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業界歴17年のエンジニアが、女性にこそ「プログラミング」を勧めるワケ

  • 2020.7.21
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ITエンジニアの戸倉彩さんは、書籍やSNSの情報発信も活発に行い、ちょっとしたIT業界の有名人でもある。会社の枠を超えて、女性ITエンジニアのキャリアを支援する活動を行ってきた戸倉さんに、IT業界は女性にとって働きやすい場所なのか、ITエンジニアの仕事の魅力は何かを聞いた。

女性ITエンジニアを応援したい
日本IBMの戸倉彩さん(写真=同社提供)
日本IBMの戸倉彩さん(写真=同社提供)

私は日本IBMで“デベロッパー・アドボケイト”という仕事をしています。ITエンジニアの皆さんに、技術情報を提供をしたり、一緒に問題解決をしたりすることで、世の中を変えていくお手伝いをする仕事です。

2018年5月に日本IBMに入ったとき、女性のITエンジニアがとても多いことに驚きました。IT業界で17年のキャリアがある私ですが、こんなにたくさんの女性の同僚に恵まれたのは初めてです。

ただ、社会全体ではまだまだIT業界の女性の割合は高くありません。だから私は、個人的にも女性のエンジニアを応援する活動を続けています。今、IT業界でも社会全体でも、女性のITエンジニアが求められています。これを読んでいる皆さんも、ぜひIT業界やエンジニアという仕事に興味を持っていただきたいのです。

そもそも関心を持つ女性が少なかった

これまでIT業界に女性が少なかった理由のひとつは、プログラマーやエンジニアという職業に興味を持ち、やってみようという女性そのものが少なかったことにあります。

それでも最近は、ウェブデザインやウェブサイト制作といった分野を中心に女性が増えています。しかし、もともと女性が少なかったがゆえに企業の対応も遅れがちで、必ずしも女性が働きやすい環境が整っていませんでした。だから辞めてしまう女性も多く、後で戻ってくるのも難しいという状況がありました。

こんな事情があって女性が増えづらかったIT業界ですが、最近は変わりつつあります。実は私自身、出産を経て一度は営業職に就きましたが、目標よりも早くエンジニア職に戻ることができました。クラウドサービスの発展によって在宅勤務などもしやすくなっています。何よりも、これからの世の中では女性エンジニアの必要性が高まっていきます。

今、エンジニアのスキルや、女性の感性が求められている

これまでのテクノロジーの世界は、どちらかというと男性が中心になって発展してきました。

小学生のとき、クリスマスプレゼントにゲーム機をもらったのですが、まだ昭和だったその頃はゲームといえば男の子向けのものばかり。「どうして女の子向けのゲームがないのかな?」と思ったものです。

戦闘系のゲームの激しい色や音を、もう少し自分の好みのものにしたくて父に相談すると、「ゲームはプログラムで動いているから、それを書き換えたり、あるいは自分で書くことで、好きなゲームを作り出せる」と教えてくれました。私がプログラミングに興味を持ったきっかけです。

当時に比べると、今はテクノロジーが日常生活により広く浸透しています。家電もスマートフォンもコンピューターで動いていて、老若男女さまざまな人が使います。そういったものを作るとき、女性の視点なしで良い商品やサービスにするのは難しいはずです。

例えば、最近私が気になっているものにVR(バーチャル・リアリティ)デバイスがあります。ヘッドセットという大きなゴーグルを頭に付けることで、バーチャルの世界に入り込んだような感覚でゲームなどを楽しむことができるものです。

今発売されているものは、女性の頭にはフィットしにくかったり、装着するときに顔に当たるのでファンデーションが付いてしまったりします。きっと男性のエンジニアが設計していて女性がテストしていないから、私たちにとって使いやすいものが出てこないのだと思います。

見た目のデザインだけでなく、プログラミングやデータ分析・活用などにおいても、多様な視点がないとみんなが使いやすいものはできません。活用の範囲が広がってきているAI(人工知能)も、「機械学習」といって過去のデータの蓄積を基に判断を行うのですから、そのデータに偏りがあれば導き出される答えも平等性に欠けるものになってしまいます。

わかりやすい例を挙げると、AIが靴の写真を認識できるように学習させるとき、男性だけが基となるデータを用意すると、革靴やスニーカーは正しく認識できても、女性のサンダルは靴として認識できない、といったことが起きるんです。

ITエンジニアは、課題解決で社会貢献できる

今、日本はSociety 5.0という新たな社会のあり方を目指しています。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く未来のあり方で、インターネットですべての人とモノがつながり、さまざまな技術によって社会課題が解決され、誰もが活躍できる社会です。

これを実現していくには、エンジニアの力が必要です。その際、女性ならではの問題意識やアイデアが活かされるチャンスもどんどん増えていくでしょう。女性は昇進や報酬以上に「社会や組織への貢献」の感覚がモチベーションにつながりやすい傾向がありますから、これからのITエンジニアの役割とも非常に相性が良いと思います。

コミュニティが強い味方に

IBMは今年、「女性が活躍する会社BEST100」(『日経WOMAN』と日経ウーマノミクス・プロジェクト主催)の総合1位に選ばれました。

女性が活躍しやすい理由をエンジニアの視点から考えてみると、最も大きいのは社内コミュニティの存在だと思います。職種や性別などさまざまな属性ごとにいろいろなコミュニティがあり、例えば女性エンジニアのための全社横断コミュニティには、女性だけでなく社長や男性役員も参加してメンバーのスキルやキャリアの向上を支援してくれます。

(写真左)2019年11月に、日本IBMの女性エンジニアコミュニティ「COSMOS」が主催して行ったイベントで、技術者のパーソナルブランディングについて話す戸倉さん(左から2人目)/(写真右)イベントを主催したCOSMOSのメンバー(写真=日本IBM提供)
(写真左)2019年11月に、日本IBMの女性エンジニアコミュニティ「COSMOS」が主催して行ったイベントで、技術者のパーソナルブランディングについて話す戸倉さん(左から2人目)/(写真右)イベントを主催したCOSMOSのメンバー(写真=日本IBM提供)

こういったコミュニティに参加していると視野が広がるだけでなく、結婚や出産、介護などのライフステージの変化で壁にぶつかったときに経験者のアドバイスを得られたり、部署や階層を超えた助け合いの関係を作ることができます。IBMには勤続年数の長いパワフルな女性も多く、そういった方々から「リラックスしてやりたいことをやればいいのよ!」なんて言ってもらうと、とても勇気がわいてきます。

働き方の面でも、IBMには個人のニーズが尊重される文化があり、上長と相談の上で個別に調整し、在宅勤務を始めとする柔軟な働き方をしている人がたくさんいます。

世の中のIT企業に目を転じてみると、先に触れたユーザー視点の重要性やデータの多様性や、平等性などを意識している会社では、女性エンジニアを多く雇用し、働きやすさに対する取り組みも進んでいます。一方で、そこまで到達するのにまだまだ時間がかかりそうな会社も多いのが現状です。

ですが、クラウドサービスも充実している今の時代、ITエンジニアは「PC1台でなんでも料理できてしまう」という強みがあります。在宅勤務や短時間勤務でも、専門性を活かしてバリューを発揮しやすい職種なのです。

世の中には会社を超えた女性エンジニア向けのコミュニティがたくさんありますし、SNSで素敵なロールモデルを見つけることもできる時代です。今の場所で力を発揮しづらくても社外にまで目を向ければ、努力次第でチャンスは開かれています。

初心者にも活躍のチャンスがある

最近はプログラミングスクールも増えていますし、書籍や無料で学べるウェブコンテンツも豊富ですから、大人になってからプログラミングに触れる方もいるでしょう。

これはとても良いことで、たとえプログラマーやエンジニアにならなくても、アプリやITツールの裏側がどうなっているのかを知ることは、それらを活用したり新たなサービスを企画したりするうえで大いに役立ちます。

また、プログラムは正しく書かないと狙い通りに動きません。プログラムを書いて試して動かすことを、「debugデバッグ(問題の発見と修正)してexecuteエグゼキュート(実行)する」と言いますが、こうした訓練を受けておくことは、プロジェクトなどを動かすリーダーとしての感覚を養うことにもつながります。

もちろん、日本ではIT人材不足が問題になっていますし、学んだことを活かしてプログラマーやエンジニアにキャリアチェンジするのも良いでしょう。

実はこれらの職業には、経験の浅い方にも活躍のチャンスがあるのです。ITの世界ではどんどん新しい技術や言語が生まれていて、業界のベテランも初心者も、新しい事は同じように基礎から学ぶ必要があるからです。キャリアの長い人だけが有利というわけではないので、どんどんチャレンジしてほしいと思います。

女性としての特長が発揮される場面も

「理系は苦手」「メカや機械はちょっと……」とITに苦手意識を持っている女性も多いのですが、実はいわゆる文系的なセンスや特に女性の多くが得意とするコミュニケーション能力が生きる場面も多くあります。

例えば、プログラミングでは後で使う人のことも考えてわかりやすいコードを書いたり、「Readme」と呼ばれる取り扱い説明書をきちんと整えることも必要です。その点女性は、他の人に配慮したあるわかりやすい表現が上手な人が多いというのが私の印象です。

職業柄、技術的なセミナーで講演をすることが多いのですが、ほかの登壇者が話しているときは居眠りしていた人たちが、私が話し始めたらみんな目を覚まして最後まで聞いてくれて驚いたことがあります。

男性講師の多くは「最新のイケてる機能をいち早く教えます」という姿勢になりがちですが、私は「初めてこの技術に触れる人は、ここがミスしやすいポイントだから気をつけて!」という観点でお話をします。難しい内容をわかりやすく、相手の役に立つように伝えることで、皆さんが私の話に興味を持ってくださったのだと思います。

女性には出産、子育てというライフイベントが伴うケースもあり、それとITエンジニアの仕事を両立するのは大変だという方も多いです。でも、私はむしろ「子育てと仕事、ふたつも没頭できることがあるのは幸せだ」と思っています。両方がんばって良い結果が出れば、どちらか一方だけのときよりも大きな喜びが得られます。仕事にかけられる時間は限られますが、スキマ時間を使えばスキルアップも可能です。

ぜひ自信をもってチャレンジしてください!

構成=やつづかえり 写真=iStock.com

戸倉 彩(とくら・あや)
日本アイ・ビー・エム株式会社 シニア・デベロッパー・アドボケイト
シマンテックでITエンジニアとしてのキャリアをスタート。2011年11月から日本マイクロソフトでテクニカルエバンジェリストとして、同社公式キャラクター『クラウディア窓辺』の“中の人”を担う。18年5月に日本IBMに転じ、セミナーやイベント登壇、授業講師、執筆活動を通じてクラウドネイティブアプリ開発や開発ツールの技術啓蒙を行っている。著書に2018年10月より毎月連載「Visual Studio Code 快適生活」〔『Software Design』(技術評論社)掲載〕、共著に『DevRel エンジニアフレンドリーになるための3C』(翔泳社)など。

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