1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 消せないコンプレックスは抱えて生きる。だって、ロリータが好きなんだもん

消せないコンプレックスは抱えて生きる。だって、ロリータが好きなんだもん

  • 2020.6.11
  • 21713 views

ロリータファッションのカリスマ・青木美沙子さん。ロリータに目覚めてから20年近く、「普通であるべき」「年相応の装いをするべき」といった世間の呪縛と、ずっと向き合ってきました。葛藤したこともあるけれど、それでもドレスをまとう彼女は「やっぱりロリータが好き」と微笑みます。その軽やかさは、どこから来ているのでしょうか?

私がロリータと出会ったのは、16歳のとき。雑誌『KERA』の読者モデルになったのがきっかけでした。たまたま撮影で着たロリータの衣装に、すっごくときめいたんです。

フリルやレースがいっぱいついたドレスは、まるでお姫様みたい。小さな頃、ピアノの発表会でおめかししたときのうれしい気持ちを思い出しました。大きくなったらもう結婚式くらいしかそんな機会はないと思っていたのに、ロリータを着れば、誰でもいつでもお姫様になれる。「私、これからもお姫様になっていいんだ!」って、感動したんです。

でも、ロリータはとってもお金のかかるファッション。1着3万円、トータルコーディネートで10万円、なんていう世界です。高校生の私にはもちろん手が出せず、しばらくは雑誌の撮影で楽しむだけ……。自分の稼ぎで少しずつ買えるようになったのは、20歳を過ぎて、看護師として働き始めてからでした。

■ロリータは私にとって“自信をくれる服”

ロリータ服を見て「着るの恥ずかしくない?」と考える方は、少なくないと思います。でも、実は逆。ふんわりしたドレスは、身体のラインがまったく出ないため、自分が普段恥ずかしく感じている部分を上手に隠してくれるんです。

たとえばお腹に脂肪が蓄積していても、胸がちょっとさみしくても、おしりが大きくても、まったく見えません。身体のコンプレックスをすべて隠してくれるロリータは、私にとって「自信を与えてくれる服」。着ると、いつでも勇気が湧いてきます。

それから、袖を通すだけで普段の自分の生活を忘れ、非日常の気分になれるのもいいところ。子育て中のロリータ仲間は、ストレス発散のために「土日ロリータ」を続けているそうです。

そう考えるとロリータファッションって、たぶんジャニーズや宝塚を観に行ったり、スポーツをしたりするのと同じ。“趣味”のひとつなんじゃないかなぁと思います。外見にインパクトが出る分、どうしても「自己主張が強そう」「激しい人なのかな?」なんて、誤解をされがちなんですが……(笑)。

でも、小さな頃にお人形遊びをしたことがある女の子は多いはず。ロリータはそんな、かわいいドレスの着せ替えに似ています。着せ替え遊びを自分自身で体現できるなんて、めちゃくちゃ楽しいと思いませんか? もしかすると私は、大好きだったリカちゃん人形になりたい気持ちが、いまも続いているだけなのかもしれません。

■「そろそろ落ち着いて、結婚して子どもも産む頃でしょ?」

とはいっても、いまの日本でロリータファッションを続けるのは、少しハードルが高いのも事実です。日本は島国なこともあってか、同調圧力が強い文化。「この年齢だからこうすべき」というプレッシャーが、根強く残っています。メディアなどでも「若く見えるモテファッション」や「結婚適齢期」といった表現をよく見かけるし、それがとてもキャッチーだからこそ、苦しい気持ちになってしまう女性も少なくないのではないでしょうか。

私自身、25歳や30歳といった“節目の年齢”では、このままロリータを続けていいのかと悩むことがありました。

特につらかったのは、30代に入るとき。「そろそろ落ち着いて、結婚して子どもも産む頃でしょ?」といった社会的圧力を、じりじり感じていたんです。
実際、私も結婚や出産には興味があります。大好きなロリータを手放したくはないけれど、男性ウケが悪いとされがちなファッションだから、恋愛はしにくい。じゃあ、このあたりで辞めたほうがいいのかも……? と、しばらく自問自答の日々が続きました。

■消えないコンプレックスなら、抱えて生きていけばいい

そんな私の年齢コンプレックスを弱くしてくれた出来事が、ふたつあります。

ひとつは32歳頃、外務省から任命された「カワイイ大使」のお仕事で、アメリカを訪れたときのこと。ロリータ文化を盛り上げるために、現地のロリータちゃんをたくさん集めて、お茶会をしたんです。そのとき、私が「自己紹介で年齢を言いましょう」と周りに促したら、ある方から「それは失礼ですよ」とたしなめられて……。私にとっては、社会が“厳しいジャッジをする基準”でもあった年齢。なのにアメリカでは、人に言う必要さえない“プライベートな情報”だったんです。

日本では、自己紹介で年齢を言ったり尋ねたりするシーンが、まだ珍しくありません。でもこの出来事を経て、年齢なんて言わなくてもいいんだな、と思えるようになりました。

もうひとつの出来事は、34歳で出演したドキュメンタリー番組『セブンルール』(フジテレビ系)です。そこで初めて、私ははっきりと年齢を公表しました。

10代から読モをやっているので、計算すれば誰でもすぐにわかるんだけど……改めて言うのが怖かったんですね。「その歳で結婚していないのを、ロリータのせいにしてる」などと言われることもあって、ただでさえ重たく感じている社会的な圧力を、これ以上受けたくなかったんです。

でも、思い切って公表したことで、同じように悩んでいる方々からは反響がありました。私自身も、人と悩みをわかち合ったことで、なんだか楽になれたんです。

コンプレックスは、なくならないもの。とくに年齢は、どうしたって変えられません。だったら、その消えないコンプレックスを抱えながら生きていったらいい、と思うんです。
誰かに「あの年でやばい」「劣化したよね」と揶揄されたって、そんなことを言ってくるような人は、自分の人生に関係ありません。悪意ある言葉には耳を貸さず、自分と他人を比べず、生きていけばいいんじゃないかなぁ。

悩んだときもあるけれど、結局「やっぱり好き!」という気持ちと、周りに人生を左右されたくないという気持ちが勝って、私は今日もロリータを着ています。

Beauty 1583201753112

■意外と、誰も見てません! やりたいことをやっちゃおう

幸い、ファッションは昔に比べてずっと多様化してきました。きゃりーぱみゅぱみゅちゃんのおかげで「原宿カワイイ」が世界的に人気となり、ロリータの認知度も少しずつ上がっています。

それでもやっぱり、ロリータに限らず、自分がしてみたいファッションを試す勇気が出ないという方に、もう一言。実は、私がロリータを着ていても、周りはほとんど見ていません(笑)。フル装備で千葉から電車に乗っているのに、誰も気にしてない……なんて日も、最近は結構あります。

スマホ時代になってから、みんなスマホを見ているんですよね。その程度の周りの視線なんて、気にするだけ損です。人の目や年齢が気になってあきらめていること、なんでもやればいいと思います。

どうしても勇気が出ないなら、まずは自宅で!
ちなみに、おうちでロリータを着ることは「宅ロリ」といって、れっきとした楽しみ方のひとつです。ご興味のある方はぜひ試してみてくださいね。

私がロリータファッションをするときにこだわっているのは、なんといっても前髪! 可憐なお人形のように見せるには、厚めのぱっつんにするのが一番手っ取り早いんです。セクシーなお洋服を着る方が筋トレで身体づくりをするように、ロリータの私は“少女らしく見える髪型やメイク”を、いつも研究しています。

■無理はしない。でも、好きな限りは続けたい

先日、誕生日を迎え、私は37歳になりました。自分に何がしたいのか問いかけてみると、いまのところ「ロリータが好き。だからこれからも続けたい」が答えです。

何年も着続けてきたロリータは、私に自信をくれました。でも、社会の偏見に苦しんでいる仲間たちは、変わらずたくさんいます。今私は、ありがたいことに“ロリータの象徴”みたいに扱っていただく立場。だからこそこれからも、ロリータの地位を向上するために、頑張っていくつもりです。

だけど、一番大切なのは、自分が心から“楽しむ”こと。ロリータのために“頑張る”なんて言葉は、もしかしたらちょっと強すぎるかもしれません。ただただ、かわいくて大好きなファッションなんだから、いつも自分らしく、向き合っていたいだけ。自分がロリータを好きだと感じる限りは、楽しんで続けていきたいなって思っています。

編集協力/菅原さくら
写真提供/青木美沙子(@misakoaoki)

元記事で読む
の記事をもっとみる