1. トップ
  2. 「彼らはヒーローになれないジレンマを背負っている」【『Fukushima 50』若松節朗 ×「いちえふ」竜田一人 対談】

「彼らはヒーローになれないジレンマを背負っている」【『Fukushima 50』若松節朗 ×「いちえふ」竜田一人 対談】

  • 2020.3.29
  • 192 views

国内興行ランキングで2週連続1位となり、その後もランキング上位をキープして話題を呼んでいる映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)。東日本大震災時の福島第一原発事故を描く本作では、死を覚悟して現場に残った作業員たちの真実が描かれ、大いに反響を呼んでいる。そこで、本作のメガホンをとった若松節朗監督と、事故後に福島第一原発(イチエフ)で作業員として働いた体験談を綴った漫画「いちえふ ~福島第一原子力発電所案内記~」の竜田一人の対談を実施、互いの作品についてたっぷりと意見交換をしてもらった。今回はその後編をお届けする。

【写真を見る】東日本大震災のすさまじい爪痕に息を呑む

『Fukushima 50』をめぐる特別対談、後半も白熱!
[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

『Fukushima 50』のタイトルは、事故の対処に当たった作業員たちが世界のメディアから“Fukushima 50”(フクシマフィフティ)と呼ばれたことにちなむ。主演の佐藤浩市をはじめ、渡辺謙、吉岡秀隆、緒形直人、火野正平、平田満、萩原聖人、佐野史郎、安田成美といった演技派俳優たちがこぞって参加し、話題となっている。また、第34回MANGA OPENの大賞を受賞した「いちえふ ~福島第一原子力発電所案内記~」は、東日本大震災を機に会社を辞め、福島第一原子力発電所で作業員として従事した竜田自身の経験をもとに、克明なタッチで描くルポルタージュ漫画となっている。

「廃炉作業はこの先も続くから、彼らはヒーローにはなれない」(若松監督)

『Fukushima 50』のメガホンをとった若松監督
撮影/山崎伸子

――実際にイチエフで働いていた竜田さんには、『Fukushima 50』の登場人物はどう映りましたか?

竜田「事故の時、どういう人たちが頑張ってくれていたのかがよくわかりました。作業員にしても(渡辺謙が演じた)吉田所長にしても、結局は普通の人間なので、そういう人たちが必死に頑張っていたことが伝わればいいなと思いました。世界中から“Fukushima 50”とヒーローみたいに言われているけど、実は普通のおじさんたちなので」

若松「確かに、映画を観た人たちのなかには『ヒーローのように描かれている』という人たちもいます。原発問題がすべて収まっているのならヒーローと言い切っていいのかもしれないけど、この先もずっと続いていく。だから、彼らはヒーローにはなれないんです」

竜田「確かに、その辺りのジレンマについても考えてほしいですね」

――竜田さんは、震災後にイチエフで働き始められましたが、実際に働いてる方は、ほとんど地元の方だそうですね。

竜田「地元の方々は、くさいかもしれないけど『俺たちがなんとかしてやる』みたいな使命感があるんだと思います。また、原発にお世話になったから、最後まで看取ってやろうという人もいれば、単純にお金が稼げるから行くという人もいます。だからイチエフは、世間で言われているほど地元で嫌われている存在ではないです。その辺りの空気感の違いは、自分で行ってみて初めてわかりました」

1号機原子炉建屋の爆発シーンに衝撃
[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

若松「あそこで働く人がいなければ事故後の処理もできないし、廃炉の作業をしていく人も必要になりますし、その人たちのお世話をする人もいなければいけない。これからも大変ですよね」

「“あそこはまだ危険なんだ”というイメージを払拭していきたい」(竜田)

ミル・マスカラスの覆面で登場した「いちえふ」の漫画家、竜田一人
撮影/山崎伸子

――終盤、佐藤さん演じる伊崎が、帰還困難区域となっている富岡町で満開の桜を観るシーンが非常に印象的でした。「原発は明るい未来のエネルギー」という看板もカメラがしっかりと捉えています。

若松「実は、シナリオでは中盤に描かれていたんですが、あのシーンは一番最後に出したいと思ったので、僕の意地でそうしました」

竜田「でも…車が走っているルートが実際とは違いますよね?現地を知っているとワープしているのがわかっちゃうので(苦笑)」

若松「それはごめんなさい!でも、映画的には伊崎があのルートを通ってきたことに意味があったので…」

竜田「重箱の隅をつつくようで申し訳ありません。もちろん、演出的に考えるとあれしかなかったとは思いました。さらにもう1つ…いいですか。映画の通り、あの時点では桜を見ている見物客がいないんですが、その後、あの桜並木のエリアが部分的に解除されていって、いまはお花見ができるようになっています。双葉町の一部や大熊町の一部が避難解除になり、夜ノ森駅も解除になって、3月14日は常磐線が通りました」

主人公の伊崎利夫役を熱演した佐藤浩市
[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

若松「そうでしたか!とはいえ、全部は解除になっていないわけですよね」

竜田「そうなんです。まだ全部ではないけど、映画で描かれているよりもさらに長い範囲で花見ができるようになったので、どんどん伝えていかないとダメだなと。そうじゃないと、あそこはまだ危険なんだというイメージだけが残ってしまう。僕が漫画のなかで描いた楢葉のコスモス畑の場所にも商業施設ができました。もう1回田んぼになればいいなと思っていたんですが、いまは新しい病院や、復興住宅、スーパーなど、いろんなものができてきました。長らく積まれていた汚染土もどんどん片付けられています」

「風評被害を防ぐための漫画を、ぜひ描いてほしい」(若松監督)

【写真を見る】東日本大震災のすさまじい爪痕に息を呑む
[c]2020『Fukushima 50』製作委員会

――地元では、少しずつでも復興が進んでいるということですね。

若松「そういう情報を得られるだけでも印象がずいぶん変わりますね。原発のタンクの水を海に流すかどうかという問題はどうなっているんですか?」

竜田「実は大前提として、いま溜まっている水全部が一度に流れたとしても、環境にも生物にも影響はないという報告があがってきています。ではなぜ漁師さんたちが反対しているかというと、タンクの水を流すと風評被害が起きると心配しているからです。ただ一方、どんどん溜め続けていくことによっても、『まだ、あんなに危険なものがいっぱいある』ということ自体が風評になっていくので、どうにかしなければなりません」

若松「なぜ、国が現状をきちんと説明できないんだろう?」

竜田「最終的には、責任ある立場の人間が石を投げられる覚悟で『私が責任を取るからやりましょう』と言うしかないでしょう。東電も漁師さんたちも、『流してください』とは言えないから。誰かが泥をかぶるしかないんです」

――かなりハードルが高そうですね。

竜田「風評被害が起こるというけど、実はいままでも水の放出は実施しているんですが、そこまで騒ぎにはならなかった。もちろんタンクの水を流すとなると、多少は騒ぎになると思いますが、計画的に情報公開をしながらやっていけば、風評被害を防ぐことも可能なはずです。それは、ずっとこの事象を追ってきた人ならわかることだと思います」

若松「それを漫画で描くことはできませんか?」

竜田「なんとか漫画にしたいんですが、この話を描いてもエンタテインメントにならないんです」

若松「もちろん、全部を真面目に描くのではなく、途中にあなたの歌なども入れたりして」

――竜田さん、被災地で弾き語りもされていますし、漫画にも登場していますよね。

若松「これは誰でもできることではないので。竜田さんの漫画はわかりやすいので、ぜひ描いてほしいです。これは竜田さんに与えられた使命ですよ!」

竜田「そう言われるとつらいですが、頑張ります(苦笑)」

固い握手を交わした、若松節朗と竜田一人
撮影/山崎伸子

(Movie Walker・取材・文/山崎 伸子)

元記事で読む