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「生涯現役の方って、大物ぶらない人が多い気がします」ヤマザキマリさん×川上弘美さん対談

  • 2020.8.2
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かつて経験したことのない「人生100年時代」に突入した私たち。

「40~50代はどう生きるか」という大きな課題にたじろぎそうですが、大丈夫! 目の前には先輩女性がたくさんいます。80代、90代、100歳を過ぎても生涯現役を貫いた彼女たちの、凛とした生き方に学びます。

本記事では漫画家のヤマザキマリさんと小説家の川上弘美さんの対談をご紹介します。ヤマザキさんと川上さんが生涯現役で生きる女性について語り合いました。

生涯現役を貫いた先輩女性たちの原動力は? 長い人生で、その身にどんなことが起こったのか? プライベートでも交流のあるおふたりが、今、この時代の女性の生き方をとことん語ります!

ヤマザキ マリさん
漫画家
(ヤマザキ マリ)1967年東京生まれ。世界各地での暮らしを経て、現在はイタリアと日本に拠点をもつ。『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010、第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞。現在『プリニウス』連載中。『ヴィオラ母さん』『仕事にしばられない生き方』などエッセイも多数。

川上 弘美さん
小説家
(かわかみ ひろみ)1958年東京生まれ。’94年に『神様』で第1回パスカル短篇文学新人賞を受賞。’96年『蛇を踏む』で芥川賞、2001年『センセイの鞄』で谷崎潤一郎賞、’15年『水声』で読売文学賞、’16年『大きな鳥にさらわれないよう』で泉鏡花文学賞を受賞。近著に『某』など。

漫画家・ヤマザキマリさん×小説家・川上弘美さん特別対談!「人生100年…」なんて言い出す前から、すべての女性は生涯現役!

「年齢を重ねるとそれまでに積み重ねたものが怒濤のように出てくるんです」ヤマザキ

ヤマザキさん 生涯現役、というテーマですが、私、60歳になったら漫画家辞めようと思ってるんです。

川上さん(以下敬称略) 私も、隠居志望です(笑)。

ヤマザキ いいですね! 「生涯現役を目指したい!」というやる気に水を差す、水差し対談の予感がします(笑)。

川上 しまった(笑)。でも生涯現役って、意識して「なる」ものじゃないんじゃないかな。結果じゃない? 仕事を辞めたら現役じゃなくなるわけじゃないし。私、今62歳なんですが、同年代がそろそろ退職し始めたんですね。でも、活発な人はボランティアをやったり、政治の勉強を始めたりと、走り続けている。

ヤマザキ 確かに、「気がついたら生涯現役だった」んでしょうね。

川上 皆さん、やらなくちゃいけないことをやっているうちに、時間が過ぎていったんじゃないかな、って。

ヤマザキ 私、兼高かおるさんの大ファンで、『兼高かおる世界の旅』が、自分の人生に多大な影響を与えたと思っているんですが、兼高さんも、生涯現役を貫いた人ですよね。でも確かに、亡くなる2年ほど前に対談をさせていただいたときの印象では、「生涯、旅行ジャーナリストであり続ける!」というよりは、ただ旅が好きで、行きたいところがまだあるから、という方でした。なにしろ、お会いして開口一番、「わたくしね、悔しいの。あなたが行ったことがあって、わたくしが行けなかった場所があるのよ」って、シリアのパルミラの記事が載った新聞を目の前に広げたんです(笑)。

川上 ふふ(笑)。

ヤマザキ 旅番組の撮影がリポーターだけだともどかしくて、ディレクターもカメラマンも兼高さんがすべておやりになるときもあったそうです。編集までやっていらしたとおっしゃってました。

「きっと皆さん、ただ走り続けて、『気がつけば生涯現役』だったのでしょう」川上

川上 生涯現役の女性って、兼高さんのように、ある分野のフロンティア的な存在の方も多いですよね。まだまだ女性が社会の中でやっていくことが困難だった時代に、道を切り拓いた。「女性初」という冠がつく方がたくさんいる。

ヤマザキ 兼高さんと同じく昨年お亡くなりになった緒方貞子さんも、「女性初の国連公使」「日本人初の国連難民高等弁務官」と、「初」がつく方ですね。でも、そのご活躍が世の中に知られるようになったのは、50代以降のことです。

川上 それが生涯現役のおもしろさですよね。30代で名前が残るような何かを成し遂げた人もいれば、もっと年を経てから突然ブレイクする人もいる。作家の幸田文さんや、ピアニストのフジコ・ヘミングさんもそう。現代美術家の草間彌生さんだって、海外で活動していらして、日本で人気が出たのは、それほど若いときではなかったはず。

ヤマザキ イタリア文学者の須賀敦子さんも、エッセイストとして注目されるようになったのは60歳くらいからでした。50代、60代と、それまで積み重ねてきたものが怒濤のように出てくるタイミングって、ありますよね。

「70代、80代になっても、どんどん新しいことに挑戦していくんですよね」川上

川上 作家の佐藤愛子さんも、辛口エッセイで90歳を過ぎてから再ブレイクして、今もまさに現役でご活躍ですが、お若いときからずっと変わらず怒っている(笑)。最近はむしろマイルドになっているくらい。私、昔から大好きです。

ヤマザキ だいたい、今の80代、90代って、バイタリティがすごいですよね。87歳の私の母はヴィオラ奏者で、札幌交響楽団を定年で退団しましたが、3〜4年前までお弟子さんが50人くらいいました。「たまには休みたい」と言うから温泉に連れて行ったときも、一緒に入った露天風呂で「いや〜いい夕陽ね〜…これで英気養って、明日からまたバリバリ働くぞ!」って、休みやしない(笑)。

川上 まさに生涯現役ですね(笑)。私の母はずっと専業主婦でしたが、ある日突然、朗読を始めて。さらに弓道も始めて、そのうち料理を教えるようになって。今、85歳ですが、「まだ私お金稼いでるわ‼」って自分に驚いています(笑)。ひとつのことをずっと続けていくことももちろん素晴らしいんだけれど、年齢を重ねてから新しいことに挑戦するのも、すごくいいことだと思う。

「そういえば私の母もよく『やってみたらできたわ』って言ってます(笑)」ヤマザキ

ヤマザキ そうそう! うちの母も、定年後に「もう楽器は弾かない」と言って、突然、社交ダンスを始めました。

川上 自分にはできない、と思っていたことが、やってみたら案外できた、っていうのが、人生の後半にはあるんじゃないかな。63歳で小説家デビューして芥川賞をとった若竹千佐子さんも、小説を書き始めたのは55歳のときでしょう。考えてみれば、50歳のときにまったく新しいことを始めたとしても、20年やれば、70歳ですごいベテランになれるわけだし。

ヤマザキ「やってみたらできたわ!」っていうのは、波瀾万丈な人生を送ってきたうちの母もよく言ってました(笑)。

川上 人生のうちには、何度か区切りがつくタイミングがあるじゃない? 会社を辞めるとか、子供が独立するとか、ある程度予想ができることもあれば、病気をするといった、思いもよらぬ区切りもあるけれど、いずれにしろ、新しいことを始めるチャンスになりますよね。

ヤマザキ そう思うと、私の人生の区切りは、やはり未婚で子供を生んで漫画家になろうと思ったときかもしれません。考えたことなかったけど、あのタイミングは新しいことをやるチャンスでした。

川上 あとね、生涯現役の方って、大物ぶらない人が多い気がします。いくつになっても新しいことに興味津々。お会いしたことはないままでしたけれど、作家の白洲正子さんもそう。私、デビューしたてのころ、編集者の方に「白洲さんが川上さんの作品を読んだっておっしゃってたよ」ってってって言ってもらったのに、存じ上げなくて、「白洲さんてだれですか」って…お恥ずかしい。でも、そんな大家が、私のような駆け出しの作家の本を読むんだ、って、びっくりした。

ヤマザキ 現役だというのは、自分が特別だとか、大家だとか思っているゆとりもないということなんじゃないですかね。興味も好奇心も旺盛だから。それに、ものすごく視野が広い‼ いろいろなことに興味をもっている。

川上 お年を召してからもどんどん外に出て行くしね。人と会うのも好きだし、話し好きだし。

ヤマザキ すごく年下の人とも友達になれるのがすごいですよね。20歳、30歳年が違ってても、対等に話してくれる。

川上 海外ではどうですか? イタリアの生涯現役女性は?

ヤマザキ イタリアの女性はもう、年をとればとるほど偉くなって、高座になっていくから。イタリア人の夫に言わせれば、「イタリア女が女性なのは20歳まで、あとは男か女かわからなくなる」って(笑)。「形は女なんだけど、中身は男だ」とも。子供ができたくらいから、ジェンダーがとれちゃうんですよ。

川上 日本の女性は違うかもね。

ヤマザキ 欧米の女性は、ジェンダーというタガが外れて、「人間」という領域に行ってしまっている人が多いんですよ。とりつくろったり演出したりしないから、中がまる見えなんですよね。人にどう見られるかより、自分がどうあるかということを大事にしているから。

川上 でも、年齢を重ねても、女性性を保つゆきかたも、いいなと思う。キャラクターを保ち続けるというか。私、カトリーヌ・ドヌーヴの『真実』を観たんですけど、大女優であり、家族をもつひとりの女性である、という、ひとりの人間がもつふたつの立場の微妙な差異が、うまくとらえられていて、すごくよかった。女優という「型」に、自らをはめる。そういう、キャラクターを演出し続ける生き方もあるな、と。女性性を打ち出していくって、そういうことですよね。

ヤマザキ それは、男性向けに、っていうことだけでもないんですよね。プロフェッショナルとして"入れ物"をどう管理し、どう見せるかということで。

川上 そうそう。作家の宇野千代さんもそうじゃない? 90代になってもきちんとお化粧をして、いつもきれいにして。あれは、現実の男性というより、自分の世界の中で理想の男の人を設定して、そこに向けて、自身のチャームを投影していたんだと思う。素敵ですよね。

ヤマザキ 女性としての「型」を演出し続けるのも楽しいし、「タガ」を外して、「人間」として生きていくこともおもしろい。いずれにしても、生涯現役の人は、内側がしっかり磨かれているから、外見をとりつくろわなくても輝きがあふれ出ていますよね。

ヤマザキ 国や人種に関係なく、女性ならではの生命力みたいなものはありますよね。そしてそれは年齢を重ねるほどに出てくる。私は、日本人女性の集団をイタリアへ、イタリア人女性の集団を京都旅行へ引率したことがありますが、どちらも凄まじくパワフルだった(笑)。

川上 女性ならではの根性とか、頑固さ、もね。私は理系なので、特に女性研究者の生き方に興味があるんですが、少し前にポーランドでキュリー夫人博物館に行ってきました。伝記の中でいちばんすごいと思ったのは、パリ大学の貧乏学生だったときのエピソード。寝るときに寒いからありったけの毛布と服をかけたんだけど、それでも寒くて、いちばん上に椅子を載せた、という(笑)。

ヤマザキ 堅いでしょう(笑)。

川上 その根性、尊敬します。

ヤマザキ 家族との確執とか、社会の抑圧、同性からの嫉妬など、女性はいろんなストレスにさらされますが、そのほうがむしろ燃えるのかも。そういう、生き物としての強さはありますよね。

川上 男性優位の世界で、「女性初」として男勝りに闘ってきた世代があって、その次に、ちょうど今の50代、60代の、男女平等といわれながら、「25歳はクリスマスケーキ」なんて、ダブルスタンダードに翻弄された世代。そしてさらにその下の世代と、それぞれ仕事に対する価値観は違ってくると思うんですね。

ヤマザキ しかも今、新型コロナウイルス禍によって、さまざまなことに向き合わなくちゃいけなくなった。過渡期です。これから10年、20年先の生涯現役の形は、どうなっていくのかな、と。

川上 でもね、人生100年時代だ、生涯現役だって、そんなに力入れなくてもいいんじゃないかな。今の40代、50代ってまじめだから、「かっこよく年を重ねたい!」って頑張っちゃうでしょう? でも、結局のところは、「やりたいことがある」というのが、生涯現役を続けられる秘訣だと思う。たとえ仕事を辞めても、現役でいることはできる。隠居志望だから言うわけじゃないですけど(笑)。

ヤマザキ 私は60歳まで漫画業続けたら、今度はイタリアで養蜂やろうと思ってて。油絵も再開したいし、旅もしたいし、今より忙しそうだ(笑)。

川上 バイタリティということでいえば、ヤマザキさんはいっぱいあって、私はあまりないけど、ないなりにずーっと小出しにして生きていくから(笑)。

ヤマザキ 私はいつも蛇口全開。ジャーッ!って水が白く泡立つほど(笑)。

川上 チョロチョロでもジャーッでも、お互い楽しく現役を貫きましょう!

ヤマザキさん着用分/シャツ¥40,000・パンツ¥46,000(ワイズ)WOUTERS&HENDRIXのピアス¥27,000・SERGE THORAVALのリング5連¥52,000・刻印リング、ラインストーンリング各¥36,000(アッシュ・ペー・フランス)
ヤマザキさん着用分/シャツ¥40,000・パンツ¥46,000(ワイズ)WOUTERS&HENDRIXのピアス¥27,000・SERGE THORAVALのリング5連¥52,000・刻印リング、ラインストーンリング各¥36,000(アッシュ・ペー・フランス)
「生涯現役」を貫いた先輩女性たち
写真:読売新聞/アフロ、ロイター/アフロ
■1:佐藤愛子さん 96歳の今も冴えわたるエッセイ

1923年生まれ。直木賞、菊池寛賞ほか受賞作多数。『九十歳。何がめでたい』がベストセラーに。2017年に旭日小綬章受章。最新刊は小島慶子さんとの往復書簡集『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』。

■2:兼高かおるさん 世界を巡った旅行ジャーナリスト

1928年生まれ。’59年〜’90年まで『兼高かおる世界の旅』でナレーター、ディレクター兼プロデューサーとして活躍。取材国は約150か国、地球を180周した。’91年の紫綬褒章ほか受章多数。2019年90歳で没。

■3:緒方貞子さん 難民支援における「小さな巨人」

1927年生まれ。’76年に国連公使に。’91年〜2000年まで国連難民高等弁務官として難民支援に尽力。「身長5フィート(約150cm)の巨人」と称賛された。TIME誌「今年の女性」1995年に選出。2019年92歳で没。

■4:森英恵さん 日本人デザイナーの代名詞的存在

1926年生まれ。’51年にスタジオ設立。’65年、N.Y.で初の海外コレクションを発表。’77年、パリにオートクチュールメゾンをオープン。’96年に文化勲章、’02年にレジオン・ドヌール勲章オフィシエほか、受章多数。

撮影:小西康夫・浅井佳代子、写真:読売新聞/アフロ・ロイター/アフロ
■5:笹本恒子 100歳を超えて活躍中の写真家

1914年生まれ。女性報道写真家第1号。約20年の活動休止後、71歳で写真展を開催し復帰。明治生まれの女性のポートレートを撮影するなど、精力的に活動。2011年に『好奇心ガール、いま97歳』を刊行し話題に。

■6:戸田奈津子 映画ひと筋!字幕翻訳の道へ

1936年生まれ。’70年に初めて字幕翻訳を担当。’79年『地獄の黙示録』以後、『E.T.』『タイタニック』『ミッション・インポッシブル』ほか、膨大な量の作品を手がける。トム・クルーズらハリウッドスターとの交流も深い。

■7:田部井淳子 世界初の女性エベレスト登頂者

1939年生まれ。女性として世界で初めてエベレストおよび七大陸最高峰への登頂に成功。60代以降も年7〜8回海外登山に出かけた。エベレストのゴミ問題を研究するなど、環境保護活動にも尽力。2016年77歳で没。

■8:ワダ・エミ オスカーに輝いた衣裳デザイナー

1937年生まれ。’86年に黒澤明監督作品『乱』でアカデミー賞最優秀衣装デザイン賞、’93年にオペラ『エディプス王』でエミー賞最優秀デザイン賞を受賞。直近の仕事は2019年公開の映画『ある船頭の話』。

写真:Shutterstock/アフロ・Imagestate/アフロ・AP/アフロ
■9:ダイアナ・ヴリーランド 元祖カリスマファッション編集者

1903年生まれ。『ハーパースバザー』から『VOGUE』に引き抜かれ、編集長に。数々の流行を生んだ。2012年に公開された映画『ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ』で再注目を集めた。1989年86歳で没。

■10:キャサリン・グラハム 波乱の人生を送った大新聞社社主

1917年生まれ。ワシントン・ポスト社主。ウォーターゲート事件で報道を決断したとして一躍注目を集める。’98年に自伝『キャサリン・グラハム わが人生』でピューリッツァー賞伝記部門を受賞。2001年84歳で没。

■11:ジェーン・グドール チンパンジー研究で世界を駆け回る

1934年イギリス生まれ。チンパンジーを専門とする動物行動学者。人類学の世界的権威、ルイス・リーキーのもとで研究を始める。世界の数々の大学で教鞭をとるなど教育にも尽力。2002年から国連平和大使。現在86歳。

■12:マーガレット・サッチャー 女性リーダーを代表する「鉄の女」

1925年イギリス生まれ。オックスフォード大学を卒業後、研究者を経て政治の道へ。’79年にイギリス初の女性首相に。’90年まで首相を務め、保守を強行に貫く政治姿勢で、「鉄の女」の異名をとる。2013年87歳で没。

※掲載した商品は、すべて税抜です。

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