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グラミー賞、人種差別的と批判されてきた「アーバン」部門の名称を変更することを発表

  • 2020.6.11
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グラミー賞を主催するレコーディングアカデミーが来年2021年の第63回グラミー賞を開催するにあたって新たな変更点を発表。黒人差別的とたびたび批判されてきた「アーバン」部門の名称が変更されることが明らかになった。(フロントロウ編集部)

「アーバン」という名称を撤廃しようという動きが広がる

世界各国で人種差別に抗議するためのブラック・ライヴズ・マター(Black Lives Matter)運動が行なわれ、黒人差別を撤廃しようという動きが広がっているなかで、音楽界では「アーバン」というジャンルが改めて問題視され始めている。

「アーバン」は都会的なイメージのある音楽を指す言葉であった一方で、R&Bやヒップホップを示す文脈で使われることも多く、それが次第に、黒人ミュージシャンや彼らの作品を一括りにまとめたジャンル名として使われるように。今年開催された第62回グラミー賞において、最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞にノミネートされた作品はすべて有色人種のアーティストの作品となっている。

2013年にグラミー賞に新設された最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞だけれど、歴代の受賞者を振り返ってみても、2013年から順番に、フランク・オーシャン、リアーナ、ファレル・ウィリアムス、ザ・ウィークエンド、ビヨンセ、再びザ・ウィークエンド、ビヨンセとジェイ・Zのユニットであるザ・カーターズ、そして直近の2020年の受賞者がリゾと、全員が有色人種のアーティストとなっている。

画像: 今年のグラミー賞で最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を受賞したリゾ。
今年のグラミー賞で最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を受賞したリゾ。

有色人種のアーティストを一概に「アーバン」というジャンルでくくろうとする風潮には多くの批判が寄せられており、アーティストのタイラー・ザ・クリエイターも今年、第62回グラミー賞授賞式でアーバンをめぐる現状を批判。最新アルバム『IGOR』で最優秀ラップ・アルバム賞を受賞したタイラーは受賞後、グラミー賞におけるカテゴリー分けについて、「ウンザリするのは、俺みたいなルックスの奴がジャンルをまたがるようなことをやったとしても、常にラップかアーバンのカテゴリーにくくられるということ。『アーバン』という言葉は好きじゃないんだ。俺には単に、Nワード(※1)をポリコレ的(※2)に言っただけに聞こえる」と苦言を呈していた。

※1 黒人の蔑称のこと。
※2 政治的/社会的に中立な言葉や表現を心がけること。

グラミーが名称の変更を発表

先日、アリアナ・グランデやテイラー・スウィフトらが所属するリパブリック・レコードが「アーバン」というジャンル名を今後使用しないことを表明するなど、音楽業界でも本格的に撤廃に向けた動きが広まっているなか、グラミー賞を主催するレコーディングアカデミーは今回、最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞の名称の変更を含む、来年のグラミー賞に向けた変更点を発表した。

画像: 「アーバン」という名称に苦言を呈したタイラー・ザ・クリエイター。
「アーバン」という名称に苦言を呈したタイラー・ザ・クリエイター。

今回、最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞は「最優秀プログレッシブ・R&Bアルバム賞」という名前に名称が変更されることが発表されている。ちなみに、グラミー賞の会長で、暫定のCEOであるハーヴェイ・メイソン・ジュニア氏は米Billboardに対し、最初に名称変更の提案があったのは今年の3月だったことを明かしており、必ずしも直近のブラック・ライヴズ・マター運動を反映したものではないよう。

メイソン氏は「アーバン」という名称について「違和感を感じていた」ことを認めた上で、今回の名称変更について「R&Bコミュニティが徐々に変化している」ことを示すものだとしている。メイソン氏によれば、今回の変更はR&Bのよりプログレッシブ(進歩的/前衛的)な要素を反映できるようにしたもので、ヒップホップやラップ、ダンス、エレクトロニック・ミュージック、ポップをはじめとした様々な別ジャンルの要素を含んだR&Bなどもここに分類されるという。

画像: 最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を2度受賞したビヨンセ。
最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞を2度受賞したビヨンセ。

一方で、グラミー賞のカテゴリーから完全に「アーバン」という名称がなくなるわけではなく、ラテンの部門ではこの名称が残る。昨年まで最優秀ラテン・ポップ・アルバム賞という名称だった同賞は「最優秀ポップ/アーバン・アルバム賞」という名称に変更されるという。また、ラテン部門ではラテン・ロック、アーバン/オルタナティブ・アルバム賞が「最優秀ロック/オルタナティブ・アルバム賞」という名称に変更されることも発表されている。

今回の発表では上記の変更に加えて、最優秀ラップ/サング・パフォーマンス賞の名称が「最優秀メロディック・パフォーマンス賞」に変更されることや、審査基準を透明化するために、グラミー賞のルールブックを一般に公開することなどが発表されている。

果たして人種差別の解消となるか

「アーバン」という名称は変更されたものの、これが必ずしも音楽界、とりわけグラミー賞における人種差別の解消に繋がるとは言い切れないかもしれない。

画像: 果たして人種差別の解消となるか

ビリー・アイリッシュは以前、英GQとのインタビューで「『“白”っぽい見た目だね』って言われるのがすごく嫌い。“白”っぽいサウンドだね、とか。タイラーが言ったことはすごくクールだと思う。その言葉については彼に同意する」と、「アーバン」という名称に苦言を呈したタイラーに同意すると語った一方で、次のようにも述べていた。

「見た目や服装でアーティストを判断しないでほしい。グラミー賞でリゾが最優秀R&B部門にカテゴリーされていたよね?何が言いたいかって、彼女は私よりもポップだと思うの」

ビリーの言う通り、人種差別が存在しているのは必ずしも「アーバン」のジャンルだけではない。ビリーは「もし私が白人じゃなければ、きっと『ラップ』にくくられていたと思う。なぜかって?人々は見た目と、自分が知っていることから判断するから。おかしなことだと思うけどね」とも発言している。

さらに、グラミー賞ではこれまでたびたび有色人種のアーティストへの「不遇」が問題視されてきており、必ずしも人種の問題とは言い切れないものの、ビヨンセやケンドリック・ラマーら、批評的に高い評価を集めた黒人アーティストのアルバムを抑え、テイラー・スウィフトやアデルの作品が主要部門の1つである最優秀アルバム賞を受賞するなどして、批判されてきた過去がある。2017年にアデルが最新作『25』でビヨンセの『レモネード』を退けて最優秀アルバム賞を受賞した際には、アデルが涙ぐみながらビヨンセに賛辞を寄せたことも話題になった。

グラミー賞は2018年、多様性を反映するため、女性/有色人種/39歳以下の人たちを約900人新たに会員として迎えて、投票権を与えた。とはいえ、ビリーの上記の発言に表れているように、必ずしも多様性が完全に反映されるようになったとは言い切れない。来たる来年のグラミー賞において、「最優秀プログレッシブ・R&Bアルバム賞」にどんなアーティストがノミネートされるかを引き続き見守りたいところ。(フロントロウ編集部)

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