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第1志望の「お嬢様学校」に合格したけれど……中学受験には“成功しなかった”母と娘

  • 2020.8.10
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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

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写真ACからの写真

中学受験における「成功」というと、「第1志望校の合格」を思い描きがちだが、実はそういう短絡的なことではない。

本当の意味での中学受験の「成功」は、親目線で言うと、将来的に我が子が中高一貫校での人間的成長をベースとした「人生の充実」を実感できるかどうかである。

そのためには、成人以降の我が子を想像し、より“咲きやすい”環境の学校に置いてあげることが一番よいと思うのだが、これは言うは易しのごとく、親にとってなかなかの難題なのである。

玲子さん(仮名)は、高齢出産と言われる年齢で舞花さん(仮名、現在20歳)を授かったそうで、それこそ目に入れても痛くないというように可愛がって育ててきたそうだ。「娘にケガをさせたくない」との思いから、危険なものは玲子さんが先に全て排除していたそうで、なんと舞花さんは中学生になるまで、包丁も触ったことがなかったというから、その徹底ぶりには驚きを隠せない。

習い事も「危険度」が低いものに絞られたため、舞花さんが熱望していたサッカー教室は当然ダメ。全て玲子さんが「危険ではない」と認めたレッスン……例えば、習字やピアノといったものしか習わせてもらえなかったそうだ。

このルールは延々と続き、中学受験も玲子さんの希望でチャレンジすることになり、舞花さんは、気の進まない習い事に加え、中学受験塾通いに明け暮れることになったという。

母“だけ”が憧れるお嬢様学校に、腹を立てながら通った

舞花さんは、当時を振り返って、母・玲子さんについて、こう語る。

「母は、父に対してもそうなんですが、小学生の私にとっても“絶対権力者”だったので、逆らうとか、そういう気持ちにはなれなかったですね。二言目には『あなたのためよ』って言葉で、全ての思考を止められていましたから、子ども心に『どうせ何を言ってもムダだ』って思っていました……」

舞花さん自身は共学志望、もっと言えば、地元の友達と離れがたく、近所の公立中学に行きたかったそうだが、「母“だけ”が憧れているお嬢様学校」合格に向け、努力を続けなければならなかったそうだ。

「今思えば、母自身に何らかのコンプレックスがあったような気がします。『あのお嬢様学校に娘を入学させなければ、自分の人生は“負け”』とでも思い込んでいるような感じでした」

舞花さんは玲子さんの機嫌を損ねないようにするためだけに努力を続け、そのお嬢様校に見事に合格をする。ところが、その学校生活は、舞花さんにとって苦痛でしかなかったそうだ。

「謎のルールがありすぎなんですよ。傘の色まで決められていますし、これはダメ、あれはダメ、少しでも違反したら反省文。そんなことばかりでしたが、一番、腹立たしかったのは、同級生が飼い馴らされた猫みたいで、それが『時代遅れでおかしいこと』とすら思わないところでした。まあ、要するに私には合わなかったんです」

舞花さんは耐え切れなくなり、「高校は違う学校に行きたい!」と玲子さんに訴えたそうだが、返事は当然NO。なぜならば、地元では有名な由緒正しい学校であるのと同時に、玲子さんが憧れる名門大学への推薦枠が豊富であるため、「あと3年の辛抱」と、却下されたそうだ。

「私、そんなに地頭も良くないんですよ。あのお嬢様学校は、一応、進学校だったので、授業には付いていくだけで精一杯。親が望むような成績なんてまったく取れなかったです。中学受験で勉強をやりすぎちゃって、伸び切ったゴムみたいになっていましたから」

「もう私は実家には帰らない」と断言

そんなこんなで舞花さんは「我慢に我慢を重ねた結果」、そのお嬢様学校を卒業し、大学生になった。

「大学選びですか? 私はもう親元を離れられたら、どこでもよかったので、実家から遠く離れた大学を選びました。まあ、一応、親から見たら、ギリギリ許せる大学名だったんじゃないですか? 親は、私が何をしたいかより、『どこに所属しているか』だけが大事なんで」

このコロナ禍で大学は事実上クローズ。現在、舞花さんはその大学近くで一人暮らしを続けている。

「同級生の中には、一度実家に戻った子もいますが、私はもう帰りません。ここで、母に奪われた私自身を取り戻します。私の人生を乗っ取ってきた母から離れて、自分は何をしたいのかをゆっくり考えたいんです」

中学受験は、まだ子どもが幼いうちからスタートするものなので、一部の親にとっては「親の希望が子どもにとって絶対によいもの」という意識になりがちだ。しかし、たとえ小学生であろうと、子どもには子どもの意思があり、それが親と同じとは限らないのは明白だ。

子どもが成人したのち、「うちは中学受験に成功した」と振り返る親の多くが、その理由を「子ども自身の意思を尊重した結果、人生の満足度を上げることができたから」と言う。そのことを忘れてはならないと痛感している。

鳥居りんこ(とりい・りんこ)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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