

「むしろワインをよく飲む方、特にナチュラルワイン党は、生酛・山廃好きが多いですね。ほかの日本酒にはない独特の酸が、新鮮に感じられるからでしょうか」。

味わいの特徴は、“酒母しゅぼ”と呼ばれる発酵のスタート工程で、乳酸を人工的に加えず、自然の乳酸菌を生成させる技法によって生まれるもの。乳酸菌が繁殖しやすい環境に近づけるため、米や麹こうじをすりつぶして溶かすのが「生酛仕込み」、“山卸やまおろし”と呼ばれるすりつぶし作業を省くのが「山廃仕込み」。手間と時間、熟練のコントロールを要する、昔ながらの製法である。

「でも、長時間の乳酸発酵で備わるコクと力強い酸は、生酛・山廃ならではの個性です」

最近は、精米歩合を高めたり、低温発酵できれいな旨味と酸を表現するモダン型生酛・山廃のバリエーションも増えているそう。

「初めての方はキレイ系から入って、より濃醇のうじゅんでどっしりしたタイプにシフトしていくのがいいかもしれませんね。先入観は抜きにして、まず飲んでみてください。新しい世界が必らず開けますから」

日本酒に合わない食材や料理はない
Q.日本酒には、やはり和食が一番ですか?
A.むしろフレンチやイタリアンに合うんです。

トリュフ温泉卵や、スープ・ド・ポワソンなど、フレンチのスペシャリテが並ぶ「SAKE Scene〼福ますふく」のメニュー。日本酒をあまり飲まない人からは、「なぜ、フレンチにお酒? ワインじゃなくて?」とのつぶやきが聞こえてきそうだが――。

「トリュフ、フォアグラ、キャビア。オリーブオイルベースの料理から、クリーム系の味付け、味の構成が複雑なフレンチのソースまで、日本酒に合わない食材や料理は、まずありません。チーズや生ハムのような発酵系食品は、むしろ日本酒のほうが、はまり役。1度体験したら、やみつき必至です(笑)」

ペアリング成功の秘訣ひけつは、濃淡のバランスをそろえること。店では、伝統的な和の発酵食品である酒かすやみそもアレンジに加え、重すぎないコクや口当たりを工夫。エゾ鹿などのジビエも、「熟成酒かすをのばしたソースを使うことで、恍惚こうこつの一皿に変身する」そう。肉好きの方々への接待で、ぜひお試しを!

Q.温度によって、味わいが変わりますか?
A.香りが開き、甘味、酸味がふくらみます。

よく冷やして、常温で、温めて。温度帯によって変わる味の幅広さは、日本酒ならではの楽しみ。でも、家飲みで燗かんをつけたり、そのたびに器を変えたりは面倒なもの。その点、「お店なら、温度帯別の飲み比べも簡単に楽しめます。特に、お燗は手間をかける意味合いから、本来おもてなしにかなった飲み方。ぜひ、外飲みで味の広がりを実体験していただきたいですね」と簗塲さん。

燗をつけると、閉じていた旨味が開いてふんわり、ふくよかに。カラダにもやさしい飲み方です!

一般に、冷やして飲むのに向くのは、超高精米の繊細な大吟醸クラスや、フルーティーな香りのお酒、発泡感のあるスパークリング系。香りよりも米の旨味、酸の厚みが勝るお酒なら、冷たい状態よりも常温で、さらに温めることで旨味が開く。先に紹介した生酛・山廃も、燗で膨らみを増し、真価を発揮するタイプ。

「コースでは、軽めのアミューズには冷たいお酒を、メインには燗を、というふうにメリハリをつけてお出ししています。料理との相性も温度によってガラッと変わるので、その変化も一緒に楽しんでください」

Q.コースのとき、順番はどうすればいいですか?
A.ライト→ミディアム→フルボディ→変態系(!)で。

日本酒は個体差のある飲み物。吟醸酒に香り系と旨味系が、生酛・山廃にもモダン系とクラシック系があるように、肩書だけでは見分けられない特徴もいろいろ。仕込み水や使用酵母、麹の造り方、熟成のさせ方で、同じ品種や精米歩合でも、まるで違う個性のお酒になってしまう。

日本酒

「ワインと同じように、ボディにも細身から、ふっくら型、骨格の太いマッチョ型のバリエーションがあるし、酸のインパクトもいろいろ。コース料理に合わせるときは、その辺の強弱をそろえながら、料理と調和する流れを工夫します」

よくいわれるタイプ分けは、北日本のお酒は全般に軽快ですっきり、西日本は濃醇系が主流というもの。大筋で間違いないものの、地域性の枠に収まらない超個性派も。

「酸がキューッと高いのや、たくあんや漬物風味の、いわゆる“変態系”(笑)。『え、これ日本酒!?』と引いてしまう方と、やみつきになる方と、好みが分かれるところ。個人的には好きな味。でも、びっくりさせないよう、コース中盤以降におすすめするようにしています」

SAKE Scene 〼福(ますふく)
☎03-6450-1559 東京都港区芝大門2-11-20
営/18:00~22:30(L.O.) 休/日曜 祝日
交/都営三田線「芝公園駅」から徒歩3分ほか 簗塲 友何里(やなば・ゆかり)
SAKE Scene 〼福 国際唎酒師
「日本酒を世界へ」をビジョンに、2016年に現店オープン。流ちょうな英語で女将として接客に務める一方、小さな蔵の海外展開を応援するべく輸出業も手掛ける。

文=堀越典子

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