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坂本龍一、独白5000字。コロナ禍のNYで語った、“いま”伝えたいメッセージ

  • 2020.5.23
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ニューヨーク在住の坂本龍一を、独占直撃 Photo by zakkubalan [c]2017 Kab Inc.
ニューヨーク在住の坂本龍一を、独占直撃 Photo by zakkubalan [c]2017 Kab Inc.

【写真を見る】坂本龍一が被災したピアノを弾く、無料配信中のドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto:CODA』の名シーン

音楽家、坂本龍一。作曲、作詞、編曲、プロデュースを手掛け、演奏家として世界的に成功を収める一方で、環境問題における社会活動家としても、果敢に声を挙げてきた。常に前進する姿勢はまったくひるむことがなく、いまも一挙手一投足を追いたい存在である。そんな坂本を追った2018年公開の長編ドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』が、5月22日より一週間限定で「KADOKAWA映画」公式YouTubeチャンネルで無料配信されている。Movie Walkerでは、現在コロナ禍のニューヨークで自粛生活を送る坂本にオンラインでのインタビューを決行、坂本が“いま ”伝えたいメッセージをお届けする。

本作は、東京都生まれのスティーブン・ノムラ・シブル監督が、2012年から5年にわたり坂本を密着取材した映像と、過去のアーカイヴ映像で構成された渾身のドキュメンタリーだ。YMO時代の映像から、大島渚監督作『戦場のメリークリスマス』(83)でキャリアをスタートさせた映画音楽作りの舞台裏を軸に、坂本自身が歩んできた“音楽道”の軌跡をたどっていくと、時代とともに移り変わってきた音楽に対する価値観の変化にも気付かされる。

また、中咽頭がんと宣告された時に感じた心の内から、社会運動参加時のスピーチに至るまで、音楽家としてだけではなく、人間・坂本龍一が、余すところなく映しだされている。2017年11月に劇場公開された本作は、第74回ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門出品、第30回東京国際映画祭SAMURAI賞受賞、第42回報知映画賞特別賞受賞(スティーブン・ノムラ・シブル監督)など、国内外で高い評価を受けた。

「パンデミックは、人間の行き過ぎた経済活動がもたらしたもの」

近年の音楽活動では、素材として自然の音を集めていくことも [c]2017 SKMTDOC, LLC
近年の音楽活動では、素材として自然の音を集めていくことも [c]2017 SKMTDOC, LLC

現在は、ニューヨークで自粛生活を送る坂本に、まずは自身の状況と、ニューヨークから見た日本の姿について語ってもらった。

「いまのニューヨークは、ピーク時に比べると山を登る前のあたりのレベルまで下がってきたという状況です。この山は登るのに比べ、降りてくるのに時間がかかります。しかしまだ1日に100人くらいの方が亡くなっているので、異常な事態が続いています。

僕は、3月いっぱい日本にいましたが、その間、すでにニューヨークが外出禁止になっていました。日本はそれに比べると警戒心が緩く、国や行政も指針がはっきりしていなくてはがゆい思いをしていたんです。なのでなるべく外出はせずに、自主的に自粛した行動を取っていました。

いまもニューヨークで自粛中ですが、いつも家で作業をしているので、生活自体はそれほど変わらないです。こっちへ帰ってきて外出したのは、かかりつけの医者に抗体検査を受けに行ったくらいで、普通に暮らしています。いま大変な方たちには申し訳ないけれど、そういう職業でありがたいなと思っています」

「東北、福島の復興を後回しにして、オリンピックを開催すべきなのか」

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会が延期になったが、坂本はもともとオリンピックに対しては反対の立場だったそうだ。現在公開中である福島の原発事故を描いた映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)を激賞した坂本は、同作にこのようなコメントを寄せ、自身のスタンスを明確にしている。

「2011年3月のことを、フクシマのことを、僕らは忘れてはいけない。もう一度思いだそう、原発をもつことがどれだけ愚かなことで、取り返しのつかないリスクを伴うか、ということを」としつつ、「俺たちは自然の力をなめていたんだ。(中略)自然を支配したつもりになっていた。慢心だ」と、劇中で渡辺謙演じる福島第一原子力発電所の吉田昌郎所長の台詞を引用し、人類に警鐘を鳴らす。

原発反対を唱える運動にも参加した坂本 [c]2017 SKMTDOC, LLC
原発反対を唱える運動にも参加した坂本 [c]2017 SKMTDOC, LLC

「僕自身は、もともと東北、福島の復興を後回しにして、オリンピックをやるのは倫理的に許せないと思っていました。また、21世紀に入っても、MERS、SARS、今回のコロナウィルスとパンデミックが起こりましたが、温暖化の進行によって、今後ますます増えていくと思います。それは、人間の行き過ぎた経済活動がもたらしたもので、資源と称して世界的に生態系を破壊し、ほかの種がどんどん住めない世界にしていく。そこを考え直さないと、同様なことが今後も頻発するのではないかと。

また、それに伴い心配されるのが世界的な食糧危機です。今回のコロナ禍でもすでに食料の高騰が起こっていますが、それに水害、干ばつ、大規模な火災などが加わるのですから。近年一連の前例を見ない災害と、ウィルス問題はリンクしていると思います。その原因である人間活動を少し方向転換しないと、結局は自分の首を絞めることになるでしょう。

では、一人一人がなにをするべきなのか。これは本当に難しい。いろいろな分野の科学者、経済学者、政治家などを含め世界の頭脳を集め、一生懸命考えてくれないと、今後さまざまな被害を受ける方が世界中で増えてしまう。でも、私たち個人にもできることはあります。一人一人は小さくても、地球人口は70億人以上いますから、皆が少しでも考えて行動することで、その数に匹敵するほどの効果は出るはず。もちろん、全員が同じ方向を向くのは好きじゃないですけれど、みんなが少しずつ動くことで、大きく変わる可能性はあると思っています」

「SNSは、いまや社会のマイナス部分のはけ口となっている」

音楽の価値観も時を経て変わっていった [c]2017 SKMTDOC, LLC
音楽の価値観も時を経て変わっていった [c]2017 SKMTDOC, LLC

このような状況下で、日々虚実入り乱れた情報が飛び交うSNSだが、坂本なりの情報との向き合い方について尋ねた。

「僕はわりと新しいものが好きなのでインターネットが普及し始めたころも、すぐに飛びつきました。Twitterを始めたのも早かったですし、『おもしろいものがあるよ』と、周りに広めちゃったほうです。ただ、やめるのも早かったですね。もちろん、情報を共有する場所としては便利ですが、いまや社会のマイナス部分のはけ口となり、あまりにも人間の負の側面が蓄積されているので。Twitterに関してはずっと見ていなかったし、いまは完全にアカウントも閉じました。

なるべく人の意見に惑わされないようにしたいので、タイムラインなどはなるべく見ないようにしています。友達や知り合いとの連絡手段として、あるいは自分からなにか情報を発信したい時の手段としてなど、僕は限定して使っています。また、昔は気がつくとSNSを何時間も見てしまうことがあったので、仕事の邪魔になるし、本を読む時間も少なくなってしまう。時間は有限なので、ある時から制限しなきゃだめだと思い、実行しました」

「音楽は人間が作ったもの。人間が頭ででっちあげたもの」

【写真を見る】坂本龍一が被災したピアノを弾く、無料配信中のドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto:CODA』の名シーン [c]2017 SKMTDOC, LLC
【写真を見る】坂本龍一が被災したピアノを弾く、無料配信中のドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto:CODA』の名シーン [c]2017 SKMTDOC, LLC

本作の劇中には、シンセサイザーを使った演奏のメリットを語る若き日の坂本の姿があった。それと対照的に、東日本大震災の大津波で浸水し、調律が狂ったグランドピアノを弾いた坂本が“自然が調律した音”と解釈し、愛でるシーンが印象的だ。

「ちょうどYMOを始めたころは新しいテクノロジーがどんどん出てきていて、音楽用のコンピュータも出てきたばかりでした。僕たちは新しいおもちゃを手にした子どものようにはしゃいでいたので、テクノロジーに対して非常に楽観的かつポジティブなことを語っていますが、いま思えば単純な捉え方でした。それから40年経ちテクノロジーは発達したけれど、いまは人間ができることを見直す、あるいは自然を見直したいと思っています。

映画にもあるように、3.11の災害を受け、より人間と自然を対比的に考えざるを得なくなりました。音楽は人間が作ったもので、都市やお金、国などと同じように、人間が勝手に頭ででっちあげたものと同じ側に属していますね。ピアノにしても、自然のなかにポンとピアノがあるわけではなく、自然のものである木や鉄などを使い、そこに無理やり大きな力を加えて、ああいう形にしたわけです。つまり、非常に人工的なもので音楽を奏でている。それは巨大な都市を作ったり、防波堤を作ったりするような行為と同じではないかと、疑問を抱くようになりました。以前から環境問題や温暖化の問題は考えていたので、より一層、その想いが強くなった気がします。僕が環境問題に感心をもったのは1990年代初頭だから、気づけば30年近いですね。2001年にアフリカに通ったり、2008年には北極圏に行ったりしたのも、そういう理由からです」

「仕事を受けるかどうかは、文字ではなく映像が決め手になる」

坂本は近年、以前にも増して精力的に映画音楽を手掛けている。賞レースをにぎわせた、レオナルド・ディカプリオ主演の『レヴェナント: 蘇えりし者』(15)や、韓国の史劇大作『天命の城』(18)、豊川悦司、妻夫木聡共演の『パラダイス・ネクスト』(19)、公開待機中のアニメ映画『さよなら、ティラノ』など、作品の幅は非常に広い。数多くのオファーから作品を選ぶ決め手は、どんなものだろうか。

「映画音楽に関しては、声をかけてもらった仕事についてやるかどうかの選択権はあっても、こちらから売り込むことは一切していないですし、作曲家が仕事を決められるケースはほぼないので、実際にそんなことをしても有効ではないと思っています。

その仕事をやるかどうかを決める際、映画のテーマや監督の実力はもちろん判断基準にはなります。でも、僕が若い時に、ある監督が立派な功績を残しているという外的な情報だけで判断し、よく検討せずに返事をしてしまい失敗をしました。なのでそれ以来、文字の情報は信用していません。映画の場合、映像は嘘をつかないので、有名無名にかかわらず、少しでもいいから映像を見せてもらい、やるかどうかを決めています。過去に仕事をしていて、その監督を信頼している場合は別ですが、知らない方の場合はまず映像から入ります」

「優れた作品は、映像と自然音だけで交響曲を奏でる」

『Ryuichi Sakamoto: CODA』が、期間限定で5月22日より「KADOKAWA映画」公式YouTubeチャンネルで無料配信中 [c]2017 SKMTDOC, LLC
『Ryuichi Sakamoto: CODA』が、期間限定で5月22日より「KADOKAWA映画」公式YouTubeチャンネルで無料配信中 [c]2017 SKMTDOC, LLC

「映画音楽では、仕事をするたびに途中で『もう嫌だ!絶対にもうやりたくない』と、周りに文句を言ってしまいます(苦笑)。それほど、この作業はストレスが大きい。結局自分で『これが最高だ!』と思って作っても監督の趣味と合わなかったり、評価の基準が違ったりすると作り直さなければいけない。自我との闘いですね。ただ、監督自身も好き勝手にやっているわけではなく、プロデューサーや会社、投資してくれる人の意向や、マーケットの動向などを考え、いろいろな重圧のなかで仕事をしている。これはきっと、どの職業でも同じなんでしょうね」

坂本に、お気に入りの映画監督を尋ねると、アンドレイ・タルコフスキー、ロベール・ブレッソン、エドワード・ヤンらの名前を挙げた。「この3人は本当に寡作ですが、どれもすばらしい映画ばかり。どれか一作だけ好きな映画をあげろと言われれば、ブレッソンでしたら『少女ムシェット』、タルコフスキーは『鏡』、エドワード・ヤンは、『クー嶺街少年殺人事件』か『ヤンヤン 夏の想い出』ですかね。しかしどの作品もすばらしいものです。そして3人とも音に対する感覚がすごく鋭敏で、ブレッソンやヤンの映画では、いわゆる映画音楽はほとんど入っていません。

実は僕、映画音楽を仕事にしているにもかかわらず、たくさん音楽が入っている映画は好きじゃないんです。以前、ヴェネチア国際映画祭の審査員として呼ばれ、3本好きな映画を選んだ際もたまたま3本ともが映画音楽を一切使ってない作品でしたが、その時は自分の職業を否定しているなと思いました(苦笑)。でも、映画のなかの音楽は少なければ少ないほど、僕は好きですね。

なぜなら映画のなかには、現実と同じように音が溢れているから。役者がしゃべるし、虫も鳴くし、鉄砲の音もする。優れた監督は、そのすべてを音楽的に処理をしているので、それだけで十分です。タルコフスキーの書いた本にも、まさにそのことが書かれています。彼のような人は自然音だけでいわば交響曲のようなものを作っていると思うんです。彼は本当に音楽家のような人で、映像と、それに伴う音で音楽を作っていると感じます」

最後に、坂本の音楽家人生が詰め込まれた本作をいま、無料で公開することに同意した心境を尋ねてみると、穏やかにこう切りだした。

「日本で、欧米のような感染爆発が起きなかったのは本当に不幸中の幸いですが、自粛生活はまだまだ長期戦になると思っています。家に閉じこもっている人たちが、だんだんゲームをやるのにも飽きてきて、動画配信サイトで観たい作品もすでに全部観てしまったという時、もし時間があれば、このような映画も観ていただきたいなと。でも、もしかして第二波が来るかもしれないし、たとえ非常事態宣言が解除されても、すべてが以前と同じようになるとは言えないでしょう。少なくともワクチンが普及するまでは抑えた行動を長期的にしていかないといけない。だからひまつぶしでいいです。この映画で少しでも気分を変えていただけたらと、そう願います」

取材・文/山崎伸子

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