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第35話:千個めの名前はルーシー / 旅人と岩の話 連載【誰かの話】

  • 2020.5.22
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第35話:千個めの名前はルーシー / 旅人と岩の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】35話めは、「旅人たちに好かれる岩」のお話です。

 

 

35. 千個めの名前はルーシー

 

“旅人”のトーマが旅をしているこの北の大地は、

人間を見かけることもなく、無骨な場所だった。

 

黒い岩肌の大地に薄く緑が茂っている程度で寂しさもあるが、

“旅人”のトーマにとってはむしろ居心地が良く、

より旅をしているムードも沸くので気分が上がった。

中でも一箇所、トーマが魅了された場所があった。

 

崖の手前の窪みに、ちょうど良い大きさのキツネ色の岩があり、

腰を下ろしながら景色を遠くまで一望できる場所があった。

この秘められた場所の岩の発見が”旅人”のトーマにはとても嬉しく、

滞在している間、この場所に来て岩に腰を下ろしては

景色を眺めたり、昼寝をしたり、詩を書いたりした。

 

ある日ここから美しい夕日を見ている時に、トーマは確信した。

 

「この岩と出会った人間は、自分が初めてかもしれないな」

 

そしてトーマはこのキツネ色の岩に

「ルーシー」と名前をつけ、

“旅人”らしい振る舞いで去って行った。

 

・・・・・・

 

私は岩である。キツネ色をしたただの岩である。

ここからの景色を眺めながら

静かに過ごすことを好むただの岩である。

 

静かに過ごしたいにも関わらず、

“旅人”が何人も頻繁にこの場所を訪れては、

必ず私を見つけ出し、私に腰掛け、幾日か過ごす。

そしてここから見える夕日を目の当たりにして

同じことを呟くのだ。

 

「この岩と出会った人間は、自分が初めてかもしれないな」

 

昨日までここにいた”旅人”も同じことを呟いていた。

 

言っておくが、先月も先々月も別の旅人が来ては同じことを呟いていたし

私がここに居座ってからの間、ほぼ毎月、

“旅人”風情の人間が訪れては

景色をみて、昼寝をして、詩を書き、最後に夕日を見て、

概ね同じことを呟き、岩の私になぜか名前をつけて去って行く。

 

昨日の”旅人”でちょうど千人目だった。

「ルーシー」は私の千個目の名前となった。

 

そばに咲いているワスレナ草が

「今月も”旅人”が来たね」と

ケタケタと笑いころげている。

 

 

第35話:千個めの名前はルーシー / 旅人と岩の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

 

・・・

 

絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!

 

Text & Illust_Toyama Natsuo

 

第35話:千個めの名前はルーシー / 旅人と岩の話 連載【誰かの話】
出典 FUDGE.jp

外山夏緒

2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。

WEB:gungulparman.com

Instagram:@gungulparman

 

 

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