第30話：百年間のキャリア ／ ソフィーの話　連載【誰かの話】

 

外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】30話めは、「ソフィーが築いてきたキャリア」のお話です。

 

 

30. 百年間のキャリア

 

 

この百年の間、特に面白いことはなかったが、

ソフィーは大嫌いだったチュロスを食べられるようになった。

 

この百年の間、特に面白いことはなかったが、

ソフィーはシェイクスピアの戯曲を一冊読破することができた。

 

この百年の間、特に面白いことはなかったが、

ソフィーは三度プロポーズされ、三度結婚し、

先逝く夫を三度見送った。

 

この百年の間、特に面白いことはなかったが、

ソフィーは飼猫に、威嚇されることはなくなった。

 

・・・

 

ソフィーは、百年前に発表した「新種の花」についての論文で、

その世界で最年少の研究者として、華々しくデビューを飾った。

 

しかし、その少し前に、

別の研究者が同じ内容で論文を発表していたとのことで、

その功績はあえなく取り下げられた。

その上先人の真似事と言われ、陰口を叩かれ続けた。

 

それ以降、毎日毎日、

ソフィーは「新種の花」に思いを馳せて生きてきた。

毎年未開の土地へ出向いたり、研究所で交配させたりと、

いろんなことを試し、論文を発表したが価値はつかなかった。

 

この百年の間、特に面白いことはなかったが、

ソフィーは今年、115歳のおばあさんになった。

 

 

ピンクより真っ赤な口紅が似合うようになった。

 

 

 

・・・

 

絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください！

 

Text & Illust_Toyama Natsuo

 

外山夏緒

2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。

WEB：gungulparman.com

Instagram：@gungulparman