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真のサステナブルなパンに会いに行く。命を繋ぐ未来のパン屋さん〈KURKKU FIELDS〉の全貌。

  • 2020.3.30
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最近、よく耳にする「サステナブル」。“持続可能な”という意味をもつこのキーワードをパンの世界に落とし込んだなら?千葉県・木更津市の広大な農場を舞台にした複合施設〈KURKKU FIELDS〉に、その答えはありました。

牛、鶏、植物...命を繋ぐ未来のパン屋さんのカタチ。

「すごいプロジェクトがはじまっていますよ!絶対に面白いと思うので一緒にどうですか?」いつも以上に目を輝かせる池田さんに誘われ、暮れも押し迫った昨年末、取材班は千葉県・木更津へと向かった。

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入り口すぐのベーカリーから養鶏場までは藤田さんの足で約10分。「厨房を出て散歩気分で歩くことで、リフレッシュできるし、新しいアイデアも浮かぶんです。

お目当ては3カ月前に開業したばかりの〈KURKKU FIELDS〉。施設入り口に立ち、まず感じたのは〝とにかく空が広い〞ということ。それもそのはず、30ヘクタールもの敷地に建物は数カ所だけ。それらも点在しているので、いちばん遠くに見える建物との距離感がつかめないほどだ。でも、ベーカリーだけはすぐわかる。なぜなら、バターのいい香りが建物をそっと包み込んでいたからだ。

その年の天候によって小麦の味も変わるから面白い。

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ベーカリーの横に設けられた製粉ルーム。訪れた人も外から様子を見ることができる。小麦は収穫後、精米機で周りを削り、選別。雑草のタネやもみなどを取り除く作業に膨大な時間がかかるそう。その後、オーストラリア〈WALDNER〉製の木製石臼製粉機へ。1時間に挽ける粉は約10kg。
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挽いた粉はすぐには使わず、1日置いて使う。「ぬかのようなニオイがしますね。ここのテロワール(土壌)がそうさせるのかな」と、興味シンシンの池田さん。

この地でベーカリーを担当するのは、藤田麻依さん。〈代々木VILLAGE by kurkku〉のベーカリー〈プルクル〉に携わっていた経験をもつ。だがあるときから、ある想いがあったという。「様々な考え方がある中で、材料として使う素材のストーリーを知り、そのうえでそれをパンに込めて伝えたい。そんなときに声を掛けてもらって。3年越しの夢が叶いました」彼女の夢とは、自分の目で確かめ、信じられるものだけを使ったパン作り。

ブルーベリーやホエーなど身近にあるものを発酵種に。

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ブーランジェの藤田麻依さん。木更津に移住し、毎朝5時からパンを仕込む。4.人参、りんご、酒粕、ブルーベリー、水牛のホエーなどを酵母に。「水牛と牛でも香りや味わいが全然違ったり、ブルーベリーが美しい色を生んだり。毎日が実験みたいなものですね」
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「ゆっくり丁寧に作る ことを心掛けてます」

〈KURKKU FIELDS〉は、広いフィールドの中に農業、食、アート、プレイ&ステイ、自然、エネルギーという6つのカテゴリーが共存。それぞれが連携し、「サステナブルな営み」に取り組んでいる。

目指すのは良質でシンプルに素材の味を引き出すパン。

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チーズ職人、竹島英俊さんによるできたての水牛モッツァレラチーズは、一度食べたら忘れられないほど、フレッシュで鮮烈な味わい。
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米を飼料にしているため、黄身の色がレモンイエローなのも特徴。
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施設内のダイニングの名物は、薪窯で焼くピザ。野菜、ハーブ、卵、チーズ...。どれもがここで採れたもの。自然の恵みをあますことなく堪能できるコース(2,500円)もおすすめ。

ベーカリーの店頭には、この地の在来種の枝豆をペースト状にして練り込んだ「枝豆パン」、ミルク、卵、バター、チーズなど、ここで採れた材料だけで作ったクロックムッシュほか、〝made in〈KURKKU FIELDS〉〞のパンがずらりと並ぶ。卵が足りなくなれば取りに行き、ハーブが必要となれば摘みに行く。敷地内にはシャルキュトリーもあり、猪などをハンターが仕留めて30分以内に加工して、ソーセージやハムにしているというから驚きだ。パン作りに欠かせない小麦もそう。

農業と食のプロが問う消費や食のあり方。

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野菜やハーブが育つエディブルガーデン。
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オーガニックファームではレタスや人参など、旬の食材を生産。
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優しい表情が印象的な水牛は29頭。水牛舎の見学ツアー(2,000円)も人気。

グランドオープンを迎えるよりずっと以前から、農場づくりは行われていたそうで、「ゆめかおり」や「春よ恋」などの品種は畑で育てていたのだとか。それを毎年5〜6月に収穫し、膨大な時間をかけて選別し、製粉する。「その年によって小麦の出来もまったく違うので、まだ試験段階の部分も大きいです。でも一度、『ゆめかおり』でバゲットを作ったら、独特のライ麦パンっぽい香りがしてすごくおいしくて。去年は大雨の影響で不作でしたけど、今年はどうなるか楽しみです」

大地の力強さを存分に味わえる“命のパン”。

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ベーカリーに並ぶパンは常時20種類。農場で採れた西洋ネギをバターと混ぜてソフトフランスに挟んだ「チャイブバター」223円、厚切りバターがそそる「プレッツェルバターサンド」260円、クロワッサンの生地に平飼い卵のカスタード、レーズン、アーモンドを巻いた「スネイル」260円など、ひとつにはとても絞りきれない魅惑のラインナップ。
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自家製酵母でゆっくり発酵させた、しっとり食感の「食ぱん」325円。地元の人にも評判。
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藤田さんの話に熱心にメモを取る池田さん。「パン好きには たまらない空間!」

「ほかのパン職人さんから、羨ましがられるのでは?」。池田さんのその問いに、「はい、とっても(笑)」と答える藤田さんの笑顔は、充実感に満ちていた。〝サステナブルなパン〞とは、作り手も食べ手も地球も、みんなが幸せになるパンなのかもしれない。

〈KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)〉

音楽家、小林武史氏が手掛けるサステナブルファーム&パーク。農業、食、アートを軸とした複合施設として昨秋オープン。草間彌生作品の展示も。
千葉県木更津市矢那2503
9:00〜17:00(各店舗の営業時間はHPで確認を)火水休)祝の場合営業)
入場料平日無料、休日大人1,000円、子供500円
禁煙

Navigator/池田浩明(いけだ・ひろあき)

パンの研究所「パンラボ」主宰。パンライター。自称「ブレッドギーク」(パンおたく)。NPO法人新麦コレクション理事長として、日本においしい小麦を普及する活動も行う。

(Hanako1182号掲載/photo:Taro Hirano text&edit:Yoshie Chokki)

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