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映画「アース」に学ぶ『SDGs』 美しい自然の中に混じる“不協和音”から見えてくること<ザテレビジョンシネマ部>

  • 2020.5.1
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『アース』
(c)BBC Worldwide 2007

【写真を見る】『アース アメイジング・デイ』 キュートなパンダも登場する

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17の国際目標。地球上の「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」ことを誓っている。

フィクションであれ、ノンフィクションであれ、映画が持つ多様なテーマの中には、SDGsが掲げる目標と密接に関係するものも少なくない。たとえ娯楽作品であっても、視点を少し変えてみるだけで、我々は映画からさらに多くのことを学ぶことができる。

フォトジャーナリストの安田菜津紀が、映画をきっかけにSDGsを紹介していき、新たな映画体験を提案するエッセイ。第2回は、英国の放送局BBCなどが5年間、延べ4500日かけて世界の200カ所で撮影し、野生動物たちの貴重な生態を撮影するのに成功した自然ドキュメンタリー『アース(2007)』( 5月2日(土)午前4:55、WOWOWプライムほか)と続編『アース アメイジング・デイ(2017)』( 5月2日(土)午前6:40、WOWOWプライムほか)から、「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」の4つについて考える。

【写真を見る】『アース アメイジング・デイ』 キュートなパンダも登場する
(C)Earth Films Productions Limited 2017
KADOKAWA

「陸前高田市の海で漁船に同乗させていただくのが私のライフワーク」

暗闇に波音だけが響き渡る午前2時、岩手県陸前高田市では、漁師さんたちが仕事へと向かう時間です。広田半島の先端にある根岬から、満天の星空を眺めながら、それぞれの持ち場がある沖を目指します。そんな漁船に同乗させてもらうのが、私のライフワークです。

港を離れてから2時間、この船の揺れでは星の写真は撮れないな、と考えているうちに空が白んできます。エンジンを止め、漁師さんが黙々と海の底から籠を引き上げていきます。気づけば“おこぼれ”を狙う海鳥たちが飛び交いはじめ、にぎやかな朝を迎えます。

東日本大震災で甚大な被害を受けながらも、彼らは海の恵みを日々届けてきました。そんな復興へと向かう背中を見る時間は、私にとってもかけがえのないものでした。

ところがこの数年、その営みに不穏な影が見え隠れするようになりました。これまで獲れていたはずの魚たちの姿が見えないのです。毎年5月には、網いっぱいにかかっていたはずのシラスが、何時間探しても魚影さえ見えない日もありました。秋になると定置網をにぎわせていた鮭も、めっきり減っています。

陸前高田市では、冬にアワビの「口明け」があります。穏やかな凪の朝の数時間、資格を持った漁師さんたちやご家族に、アワビ獲りが許されるのです。資源の保護も兼ね、潜って根こそぎ獲るのではなく、小さな船の上から箱眼鏡で海中を覗き、鉤のついた竿を海の底へと伸ばしていきます。岩と同色のアワビを見つけるのも、鉤の先に引っ掛けて上手に引き上げるのも、鍛錬が必要な技です。

早朝、日の出と共に「アワビ獲り開始」のサイレンが浜に響くと、すでに海上にスタンバイしていた漁師さんたちが一斉に海底を覗き始めます。その集中力たるや、凄まじいものです。アワビは高値がつき、「漁師のボーナス」とも呼ばれています。それだけに、彼らの集中力はいつも以上に研ぎ澄まされています。「終了」のサイレンが響き渡ると、籠いっぱいにアワビを積んだ船が、次々と港へ戻ってきます。どの顔も清々しく、そして誇らしげでした。

ところが昨年2019年冬、アワビは口明けさえ叶いませんでした。どんなに海底を探しても、殆どその姿が見えなかったのだといいます。海洋資源の問題は、様々な要因が絡み合い、単純化して語れないかもしれません。ただ、漁師さんたちはその異変を、特に水温の変化を肌身で感じていました。「水温が下がりきらないとね、昆布が放卵しないんだよ。昆布が育たないと、それをエサにしてるウニもアワビもいなくなってしまうんだ」。

異変は「獲れなくなること」だけではありません。最近になって漁師さんたちの網に、南方でしか獲れないはずの伊勢海老がかかってくるようになったのです。「伊勢海老は千葉辺りが北限だと思ってたんだけどなあ」と、引き揚げた漁師さんも戸惑います。

『アース』2作品からひもとくSDGs

『アース』
(c)BBC Worldwide 2007

そんな敏感な自然の呼吸をとらえたのが、英国の放送局BBCが総力を注いで作り上げたドキュメンタリー『アース』、そしてその続編『アース アメイジング・デイ』です。密林にすむ、まばゆい鳥たちの羽ばたき、恋するナマケモノの愛らしさ、闇に浮かぶ光るキノコの妖しい美しさ、目を見張るような壮大な風景と、生き物たちの輝きの数々を見事におさめた映像に終始圧倒されます。

『アース』では北極から南極までの命の旅を、『アース アメイジング・デイ』では生命の「一日」をテーマにしています。どちらのドキュメンタリーも、軸となるのは、私たち生き物が皆、太陽のエネルギーと共に呼吸している、という視点です。

ところが、その美しいハーモニーには、微かな不協和音が混じっているのです。氷が解けて狩りができないシロクマが、お腹を空かせ、トドの群れの中で力なくうなだれる姿がありました。大海原を悠々と泳ぎエサを求めるザトウクジラも、水源を求めて乾いた大地を旅するゾウたちも、その「居場所」がじわりじわりと削られようとしているのです。

2つの映画には、人間の姿が殆ど出てきません。けれども『アース アメイジング・デイ』は、その「不協和音」の背後にある、私たちの“豊かな”営みの存在を確かに示していました。「私たちは消えることのない人工の光を作り出し、昼と夜のリズムから解放された。こうした暮らしだと、自然とのつながりを忘れてしまいがちだ。友人にも気づけない」と。そして太陽のリズムから“解放”された「代償」は、予想以上に大きく跳ね返ってこようとしているのです。

温暖化、大気や海洋の汚染、こうした環境の変化への対応は、国同士の連携が欠かせません。SDGsの中では、「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」が欠かせないということになります。空も海も、つながっています。ある国が対策をしても、その隣国が持続可能な開発に配慮しなければ、汚染した水も大気も国境をまたいでやってきます。ただ、「国同士の取り決めに任せていればいい」と丸投げしても、出口は見えないでしょう。「開発」の利益を享受しているのは、私たち一人一人なのです。

こうした環境が発するメッセージに耳を傾け、アクションを起こしたことで近年大きく注目されたのが、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんでした。彼女はアメリカの人気番組『The Daily Show(ザ・デイリー・ショー)』でこう語っています。「あなたたちの国では、温暖化は信じるか、信じないかの問題として議論されます。けれども私たちの国では、“事実”として語られているんです」。

ところが、グレタさんをはじめとした環境問題に携わる若い世代に、「こうしたらもっとよくなる」「こんな方法もある」と建設的な提案をするのではなく、ただ揶揄するだけの大人の姿も目立ちます。電車に乗って帰路につくグレタさんに向かって、「馬車に乗れ」という、聞くに堪えない声まであがりました。こうしてただただ冷笑したところで、今の状況がよくはならないにもかかわらず。けれども他者をあざ笑っている間に、私たちはシロクマのようになってしまうのです。氷が解け、エサが獲れず、さまよいながらやがて飢えていく、あのシロクマです。

『アース』が作られたのは2007年、警鐘はその頃から、いやそれよりもずっと前から、至るところで鳴らされていたのです。SDGsの「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」も、近年になって急に掲げられたスローガンではありません。今からの行動では遅すぎるのか、そうではないのかも、私たちにかかっているのでしょう。

グレタさんの活動に触れ、次世代につけを回さないため、小さくても自分ができることに力を割いていこうと、私も強く思えるようになりました。最近ではマイボトルの持ち歩きに加え、マスカラをトウモロコシの成分を使っているものに変えました。マイクロプラスチックによる汚染に加担しないように、と。

「何それ、“意識高い系”?」と思うでしょうか? それとも、「そんなこと考えていたらきりがない」と感じるでしょうか? けれども私たちの日常を少し変えるだけで、よりよい未来を築く可能性を増やすことができるのです。毎朝マスカラを使う度、そんな思いを新たにすると、一日を丁寧に生きられる気がします。問題は個人の力が小さいことではなく、一人一人の力を信じられない社会のあり方なのではないでしょうか。

『アース アメイジング・デイ』
(C)Earth Films Productions Limited 2017

文=安田菜津紀

神奈川県出身。1987年生まれ。フォトジャーナリスト。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。著書に『写真で伝える仕事 -世界の子どもたちと向き合って-』(日本写真企画)ほか。(ザテレビジョン)

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