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「エール」で大注目の仲里依紗 “おもしろい”の裏に隠された多才さと人間観察力

  • 2020.5.23
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「エール」梶取恵役の仲里依紗 (C)NHK
KADOKAWA

【写真を見る】突然ミルクセーキの料理番組に!?大きな注目を集めた、仲里依紗のコミカルな演技

2020年度前期の“朝ドラ”こと連続テレビ小説「エール」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)。5月18日~放送の第8週、仲里依紗演じる喫茶バンブー店主・梶取恵のコミカルな演技は、“仲里依紗”というワードがTwitterのトレンドに入るほど大きな注目を集めた。そんな仲里依紗の魅力について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、第8週までのネタバレが含まれます)

コメディエンヌとしての才能を存分に発揮!

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「エール」第38回場面写真 (C)NHK

朝ドラ「エール」8週目は、早稲田大学応援団長の田中隆(三浦貴大)と応援団の熱血バンカラ野郎たちが古山裕一(窪田正孝)のもとに押しかけて来て、応援歌「紺碧の空」の作曲を頼む。西洋音楽にこだわって大衆向きの歌謡曲がなかなか作れず苦しんでいた裕一は、これをきっかけに作曲家として生きていくヒントを掴むことになる。

裕一と妻・音(二階堂ふみ)の葛藤や夫婦愛も見どころだが、東京編の脇役たちがおもしろい。

相変わらず、プリンス久志役の山崎育三郎は華があるし、8週は、早稲田応援団長の三浦貴大の実直さが胸を打ち、慶應大学応援団長の橋本淳の小憎らしさは職人技。

なかでも喫茶バンブーの恵役、仲里依紗がコメディエンヌの才能を発揮。38回、裕一の作曲が出来上がってくるのを喫茶バンブーで待っている間の応援団と恵のコント仕立ての場面が印象に残った。

「エール」第38回場面写真 (C)NHK
KADOKAWA

早稲田大学応援団の面々がバンブーでミルクセーキを飲みながら曲ができるのを待っていると、宿命のライバルである慶應義塾大学の応援団長・御園生新之助(橋本淳)がやって来て、早稲田応援団など敵ではないというような態度をとる。

海外留学の経験もありブラックコーヒーを飲む通な御園生は、何かと力任せの早稲田応援団を時代遅れとバカにするが、そこへバンブーのマスターの妻・恵が割って入り、オックスフォード大学で法律を学んでいたとき、正面切って正義を訴えた男の話を例に出し、「論理より感情」、「底ぬけのバカ」こそ強いのだと早稲田の味方をする。

底抜けのバカがはたして本当に強いかどうかよりも、ここでは恵の芝居がかった思い出語りにスポットが当たり、田中も御園生もあっけにとられて見るばかり。要するにバンブー内での熾烈な早慶戦を引き分けに持ち込んだという役割となる。

以前から恵は、複数の男性との間で揺れる恋の経験や、網走の刑務所に入っている恋人を訪ねた思い出などをドラマティックに語り、それはすべて夫の保(野間口徹)も初耳なものであった。

恵がほんとうにオックスフォード大学出身という高学歴の持ち主で、ワケアリの恋人もいた恋多き女なのか。真実はもはやどうでもいい。“恵の思い出語り”は3度めにして完全に定着、このままコーナー化してほしいという気分にさせた仲里依紗の名演技。かわいらしいエプロン姿でミルクセーキの作り方を紹介する場面もハマるが、ワケありの女の悶えみたいな演技もハマる振り幅の広い俳優である。

人間の悲喜劇をつぶさに観察し再現できる才能

「エール」第32回場面写真 (C)NHK
KADOKAWA

「エール」のチーフ演出家で脚本も一部手掛ける吉田照幸の演出作「富士ファミリー」で、仲が演じた吉岡秀隆演じる男性とラブラブ(「もっとマヨマヨ〜」とマヨネーズをかける)の恋人役(「富士ファミリー2017」ではできちゃった結婚する)もハマっていたし、同じく吉田演出の横溝正史ミステリー「獄門島」は、ヒロイン早苗をミステリアスさも醸しながら、強く賢い人物として演じていた。同じ演出家作でも、幅広い振り幅を発揮しているのである。

「エール」ではその多才さをうまく活用し、恵とは、あっけらかんとした女性なのか、はたまたたくさんの顔を持つ業の深い女性なのか、つかみどころのない魅力を生み出すことに成功したといえるだろう。

デビュー時の仲里依紗は、多くの女優がそうであるようにハツラツとしたキュートさを売りにしていた印象があるが、年齢を経てエキセントリックな役もハマるようになってきた。

「あなたのことはそれほど」(TBS系)や「ホリデイラブ」(テレビ朝日)などで演じた、夫に浮気され精神不安定になっていくような役をはじめとして、薄幸の女性役が似合うようになってきている。

最近も、「美食探偵 明智五郎」(日本テレビ系)でも平凡な妻が夫を惨殺してしまうという役割を演じていた。薄幸がリアル過ぎると見ていて辛くなってしまうが、うまいことエンタメに落とし込むさじ加減の匠なのである。

現在、YouTube内の仲里依紗公式動画チャンネル「仲里依紗です。」で配信している動画シリーズは、自宅から料理やメイク姿を見せる飾らない内容が多いが(宅急便が来ることもしばしば)、そのひとつ「とってもつまらないモーニングルーティン」という回に、それこそが仲里依紗の演技のうまさの秘密が隠されているように思う。

「エール」第38回場面写真 (C)NHK
KADOKAWA

寝起きの瞬間を撮って自分でナレーションを乗せているのだが、寝起きは演技だと明かし、その演技を客観的に説明しているのである。

「エール」の恵のように、一見、ちょっとおバカに見える役は、本当のおバカさんにはできないもので、冷静にどういう言動がおもしろいか、観察したうえで的確に動くことが大事。

仲里依紗は冷静に、ぶりっ子な芝居や、極端に芝居がかっている芝居や、薄幸を再現する。おそらく、自分に限界を作らずに思いきり良くやりきることのできる俳優なのだろう。

「エール」8週では裕一が、西洋音楽を学んできた自分は大衆向けの楽曲など作れないと自分の可能性を狭めていたが、仲里依紗の芝居はそういうふうに自分を縛ることなく、世の中のあらゆる人間の悲喜劇をつぶさに観察し、再現できる喜劇の才能のある俳優なのである。

「エール」でヒロインを演じている二階堂ふみもそういうタイプだと思うが、ドラマのシリアスなテーマも背負っているので、主演の窪田正孝と共にコミカルな芝居もありつつ、ここぞというときはシリアスな芝居もやらねばならない。

その点、バンブーは息抜きの場面として機能する。喜劇のうまい俳優・野間口徹が絶妙な受けの演技をするので、仲はその手のひらのなかで自由に動き回っているという印象で、バンブーは「エール」のなかで安心して笑える場所になっている。

6月6日にはNHKで中尾明慶と夫婦でリモートドラマ「Living」に出演すると発表されていて、そちらではどんな姿を見せてくれるか、楽しみである。(文・木俣冬)(ザテレビジョン)

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