日本の美意識を五感で体験する、京都の隠れ家ホテル。

「モガナ（MOGANA）」という名の小さなホテルは、京都・中京区の一角にあります。タクシードライバーでさえ見逃してしまうほどの小さな看板は、控えめな佇まいに反し、ホテルへの期待感を膨らませてくれました。

オープンは2018年12月。すでに開業後1年4カ月が過ぎました。世界遺産となった二条城からも近く、ショッピングエリアの四条烏丸にも徒歩圏内という便利な場所です。しかしそのロケーション以上に、オーナー夫妻のホテルに対する強い“こだわり”に驚かされました。

「モガナ」を手がけた建築家の山口隆氏は、京町家独特の細長い邸を、その長さや敷地を利用してスタイリッシュなホテルに見事に変身させたのです。入り口から38ｍもある通路の床面は、まるで鎖を詰めたようなステンレス製。壁は木の格子造りに飾られ、天井からは光のマジックとBGMでゲストを誘います。いままで見たことのない、京都ならではのハイブリッドな細長いホテルが生まれました。

夜のエントランスを外から見る。奥にある小さなテーブルがフロントデスク。

ホームページには、「MOGANAには、古語“もがな”が有する『～であればいいなあ』という願望や実現を願う意が込められています」と書かれています。まずは、ホテルに身を委ねてみようと思いました。全23室のうち、通されたのは「MOGANA ROOM」3室の中のひとつ、「MOGANA BLACK」という人気の客室でした。8階にあるこの部屋は50㎡、大きな窓からは壁面緑化の緑が見えて、この緑はクチナシの木だといいます。開かない大きな窓をのぞき込むと、1階には石が積まれた京都らしい坪庭が造られています。

すっきりとしたフロント内。ここから「モガナ」滞在のストーリーが始まる。

ハイブリッドな印象の通路。歩く時には“光のいざない”を受けながら客室へと続くエレベーターへと移動。

客室内にある横長の曇りガラスの窓からは燦々と太陽光が入り、まるで日本古来の伝統である障子戸を通す光のような、優しくて柔らかい日差しが部屋を照らしていました。客室名はブラックですが、室内は漆黒ではありません。日本瓦を彷彿とさせるシルバーグレーのようであり、黒とも言えそうな……日本独特の繊細な色が基調の部屋です。床は御影石、浴室は聞き慣れない“ジンバブエ石”でできています。そして、客室内の家具はすべてメイド・イン・ジャパンにこだわったオリジナルです。

8階にある客室のひとつ、温かみを感じる「MOGANA BLACK」。

アメニティの種類は、ゆったりと寛げる部屋着、「まとふ（matohu）」とコラボした草履、パリで活躍する日本人の自然派ブランド「SHIGETA」のバスアメニティ、テーブルに置かれた美しい南部鉄器と山中漆器の茶器セットなどなど……。どれも上質感が伝わってきます。

「MOGANA BLACK」に置かれたウェルカムティーセット。

6階にある坪庭に面した客室「MOGANA GARDEN」（50㎡）。伝統的な坪庭を、壁面緑化や石、吹き抜けから入る光が斬新に演出。

このホテル内にはレストランはありません。ただ、素晴らしい朝食が客室に運ばれます。「FUKIYOSE」と名付けたこの朝食には、「国生みの地」として知られる淡路島生まれの「Awabi ware」と「樂久登窯（らくとがま）」によるMONAGAオリジナルの食器を使用。それらに盛り付けられたおばんざいの数々は、「御食国」（みけつくに／京都朝廷に献上した豊かな山海の食材の産地）のひとつ、淡路島から取り寄せる食材で作られています。朝から、目にも心にも優しく、たっぷりとおいしくいただけた幸せな食事となりました。

客室に運ばれる「FUKIYOSE」と呼ばれる朝食。淡路島の豊かな土壌に育まれた食材を使った料理が、オリジナルの器で提供される。

8mの御影石のカウンターと、24金の金箔の貼られた天井が豪華な印象のバー。20時からはナイトキャップのサービスも。

テレビのない部屋で、せっかく持ち込んだパソコンにもほとんど触らずに、いつもより早く就寝した翌朝は、とても快適でした。ホテルがコンセプトに掲げていた「日本の美意識に裏付けられた“装い”を愉しむ」という、ちょっと難解な言葉は、滞在中のすべての「装い」を大事にするという、目には見えない衣食住のもてなしであろうと感じました。理屈ではなく、五感が素直に受け止めてくれました。（K.S）

モガナ（MOGANA）京都府京都市中京区小川通御池下ル壺屋町450tel：075-606-5281客室数：全23室室料：1室￥50,000～（2名1室利用時、朝食付き）施設：ライブラリー、バー、メディテーションルーム、ほかhttps://yadomogana.com

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