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Awich、夫の死を経験し、どん底へ…深い悲しみから抜け出す術とは

  • 2020.7.23
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今や日本のヒップホップ・シーンのみならずアジア各地からも注目を集める沖縄出身のラッパー、Awichが遂にメジャーデビューする。14歳でヒップホップに出合ってから、その表現手段は人生とともにある。

鋭い眼差しと言葉が激変する時代を愛で包む。

「ヒップホップが教えてくれたのは、自分のオリジナリティと生まれた場所に根ざして感謝しながら生きること。ゲットーで生きる黒人たちから始まったヒップホップに、沖縄で生まれた私にも通じるものを感じた。沖縄に米軍基地があることや、歴史的背景もそう。どんな環境にも様々な側面があるけど、良さも悪さも、良さにしていく力が必要だから」

音楽を続けながらも高校卒業後にビジネスを学ぶために渡米し、現地男性と結婚して出産した。そんな矢先に夫と死別するという悲劇に見舞われる。新作『Partition』に収録された「Patrona」や「Revenge」には、それでも戦う意志と理由を込めた。

「どんな状況でも私は歌詞を書いて歌うことをやめなかった。音楽やってる友達のスタジオに行ったりステージに立ったり、アメリカでもそんなことをずっとやってた。特に旦那は『絶対に音楽をやめるな。書き続けろ』と言ってくれていました」

転機となったのは帰国後にヒップホップ集団のYENTOWNと、プロデューサーのChaki Zuluとの出会い。2017年から活動は一気に加速し、2020年、遂にメジャーデビュー。新作にはコロナ禍とその後の社会を綴った「Awake」も収録された。

「Black Lives Matterの運動も広がっていますけど、黒人男性がいろんな理由で突然いなくなっちゃうことって本当に多いんです。個人の事情ももちろんあるけど、生活している中で大きな渦に巻き込まれて抜け出せない構造があるからこうして今、人権運動が激化してる。世界の激変する状況を乗り越える力を、音楽で生んでいきたい」

そんな真摯なメッセージのみならず、ユーモアのある言葉遊びが光る「Sign」や、切ないメロディが耳に残る「Good Bye」など多面的な魅力を覗かせる。

「強い女は弱さを見せないとか、エロい女は中身がないとか、型にハマるのは嫌(笑)。全てを超越するような存在になりたいですね」

痛みを知っているからこそ、力強く生きるエネルギーが音楽に注がれる。話の最後にAwichは深い悲しみから抜け出す術を教えてくれた。

「今あるものに感謝すること。失ったものが悲しくて辛かったとしても、そのシチュエーションに隠された良い面と悪い面を見つけて。私の場合は旦那が死んでひとりになって、どん底を感じた、この感情こそが財産なのかもしれないと思った。だからどんなことが起こっても、そこから立ち上がったストーリーに自分で価値を見出してあげて」

EP『Partition』【通常盤(CD)】¥1,980(ユニバーサル ミュージック・ジャパン) 先行配信シングル曲「Shook Shook」も収録の全7曲。深みのある歌声とスキルフルなラップを存分に堪能できる。

エーウィッチ 1986年、沖縄県那覇市生まれのラッパー。2017年に日本のヒップホップクルー、YENTOWNに加入後、アルバム『8』『孔雀』をリリースして鋭い言葉と深みのある歌声で圧倒的な支持を集める。

※『anan』2020年7月29日号より。写真・内田紘倫(The VOICE) 取材、文・上野三樹

(by anan編集部)

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