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「テレワークだから…」と残業代を払わない企業、法的問題は?通常出勤と違う?

  • 2020.6.8
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テレワークだから残業代は払わない、法的には?
テレワークだから残業代は払わない、法的には?

新型コロナウイルスの影響による緊急事態宣言が全面解除された後も、テレワークの推奨は続いています。テレワークは通勤時間がなくて済む一方、一部には「テレワークだから残業代は払わない」という企業もあるようで、SNSなどでは不満の声も出ています。

テレワークの残業代について、グラディアトル法律事務所の井上圭章弁護士に聞きました。

テレワークと通常出勤、基本的に違いなし

Q.テレワークの場合と通常通り出勤しての勤務の場合で法律上、扱いに違いがあるのでしょうか。

井上さん「テレワークを行う場合であっても、通常勤務と同様、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法などの労働基準関係法令が適用されます。

そのため、テレワークと通常出勤で、法令などの適用について基本的に扱いに違いはなく、例えば、会社が社員に残業をさせたような場合、通常出勤のときと同様、残業代を支払う必要があります」

Q.テレワークの社員に残業代を払わない企業があるようです。法的問題を教えてください。

井上さん「社員が会社の指揮命令下において労働をした場合、その労働に対応する賃金を支払う必要があります(民法623条)。そのため、就業規則などに定められた所定労働時間を超えた場合は、その超えた時間分の賃金を支払う義務があります。

また、労働基準法で定められた法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた場合は、その超えた時間分の賃金に加え、割増賃金を支払う義務があります(労働基準法37条など)。もし、会社がテレワークの社員に残業代を支払わない場合、社員は会社に残業代の支払いを請求することができます」

Q.なぜ、テレワークの社員に残業代を払わない企業があるのでしょうか。

井上さん「テレワークの導入により、テレワーク中の労働時間について『みなし労働時間』になると思い込んでいることが原因の一つではないでしょうか。

みなし労働時間制は、実労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間働いたとみなす制度ですがもちろん、テレワークを導入したからといって、自動的にみなし労働時間制が適用されるわけではなく、所定の要件を備えることが必要です。

例えば、会社以外の場所で会社の業務を行う場合、『事業場外みなし労働時間制』(労働基準法38条の2)を採用することができます。テレワークにより会社以外で業務を行う場合で、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な場合は、この事業場外みなし労働時間制が適用できます。

ただし、単に『自宅で仕事をしているから』という理由だけでは労働時間の算定が困難とはいえず、次の要件が必要です。

(1)『パソコンなどの情報通信機器を、常時通信可能な状態にしておくこと』が、使用者の指示として義務化されていないこと。つまり、上司が送ったメールにすぐ返信しなかったり、携帯電話に出なかったりしても問題なしとされること。

(2)『随時、使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと』。つまり、業務の目標や期限といった基本的な指示を除いて、具体的な仕事の進め方が社員に任されていること。

以上2つの要件を満たした場合に、『使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難』と判断されると考えられています。

そのため、テレワークであっても、携帯電話(スマートフォン)やパソコンなどで使用者(社長や上司)が具体的な業務について指示できる場合は、事業場外みなし労働時間制の要件を満たさず、通常通りに残業代を払う必要があります。会社は注意が必要です。

また、仮に事業場外みなし労働制の要件を満たしているとしても、導入の際には、労働時間として何時間労働したことにするかについて、就業規則や労働協約で定めることが必要です」

Q.テレワークの時間管理は難しそうです。適正な管理をしている企業では、どのような管理方法を採用しているのでしょうか。

井上さん「会社は厚生労働省が定めた『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』に基づいて、社員の労働時間の適切な管理を求められています。

ガイドラインによると、タイムカードやICカード、パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録を基礎として確認し、適正に管理することとされています。どのような管理の仕方をするかについては、業種や会社の規模などによってさまざまです。

例えば、テレワークでは、オンライン上での時間管理やタイムカード・ICカードの代わりに画像音声通話による朝礼終礼での出勤確認、休憩時間のメールなどによる報告、日報の提出などによって、いつ、どれだけの時間働いていたのかを管理している会社もあります」

Q.テレワークの残業代を払わない企業に、社員はどのように対応すればよいのでしょうか。

井上さん「残業代を請求するためには、労働時間の立証が問題となることが多いです。そのため、労働時間についての客観的な資料をできる限り集めておく必要があります。

例えば、業務を開始した時間、休憩時間、終了時間をメモなどで残しておくことで労働時間を計算する資料にできますし、それ以外に、雇用契約書、就業規則、給与明細などの資料もあるとよいでしょう。

また、労働問題については、残業代に限らず、関係法令や就業規則などの定めなど、複雑な規定を把握しておく必要があるので、一般の人には判断が難しいところもあります。

中には会社から、『うちの会社には残業代の制度はありません』などと言われたため、『残業しても残業代は支払われない』と思い込んでいた人もいました。先ほど述べたように、所定労働時間を超えて働かせた場合、会社は超過分の賃金、つまり、残業代を支払う義務があり、社員は請求する権利があります。

働き方や給与について疑問があったら、早めに弁護士などの専門家に相談に行くことをおすすめします。また、労働基準監督署や労働局へ相談に行くという方法もあります。いずれにせよ、できる限り資料を残し、早めに相談することがポイントとなります」

オトナンサー編集部

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