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「気候変動が、最大の人権問題なのです」──真の公平性の実現に取り組む76歳の元アイルランド大統領、メアリー・ロビンソン。【世界を変えた現役シニアイノベーター】

  • 2020.7.6
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ネルソン・マンデラが2007年に設立した平和と人権尊重を促進するための組織エルダーズで議長を務めるメアリー・ロビンソン。2019年6月国連安全保障理事会にて。Photo_ Luiz Rampelotto / Getty Images
Mary Robinson And Ellen J. Sirleaf Members Of Elders Board Presserネルソン・マンデラが2007年に設立した平和と人権尊重を促進するための組織エルダーズで議長を務めるメアリー・ロビンソン。2019年6月国連安全保障理事会にて。Photo: Luiz Rampelotto / Getty Images

今や気候変動を議論する国際会議のキーパーソンである元アイルランド大統領のメアリー・ロビンソンは、今年6月、イギリスのニュースチャンネルで、パンデミック後の世の中について言及した。

新型コロナウイルスによりCOP26が延期となりましたが、気候変動対策に遅れを生じさせてはいけません。気候変動と向き合う世界中の若者、専門家、先住民族、女性たち、そして環境活動家などの声に耳を傾け、今すぐにアクションを起こさなければ環境破壊は取り返しのつかないレベルに達してしまいます。一方で、このパンデミックによって私たちは、国際的に強く結束できるということを証明しました。この2つの大きな問題の唯一のサステナブルなソリューションは、この結束力を生かして前に向かって行動を起こすことです」

ただ悲観に暮れるのではなく、ウイルスがもたらした国際社会の連帯が、気候変動対策においても一筋の光りたりえると彼女は希望を忘れない。

驚異の支持率を記録した女性大統領。

1992年、大統領在職中のロビンソン。Photo_ David Levenson / Getty Images
David Levenson Archive1992年、大統領在職中のロビンソン。Photo: David Levenson / Getty Images

ロビンソンは以前から環境活動家だったわけではない。弁護士、政治家、外交官を経て、1990年から’97年までアイルランド初の女性大統領を務め、そのキャリアを通じて積極的に人権擁護活動に取り組んできた。人権アジェンダを国連の活動の中核に組み入れたのも彼女だ。そして’97年からは国連人権高等弁務官に任命され、その後は国際法律家委員会委員長、国連気候変動特使などを歴任。母国アイルランドの国際的地位を高めただけでなく、世界各国の男女平等問題や貧困地域でのマイクロファイナンス支援などに尽力してきた。

2人の兄と2人の弟に囲まれて育ったロビンソンは、幼い頃から常に人権・平等・正義に強い関心を抱いていたという。この生い立ちが彼女の進むべき道を方向づけ、大統領就任後も、国民の調和と平和の構築に専念する基盤となった。当時まだ開発途上だったアイルランドの経済を活性化して雇用を創出すべく、貿易や投資を促進し、医療や教育の拡充を図った。驚くことに、任期中の支持率は前例のない98%をマークしたのだった。

「アイルランドに住む女性たちの投票によって、私は大統領になることができました。女性はゆりかごを揺らすだけじゃないのです。社会システムを揺り動かすのです」

気候変動対策と人権問題の深い関係。

2019年12月、マドリードで開催されたCOP25に出席。Photo_ Celestino Arce / Getty Images
Personalities in the COP25 Climate Change Summit in Madrid2019年12月、マドリードで開催されたCOP25に出席。Photo: Celestino Arce / Getty Images

その後も立法および人権の弁護士として、2002年にNGO「権利の実現:エシカル・グローバリゼーション・イニシアチブ」を設立し、紛争地域の人権監視、公平な国際貿易、女性のリーダーシップ育成などの分野において、さまざまな社会変革を起こしてきた。こうして公平な世界の実現に注力してきた彼女だが、意外にも環境問題の深刻さに気づくまでには時間がかかったと述懐している。

「国連人権高等弁務官に就いたばかりの頃は、気候変動の課題には関与していませんでした。私は科学者でも環境法律家でもありませんでしたから。関心を寄せるきっかけとなったのは、食べ物や安全な水、健康、教育や住居といった国民の権利に気候変動が大きな影響を与えていることを知ったときでした」

アフリカ諸国の開発や人権に関わりはじめると、よく耳にするようになったのが「事態はどんどん悪化している」という言葉だった。東ウガンダを訪れたロビンソンは、ある女性からこう言われた。

「この村で生まれ育った私は、規則的に訪れる四季に合わせて、種まきや収穫の時期などを体で覚え、食べ物に困ることはありませんでした。しかし、ここ数年ですべてが失われたのです。長期間の干ばつ、洪水、そしてまた干ばつの繰り返し。自然災害で学校は流され、家畜も死に、収穫するものもありません」

この言葉にロビンソンは衝撃を受けた。その後マラウイでも大規模な洪水が発生し、多くの人命が奪われ、人々の生活基盤も失われた。この時ロビンソンは、気候変動が最大の人権問題であると認識したのだった。

「車も電気も使わず、たくさんの物を無駄に消費しない人たちが、その量に相当しないほどの苦労を背負い、気候変動の影響をより強く受けているのです。これは明らかな不公正の問題であり、衝撃を隠せません」

私たちがまずすべき3つのこと。

2014年にアイルランドで開催された次世代リーダーのためのグローバルフォーラム「One Young World Summit」に出席。Photo_ Clodagh Kilcoyne / Getty Images
One Young World Summit2014年にアイルランドで開催された次世代リーダーのためのグローバルフォーラム「One Young World Summit」に出席。Photo: Clodagh Kilcoyne / Getty Images

今も気候変動の影響を大きく受ける途上国と、限りある資源を消費し続ける先進国の非対称性を解消し、気候正義(Climate Justice)を追求するためには、公平に責任を負担し合い、恩恵を分け合う必要がある。2019年12月にマドリードで開催されたCOP25で、ロビンソンはこう訴えた。

「私たちは、気候変動問題の深刻さを最も理解して対応すべき世代であり、そのためのわずかな猶予が残されている最後の世代です。問題の根幹は、G20参加国にあります。10年以上も前に、化石燃料消費に対する補助金を廃止すると言っていましたが、実行していない国がまだたくさんあります。その空約束が、COP会議の行き詰まりでもあるのです」

ロビンソンは、気候危機への対策は先進国で暮らす私たちの義務であると強調する。昨年のゴールウェイ芸術祭で彼女は、私たちがまずすべき3つのことをオーディエンスに呼びかけた。

「1つ目は、気候変動をあなたの人生に関わる個人的な問題の一つと捉えてください。リサイクルすること、こまめに電気を消すこと、節水すること、公共交通機関を使うことなど、生活の中に環境問題を取り入れて下さい。

2つ目は、怒り感じて、活動的になって下さい。国連や政治家に任せておくわけにはいきません。皆で声を上げ、変革を起こしていかなければなりません。

そして3つ目は急ぐことです。以前、科学者から聞いた話では、人類が方向転換をするための猶予期間は12年しかありません。今を11年目だと思って下さい。そして、より健康で平等、そしてクリーンな電力に支えられた世界を想像してほしいのです」

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Text: Mina Oba

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