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親族の結婚式に「着物」で出席する理由は?着物の選び方や作法、保管法も解説!

  • 2020.7.22
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既婚女性はなぜ着物?
既婚女性はなぜ着物?

新型コロナウイルスの流行後、結婚式が中止、または延期されるケースが相次ぎましたが、緊急事態宣言の解除後は一部地域を除き、感染者数が減少傾向にあることから、秋以降の式の実施を目指し準備に入る人もいるようです。ところで、結婚式の出席者にとって気になるのが式に着ていく服装です。既婚女性が親族の結婚式に出席する際は「着物」を着るのが一般的とされていますが、なぜなのでしょうか。

着物の作法とともに、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。

自分に合った「格」のものを着る

Q.実のきょうだい、義理のきょうだいなど親族の結婚式に出席する際、既婚女性は着物を着るのが一般的と聞きます。実際に着物を着るべきなのでしょうか。

齊木さん「着物を着ることをおすすめします。着物は日本の民族衣装として、華やかさがあるだけでなく、おめでたい柄、縁起のよい文様があしらわれているため、着物を通して相手に祝福の気持ちを表すことができるからです。

着物にあるおめでたい柄、縁起のよい文様を『吉祥文様(きっしょうもんよう)』といいます。例えば、『松竹梅』の柄は古来、『生命』『長寿』を連想させるおめでたいシンボルとして有名です。また、『鶴亀文様』は『鶴は千年、亀は万年』という言葉の通り長寿を表しており、幸せが長く続くという意味が込められています。

このほか、小物にもそれぞれ意味があり、例えば、帯に差す『扇子』は末広がりの形をしていることから、将来の発展や繁栄を願う思いが込められています」

Q.それでは、どのような着物を選ぶといいのでしょうか。

齊木さん「着物を選ぶ際に大切なのは、その場所にふさわしい着物、自分の立場に合った『格』の着物を選ぶことです。例えば、結婚式など祝儀の席で親族は『留め袖』を着用します。留め袖には『黒留め袖』『色留め袖』があり、黒留め袖は最も格式の高い第一礼装で、新郎新婦の母親、仲人の夫人にふさわしい着物です。西日本では母親以外の親族が着る場合もあります。

色留め袖は黒留め袖の次に格式が高い礼装で、既婚の姉妹や叔母などの親族が着用しますが、近年では未婚の姉妹も着用するのが一般的になりつつあります。また、招待客で最も主催者側に縁の深い主賓は、色留め袖やその次に格の高い『訪問着』を着用します。同僚や同級生などその他の招待客は訪問着や『付け下げ』を着用するのが一般的です。このように、主催者側にご縁の深い人ほど、格式高い着物を選ぶのがポイントです。

また、『白』は花嫁衣装の色であるため、白いドレスやワンピースはタブーとされていますが、着物は洋装と違い、『色』ではなく着物の『格』が重要になります。しかし、近年は着物を着ているだけで華やかな印象になりますので、招待客は気負うことなく祝いの気持ちを込めて、着物に袖を通してみてはいかがでしょうか」

Q.着物を着る際の注意点はありますか。

齊木さん「着物は男性女性に関係なく『右前』に着ます。つまり、自分から見て右側の身頃、続いて左側の身頃を重ねます。なぜ、このような着方をするかというと、719年に元正天皇によって発令された衣服令『右衽着装法(うじんちゃくそうほう)』によって、右前で着装することが定められて以来、現代に受け継がれているからです。

『左前』に着ると、仏式のお葬式で故人が身に着ける経帷子(きょうかたびら)の着方になるので注意が必要です。また、黒留め袖や色留め袖、訪問着など格の高い着物は、裾線(着物の裾)を足の甲に着くすれすれのところに決めると品格のある装いになります。逆に、裾線を短くするとカジュアルな印象になり、バランスが悪くなるので注意しましょう」

Q.着物で式場内を歩く際の作法はあるのでしょうか。

齊木さん「着物は着物独自の振る舞いをすることで、着る人の美しさを引き立たせることができます。そのため、ジーパンなどの普段着を着ているときのような振る舞いをすると、着物の魅力は半減します。

まずは着物のラインに沿って背筋を伸ばし、胸を張り、姿勢をよくします。天井からつられていることを意識しながら、『膝から下』で歩くことで、大股にならず、きれいな歩き方になります。その際、つま先から体の中央(内側)に着地するように一直線上を歩きます。そうすることで、歩き方が美しくなるだけでなく、着崩れ防止にも役立ちます。

また、歩く際は軽く脇を締めて、手を振りすぎないようにしましょう。品よく見えるだけでなく、袖が他の人に当たることなく、汚れを防ぐ効果もあります」

着物に汚れがついてしまったら…?

Q.冠婚葬祭の際に着物を着ている人は、トイレに行くのが大変な印象があります。どのように対処したらいいのでしょうか。

齊木さん「トイレに行ったときは、着物の裾を開いて持ち上げなければいけないため、気を付けないと着崩れする原因となります。まずは袖が邪魔にならないように、袖の真ん中あたりを帯と着物の間に挟み込みます。このとき、クリップがあると、挟んだ袖をしっかり留められるので便利です。

その上で、着物の裾の先端、長じゅばん(肌じゅばんと着物の間に着る衣服)の裾の先端、裾よけの先端を左右の手で一緒に持ち、帯の上あたりまでしっかりまくり上げて体の前に抱えてください。

このとき、上前と下前(まくり上げた部分)を一緒に帯に挟んでおくとずり落ちにくくなります。帯の上に仮ひも(腰ひも)を締めて、まくり上げた裾をたくし入れる方法もあるほか、大きいクリップを使って帯の上から固定する方法もあります。

用を済ませたら、裾をまくり上げたときと逆に、裾よけ、じゅばん、長着と順番に下ろしていきます。布がごろごろしないよう、よれを直しながら元に戻すのがコツです。最後に鏡の前に立ち、裾の重なりやおはしょりがきちんとしているか必ずチェックします」

Q.着物を自宅で保管する際のコツはありますか。例えば、市販の防虫剤は使ってもいいのでしょうか。また、汚れが付いていた場合、どのように対処すればいいですか。

齊木さん「着物は湿気が大敵なので、通気のよい場所に収納しましょう。たんすに収納する際は、除湿効果があり、虫食いにも有効な畳紙(たとうし)に1枚ずつ着物を包みます。着物の素材のうち、最も虫が付きやすいのはウールのため、ウールと、絹などウール以外の着物は別々の引き出しに収納します。

その上で、たんすに防虫剤(市販の製品でも可)を入れます。ただし、防虫剤は混合すると化学反応を起こすので、一種類に決めて使ってください。また、金銀箔(ぱく)や金銀糸は防虫剤に反応して変色することがあるので、衣装箱の四隅に和紙などで包んで置いておくと安心です。

このほか、平安時代の宮中行事として行われてきた『虫干し』(衣類などを陰干しすること)を年に1回は行うと、よりよい状態で保管できます。湿度の低い日の午前10時から午後2時くらいの間、日の当たらない場所に着物を裏返して掛けておくと、湿気を払ったり、害虫を除いたりできるだけでなく、染みの点検にもなります。

汚れが付いていた場合、自分で洗おうとするとかえって汚れが広がる場合があるため、『洗える』旨の表示がある着物以外はクリーニング店などの専門店に依頼しましょう」

オトナンサー編集部

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