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「独身男性」は門前払い? 日本の里親制度を題材にしたコミック『人の息子』

  • 2020.6.5
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あのあやのさんの『人の息子』は、日本の里親制度や児童福祉の状況を題材に、心優しい独身男性と、境遇に負けず健気に成長する少年との交流を描くコミックだ。

小さき者を守り抜く覚悟はあるか。血か絆かを問う、里親と里子の物語。

“鈴木ササカマ”のペンネームで活躍している31歳のマンガ家・鈴木旭。彼のもとに届いたファンレターの差出人〈山本たかね〉という名前を見て、旭ははっとする。高嶺(たかね)は以前、旭が保育士をしていたころに実の母に捨てられ、児童養護施設へ送られた子だった。手紙を媒介に、ふたりは3年ぶりに再会。高嶺の境遇に心を痛める旭は、高嶺の里親になりたいと考え始めるが…。

「私自身も子育て中で、子どもが育つ環境については思うことがいろいろあります。里親制度についてよく知っていたわけではないのですが、取材するうちに、単身者で、しかも男性だと里親になるのがとても難しいとわかりました。でも、夫や周囲のパパさんたちを見ていても、育児は男性も普通にします。子どもが好きで養育環境も用意できるのに、独身で男性だというだけで門前払いされる状況には違和感がありました」

そこで旭のように、里親になるハードルが高い人物を据え、旭と高嶺が正式に里親里子になれるかを追った。ふたりの親交が深まるにつれ、制度の壁や周囲との価値観のずれなども浮き彫りに。高嶺が大人びた振る舞いをすればするほど、言葉にしない彼の孤独感に、胸が痛む。

「職員さんが辞めたり、18歳になった年長の子どもたちが先に施設を出たり。常に“別れ”を意識する流動的な環境で育つわけですね。だからわがままになる子もいれば、過剰に達観してしまう子もいる。高嶺は後者のように描いていますが、旭といるときは安心して子どもっぽい面を見せたりする。そういう変化も描けたらいいなと思っています」

第2巻は9月に刊行予定。果たして旭は里親の認定試験に合格し、一緒に住むことを叶えられるのか。

「こんなマンガを描いていてなんですが(笑)、私は『泣ける』みたいに謳うエンタメが苦手で、編集さんとの打ち合わせでもそういうふうにしないと決めました。旭と高嶺がハッピーになり、読者もほっこりした気持ちになる世界を目指したいです」

おそらく試練はまだ続く。だからこそ、ふたりを応援していきたい。

『人の息子』1 サイドストーリーとしてラブ要素もちょっぴり。旭は児童福祉司をしている美女の秋山さんを意識しているよう。秋山さんも少しずつ旭を信頼していく様に注目。講談社 640円 ©あのあやの/講談社

あのあやの マンガ家。東京都出身。元書店員、1児の母。少女マンガ誌への投稿、育児雑誌の連載などを経て現在、Webマンガ誌「Dモーニング」にて本作を連載中。

※『anan』2020年6月10日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・三浦天紗子

(by anan編集部)

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