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世界一幸福な国・フィンランド流「仕事も人生もうまくいく」正しい休み方のコツ10

  • 2020.7.4
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幸福度世界1位の国フィンランドでは、身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを指す“ウェルビーイング”という言葉をとても重視しているそうです。夏休みは1カ月、午後4時に仕事は終える……など、働き方も休み方も日本とは大きく異なります。フィンランド大使館で広報として活躍する堀内都喜子さんが教えるフィンランド人の上手な休み方とは――。

※本稿は、堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)の一部を再編集したものです。

フィンランドの旗を振る
※写真はイメージです(写真=iStock.com/naumoid)
フィンランド人が4週間の休みをとる理由

かつて、フィンランド人の同僚が4週間の休みをとる理由をこう語っていた。1週目はなかなか仕事から完全に離れられず、頭の中で考えてしまう。2~3週目になると休みを楽しむことができ、4週目になるとそろそろ仕事に戻りたくなる。だから今後の仕事のモチベーションや、心身の健康、ウェルビーイングの観点からも長期の休みが必要なのだ、と。

そして長期休みに同僚が入る時、周りは「仕事もパスワードも忘れて、携帯もメールも見ちゃだめだよ」と声をかけることが多い。誰か一人が長く休みをとるのであれば、周りの人が不満に思ったり、休むほうも心苦しく感じるかもしれないが、みんなが同じぐらい休みをとるので、素直に「行ってらっしゃい」という気持ちになる。

取引先が多少不便を感じたとしても、夏休みの季節だし、自分も休むのだからと、寛容になれる。だが、インターネットや携帯がこれだけ普及している時代に、果たして本当に休み中は仕事から離れられるものだろうか。

フィンランド人も長期休み中のメールは気にしてしまう

フィンランドのニュースサイトの調べでは、実は、夏休み中もニュースを読む感覚でメールを一日一回読んでしまうという人が38パーセント、しかも、うち34パーセントが返信もしてしまうと回答している。ただ、メールチェックは周りに気を使って、家族がそばにいない時に、と答えた人が多かった。

もちろん休みの時は、肉体的にも精神的にも完全に仕事から離れて、リラックスしたほうがいいに決まっている。フィンランドの国立労働研究所の研究者キルシ・アホラもインタビューで「ウェルビーイングの観点から、休みの大切な目的は、仕事の疲労からの回復です。休み中にメールを読んでしまうと、きちんと回復できない可能性もあるのです」と語っている。ただ、1カ月が過ぎて仕事に戻った時に何百ものたまったメールを読むよりは、少ないほうがいいという気持ちも理解できるのではないだろうか。

休みに仕事をしない工夫をしよう

では、休みにメールを読まず、できるだけ仕事をしないようにするには、どうしたらいいか。まず一つは先ほども述べた通り、自分の休暇中に仕事をカバーしてくれるインターンやチームメートを決めておくことだ。そうすれば、その人が代わりにメールを読んだり、答えたりしてくれるので、心穏やかに休みを楽しむことができる。「アウト・オブ・オフィス=オフィスにいません」の自動返信に、自分の仕事をカバーしてくれる人の名前を書いておくことで先方も途方にくれることがない。

同時に、緊急の時の連絡方法を決めておくことが大事だ。代理の人や周りの同僚がどうしても連絡をとりたい時、携帯に電話してもいいのか、日本で言うLINEのようなメッセージアプリにメッセージを送ったほうがいいのかなど。もちろん誰もが休み中に仕事の電話がかかってくる煩わしさを知っているので、それはできるだけ避けたい。ただ、スピードが求められる現在、放っておくことのできない案件が緊急ででてくることはある。

私のある上司の場合は、「メールは一切見ないから、どうしても必要な時はアプリでメッセージを送って」と言う。休みは邪魔したくないが、そのメッセージを送ることが許されたことで、オフィスに残っている人たちが助かることもある。最初から「通常のメールは見ないから」と宣言しておくことで、当人も周りも楽になる。こういった取り決めがあることで、経営陣や管理職であってもある程度心配せずに休めるようになり、今までメールを読むことに費やしていた時間を、なくすことができる。

夏休みにはコテージでデジタルデトックス

だが、長期の休みに慣れていない日本人からしたら、そんなにも長い休みに何をするのだろうと不思議に思うかもしれない。

やはり時間がたっぷりあるので、国内外にゆっくり旅行に行く人は多い。だが、それ以上にフィンランドらしい夏休みは、コテージに行くことだ。550万人の人口のフィンランドには50万軒のコテージがあると言われている。親せきから譲り受けたものや、自分で建てたものなどいろいろだが、きょうだいや親せきと共有して使っていることが多い。

コテージでサウナに入り、自然や静かな時を楽しむ。コテージの中には、電気や水の通った普通の家のように豪華なところもあるが、そういったものが一切ないところも少なくない。

私のある友人は、「いろいろ便利なものが揃っているコテージは、コテージじゃない。やっぱり、明かりは白夜の自然な光のみ、水は近所から汲んできて、昔ながらの薪や炭を使って簡単な料理をするのがいいのよね」とよく言っている。そういったコテージは、もちろんテレビもなく、まさにデジタルデトックスだ。

しかもトイレは昔ながらの屋外の汲み取り式だ。シャワーもなく、サウナを温めて、湖で汲んだ水を薪のサウナストーブの横のタンクに入れてお湯を作り、湖の水と混ぜて行水のようにして体を洗う。

何でもある生活やデジタルな生活に慣れてしまっていると不便に感じるコテージライフだが、日々の忙しさや喧騒から離れてこういったところで1~2週間過ごすと、身も心もリセットされる。読書を楽しんだり、魚釣りをしたり、近くを散策したり、予定や時間に追われない、何もしない時間を楽しむのだ。

DIYや勉強、家族の行事を楽しむ人も

湖や海が身近なフィンランドでは、ボートやヨットを持っている人も多い。友人のご両親は夏休みのうち10日間ほどを毎年ヨットで過ごす。大小様々な島を巡り、ヨットの中で眠る。さらに、仲間とキャンプに行ったり、フィンランド中で開催される音楽やアートのフェスティバルに出かける人も多い。

また、夏は結婚式や、堅信礼(15歳になってあらためて洗礼をうける。フィンランドでは成人式のような意味合いが強い)など、家族・親せきがらみの行事も数多くある。そういった行事に参加するため、フィンランド中を移動する。

さらにはDIYが盛んなフィンランドでは、日が長く、まとまった時間のある夏休みにリノベーションをする人が多い。トイレや浴室、壁のペンキ塗りなど、普段できないことをこの時に家族総出で行うのだ。もちろん庭仕事や畑仕事など、雪がなく暖かいこの時期にしかできないこともたくさんある。

夏休みを学習期間に充てる人も多い

時間のある夏に勉強をするという人もいる。大学や高校などでは公開講座も多く開催されているし、語学に興味のある人は海外の語学講座に行くこともある。さらに、仕事をしながらでも大学や仕事に関係のある補習講座に通う人が多いフィンランドでは、この時期にまとめて論文を書いたり、座学に通ったりする人もする。

夏休みに何をするかはそれぞれ自由だ。何もしない時間をのんびりと過ごす人もいれば、予定をつめこんで慌ただしく過ごす人もいる。それでも、4週間、6週間の休みが「長すぎた」「暇すぎた」と言っている人に会ったことがない。子どもの時には2カ月半の夏休みを過ごしているので、ある意味夏休みは長くて当然。慣れているところもある。終わってみればあっという間、もっと休みがあればいいのに、という声も聞こえてくる。

休み明けにバリバリ働くフィンランド人

そんなに休んでしまったら、仕事に戻れなくなるのでは? と思う人もいるかもしれないが、たいてい1~2日で元に戻れる。そして心身共にリフレッシュしたフィンランド人は、驚くほどの集中力でバリバリ仕事をこなしていくのだ。そういった姿を見ていると、やはり長期休みは必要なのだと感じさせられる。

堀内都喜子『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)

ただ、フィンランド人の中にも、「夏休みに何かをしなければならない」とか、家族や親せきと過ごす時間が増えることに起因するストレスを感じる人もいるようで、夏休み前になると雑誌などでよく「こうすれば楽しい休みが過ごせる」といった特集が組まれる。

では、効果的な休みのとり方とは、どういったことか。フィンランドの労働衛生研究所の研究者は、まず日常生活で疲れた体と心の回復をすることが大切だという。そのために効果的なのは休暇中にいつもとは違ったことをすることであると語る。

つまり仕事から頭を切り替えることが大事だ。例えば、休暇のはじめに旅行をすると、うまく切り替えられる。それがうまくいかない場合は、ほかの形で日常のルーティーンを変えることも大切だそうだ。

そういう意味で、フィンランド人が旅行に行ったり、コテージでのんびり過ごすのは、ベストな過ごし方と言える。

フィンランド流、おすすめの休みの過ごし方10

ここでは、専門家が推奨する効率的な休みのとり方も紹介してみたい。

1 環境を変え、他のことを考えて仕事は忘れる

環境を変えると、忘れやすい。職場から離れ、同僚と会わないことも大事。環境が変えられない場合も、他に楽しい、面白い、集中できることを見つける。仕事のことを考えないとまでいかなくとも、頭の隅に追いやることは比較的簡単にできる。

2 休暇モードに気分を切り替えられるよう、仲間を見つける

笑顔の相手を見ることで、自分も口角があがってくる。つまりミラー現象。そういう仲間のそばにいると、自然とリラックスできて、楽しくもなる。

3 休みのはじめに頑張りすぎない

やらなければならないこと、リストにあることをいろいろと頑張ってやりすぎてしまうより、はじめは休むこと、回復することを重視すべき。

4 デジタルデトックスをせめて1週間

すべてのデジタル機器から最低1週間離れる。

5 携帯やタブレットからの距離をとる

携帯やタブレットは音も電源も落とし、家族に預かってもらったり、ロックをかけたり、依存から脱却する。視界に入らないようにするだけでも、効果あり。

6 楽しい瞬間を写真などで保存する
7 適度な運動をする
8 自分自身にご褒美をあたえつつも、規則正しい生活をする
9 短い休みでも、積極的に休みの気分を作るようにする

例えば、街にでかけてボーッと人間観察をしたり、観光客を見たりする。過去の休みの思い出を、思い浮かべる。

10 休みと活動のバランスをみつける

休みを楽しむことと、日常の改善。どちらにも好きなことや楽しみを入れるといい。

「人間、休みは必要」と皆が理解しあうことが大切

どんな風に休みを過ごすにしろ、心身ともにしっかり休むことで、疲れがとれてリフレッシュし、次に頑張ることができるし、効率を高めることにもつながる。だからこそ年齢や性別、家族の有無にかかわらず、すべての人に休みは必要だ。

フィンランドにいると、休みをとること、そして効率よく休みをとって日々の疲れやストレスを解消することの重要性を感じる。それには、職場や上司の理解や柔軟な対応も求められる。でも総じて、フィンランドにいると「人間、休みは必要」と皆が理解しているのがとても心地いい。

写真=iStock.com

堀内 都喜子(ほりうち・ときこ)
ライター
長野県生まれ。フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院で修士号を取得。フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館で広報の仕事に携わる。著書に『フィンランド 豊かさのメソッド』(集英社新書)など。

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