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コロナ後、いよいよ絶滅させられる日本型「テレパシーマネジメント」上司とは

  • 2020.6.11
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リモートワークが普及してくると、空気を読んで忖度したり、空気で伝えたりすることが一気に困難になります。これまでかろうじて日本で機能してきた“テレパシーマネジメント”が通用しない。そんなアフターコロナ時代に、マネジメントスタイルや人材育成、人事評価の在り方はどう変わっていくのでしょうか。

世界の摩訶不思議、日本のテレパシーマネジメント

新型コロナウイルスの影響で、多くの企業がテレワークを導入するようになりました。テレワークは感染予防だけでなく働き方改革にもつながるので、緊急事態宣言解除後も何らかの形で継続されていくでしょう。

あしたのチーム 高橋恭介社長
あしたのチーム 高橋恭介社長

毎日出社しない働き方が一般化する中で浮かび上がってきたものがあります。それは“テレパシーマネジメント”の限界です。日本の職場では、上司が明確な指示を出さなくても部下が忖度して動くことが求められます。テレワーク時代は、そうしたマネジメント手法が通用しなくなるのです。

テレパシーマネジメントは、主に海外の日系現地法人で働く現地採用の社員の間で使われ始めた言葉です。中国なら総務経理、シンガポールや香港ではMD(マネージングディレクター)は日本本社からやってきますが、彼らは「みなまで言わせるな。あ・うんの呼吸でわかるだろう」とばかりに曖昧な指示に終始します。よくあるのが、「あれ、やっといて」。「あれ」が何を指すのか明示しないままに指示を終えるので、現地社員は頭を抱えるわけです。

世界では摩訶不思議と思われているテレパシーマネジメントも、空気を読む文化である日本ではそれなりに機能していました。たとえば部下に反省を促したいときに、言葉でそう伝えるのでなく、声色や表情など五感を通して伝えようとする上司は珍しくありません。たしかにオフラインではノンヴァーバルなコミュニケーションが効果を発揮することがあります。しかし、オンラインではノンヴァーバルな情報がそぎ落とされます。それに気づかずに従来通りの手法でやっていたら、部下を戸惑わせるだけです。

「背中を見て学べ」は通用しない

テレワークの時代になれば、人材育成の手法も変わらざるを得ないでしょう。これまで日本で幅を利かせてきたのは、「背中を見て学べ」というOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)でした。これも一種のテレパシーマネジメント。私はOJTほど乱暴な教育システムはないと考えていますが、とにもかくにも日本企業ではそれが成立してきました。

しかし、テレワークへの移行でOJTも限界があらわになりました。オンライン会議ではみんな前を向きます。背中を見せようにも見せられないのですから、他の方法で育てるしかない。

具体的には、やるべきことをマニュアルの形で明文化する必要があります。また、研修もオンライン化が進みますから、動画をしっかり作り込まなくてはいけません。営業やマーケティング部門が顧客向けに動画を作り込むのと同じ。本部にとってのお客様は自社の社員ですから、リッチな研修動画を提供すべきです。

変化を求められるのは現場のマネジャーも同じです。テレワークでは空気で伝えることが困難なので、一つひとつ明確に言葉にして指導しなくてはいけません。これからは「空気を読んで動け」が通用しないことを肝に銘じておいてください。

いるだけで給料がもらえる社員は許されるか

テレワークで限外が露呈したものといえば、年功型賃金もその一つでしょう。年功型賃金は、製造業中心の産業構造で、人口ボーナスがあってGDPが上昇し続ける時代にはうまく機能していました。いまでも定型業務についてはワークすると思います。しかし、社会の状況が変わり、ビジネスパーソンの仕事も定型ではないものが増えてきました。その結果、会社にいるだけで給料がもらえて、さらに毎年増えていく賃金体系に疑問を持つ人も増えています。

その流れを加速させたのがテレワークです。これまでのオフラインの会議では、そこに座っているだけの“乗っかり社員”も存在を許されてきました。何も発言しなくても、物理的に存在することで何か仕事をしているように見えたからです。

しかし、オンラインになるとどうでしょうか。出席者全員の顔が並べられている設定ではなく、発言者の顔しか表示されない設定であれば、いるだけで発言しない社員は存在していないのと同じです。存在していないのに給料がもらえるのは、さすがにおかしい。テレワークの浸透で、多くの人がそのことに気づき始めたのです。

かわりに求められているのは、パフォーマンスを評価して、その評価と連動して額が決まる成果型賃金です。年功型から成果型へのシフトはコロナ前からの大きなトレンドでしたが、コロナで脱年功型賃金の動きは3年早まったと言っていいでしょう。

成果主義イコール結果主義という勘違い

テレワーク時代は成果型賃金への移行が必要だというと、「かつて日本は、行き過ぎた成果主義によって社内で足の引っ張り合いが起きて失敗した。同じ轍を踏むつもりか」と反論をいただくことがあります。テレワークはチームのコミュニケーションが希薄になりがちで、成果型賃金を導入すると余計に失敗しやすいというわけです。

しかし、この意見は二つの大きな誤解に基づいています。まず、成果主義イコール結果主義ではありません。成果主義で評価の対象になるのは、最終的な数値だけではありません。結果に至るプロセスも評価の対象です。結果を出すためにあらかじめ決められていた行動をきちんと遂行すれば、それも成果の一つとして考えます。

ところが、人事関係者にも成果主義と結果主義を混同している方が多く、成果主義はプロセスを無視した賃金制度だという誤解が世間にも広がっています。私も結果のみにフォーカスした評価は危ういと思いますが、本来の成果主義はそういうものではない。プロセスを含めて評価をすれば、かつてのような失敗は起きないはずです。

また、チームワークのための行動も、成果主義なら明確に評価することが可能です。たとえば「ワン・オン・ワン・ミーティングを週1回30分やる」「1時間に1回は上司に仕事の進捗を報告する」というように細かくプロセス目標を設定すれば、曖昧さが残るこれまでの目標管理より、テレワークにずっとフィットしやすいはずです。

テレワーク時代に活躍する人の3つのスキル

指示はテレパシーではなく明文化して伝えること、そしてプロセス目標を細かく設定したうえで目標管理をすること。テレワークの浸透で、これからはこうしたマネジメントが主流になっていきます。

では、こうした変化によって活躍できるのはどのような人材でしょうか。高い目標遂行能力が求められることは言うまでもありませんが、その前後にある二つのスキルを持っていることも重要です。

まず、目標設定スキルです。自分のジョブに対する会社の期待要求レベルはどの程度なのか。それを理解したうえで、自分から能動的に目標を設定するのです。もう一つは、自己評価スキル。一般的に自己評価は他人評価より高いと言われていますが、目標を遂行できたかどうかを本人が客観的に評価できれば、上司が面談で確認する必要がなくなります。

目標設定、目標遂行、自己評価。これら3つの能力を高いレベルで持っていれば、上司の手を煩わせることなく部下がセルフで回していけます。テレパシーマネジメントや年功型賃金は上司の手抜きですが、テレワーク移行後は別の形で上司に楽をさせあげるわけです。もちろんセルフで回れば、働きやすさややりがいが向上して、より成果を出しやすくなる効果も期待できます。

まずは会社が用意した目標管理シートの枠を超えて、「自分でこういう目標設定をしました」と提案してはいかがでしょうか。それを嫌がる上司はマネジャー失格で、実際は応援してくれる上司が多いでしょう。

テレワークで従来のマネジメントは通用しなくなります。一般社員も受動的にその変化に身をゆだねるのではなく、先回りして手を打っていくことが大切なのです。

構成=村上 敬

高橋 恭介(たかはし・きょうすけ)
株式会社あしたのチーム 代表取締役社長
千葉県松戸市生まれ。千葉県立船橋高校出身、東洋大学経営学部卒業後、興銀リース株式会社に入社。リース営業と財務を経験する。2002年、創業間もないベンチャー企業であったプリモ・ジャパン株式会社に入社。副社長として人事業務に携わり、当時数十名だった同社を500人規模にまで成長させ、ブライダルジュエリー業界シェア1位に飛躍させた。同社での経験を生かし、2008年リーマンショックの直後に株式会社あしたのチームを設立、代表取締役に就任する。国内外3000社を超える中小・ベンチャー企業に対して人事評価制度の構築・クラウド型運用支援サービスを提供している。現在も全国で年間100回以上の講演に登壇し、数多くの著書も出版している。

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