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ママ友に振り回される日々に決別! そして彼とも別れの日が近づく…【わたしの糸をたぐりよせて 第10話】

  • 2020.3.11
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前回からのあらすじ
ママ友とのつきあいに悩む友里を、夫の亮が突然ソファに押し倒し…。自分をぞんざいに扱うくせに、同僚を助けようとする夫。疲れ果てた友里だったが、クロッキーを描き出した途端…。
●登場人物●
立花友里:都会で就職し結婚したが、夫・亮の転勤で地元の街に戻ってくる
:友里の夫。友里から告白してつきあうように。息子の悠斗を妊娠して以来、夜の生活がない
イナガキ:友里の幼なじみ。小学校~高校まで一緒だった。現在は人気デザイナー。
上田:悠斗と同じ幼稚園に通うママで、うさぎ組のクラス委員長
カオル:悠斗と同じ幼稚園に通うママ友で、友里を配下に置こうと考えてる

※このお話はフィクションです


■夫と向き合えない日々の中、彼からLINEが…

それからというもの、時間をやりくりしてはクロッキー画やデザインラフを描く日々が続いた。

もちろん、悠斗にきちんと向き合うのは当たり前。一緒に登園し、買い物しながら家に帰り、ごはんを食べて、お風呂に入って寝かしつける。

悠斗と心を通わせながら、そのなかで湧き出てくるものをクロッキー帳にまとめていく。クロッキー帳は常に持ち歩いて、ふとした瞬間すらも逃さず描けるようにした。

亮くんはそんな私に対して何も言わないし、私も亮くんがなにをしているか聞かないようにした。ただ、ごはんを食べてくれれば、そして、何事もなければそれでいい、と。

そんな日々が続いたある日。再びイナガキくんからLINEが届いた。


“友里ちゃん、今週金曜にホテルをチェックアウトすることにした。だから、その前に会ってくれないかな?”

この間、泣きながら電話してみたものの、私が迷惑かけてはいけないとすぐに切ってそれっきりになってしまっていた。

(イナガキくんには、きちんと話しておきたい)

私は少し悩んだけれど、会いたいと返事をした。





そして、待ち合わせ当日。

悠斗にはちょっと申し訳ないけど、また預かり保育をお願いした。

「ママ、今日も遅くなっちゃうけど、いい子で待っててね」

悠斗は、「はぁい」と返事をしてひまりちゃんたちと遊び始める。その様子に後ろめたさを感じないわけではないけど、自分の心の整理のためと言い聞かせて私は教室を後にした。

正門を出た途端、背後からカオルさんに呼び止められた。


「あんた、最近ちょっと様子がおかしいんじゃない? 今だってやけに急ぎ足だし……」

「あ、ごめんなさい。本当に急いでいるのですみません~」

私は話を遮るようにそそくさと歩き、自転車に飛び乗り力を込めてペダルをこぎ始める。

「ねえ、仕事でも始めたら教えなさいよー」

遠くからそんな声が聞こえたけれど、私の時間はだれかの許可が必要なものではないとうことを十分わかってる。だから、もう人の意見に左右されっぱなしの毎日はやめるんだ。



■思い出の彼との別れ。そして新しい一歩

待ち合わせ場所は、私とイナガキくんが出た高校の最寄り駅。

電車から見る景色は、10数年前とだいぶ変わったようにも感じるが、実際は大きく変わっていなかった。葉桜がしげる橋を渡ったとき、少し胸が締めつけられた。もう、あのころには戻れない。なぜかそんな思いが頭をよぎる。

ホームに降りると、すでにイナガキくんがベンチに座って待っていた。

「待ってたよ、いこっか」

私はうなずき、イナガキくんの半歩後ろを歩き始める。
駅舎を出ると、そのまま学校のほうに向かっていた。

「学校に行くわけじゃないけど、久しぶりに通学路を歩きたくなってね。こんな時間からつき合わせちゃってごめんね」

イナガキくんはそういいながら微笑んだ。どこか、寂しさを含ませながら。

「ううん、大丈夫。それより、話って何?」

そう言うと、イナガキくんは深く息を吐いて私の顔をすっと見つめた。

「僕、日本を離れることになったんだ」

……え? イナガキくん、いなくなっちゃうの?

こうなる予感はしていたのに、いざ言われるとなんて返せばいいのかわからない。

「一年間、フランスを拠点に活動することになったんだ。詳しいことはまだ話せなんだけどね。仕事の合間にオリジナルのテキスタイルを作れたなぁと思ってね……あれれ、友里ちゃん。そんな顔しないで」

そういわれても、気持ちは追いついていかない。

「せっかく、再会したのにもうお別れなんだなって思ったら、急に……」

私はイナガキくんから視線を逸らしぎゅっとくちびるを噛み締める。これ以上言葉を紡いだら、何かが壊れそうな気がしたから。

「これを逃しちゃいけないんだ……」

優しい口調だけど、強い決意を秘めているように聞こえた。

「そうだよね。私も少しずつ……」

進まなきゃ……と言いたかったけど声にならない。でも、お互いがいま、それぞれの道を進み始めるときだということは、言葉にしなくてもわかった。


■離れていく彼。私が選んだ夫

「そっかー。そんなことがあったんだ」

私は、歩きながらイナガキくんにこれまでのことを丁寧に話した。就職のこと、結婚や出産のこと、亮の転勤でこちらに戻ってきたときのこと、孤独な育児、幼稚園入園、そして――。

「友里ちゃんはそういう生活のなかで妙に人に気を遣う子になっちゃったんだな。この間は、よく聞きもしないでホントごめん」

「ううん、私もいろいろ気づかされることがあったから別にいいの。それに、私はその場にうまくなじもうとするあまり、自分を出さないようにしていたみたい」

「その通り。友里ちゃんは“みんなと同じ”を安心するタイプじゃないのに、無理やりそういうキャラになろうとしてるからね。出る杭は打たれるっていうけど、出過ぎた杭は打ちようがないのが僕の持論」

「出過ぎた杭って、もしかして自分のこと言ってる?」

私は真顔で尋ねると、イナガキくんは笑いながら私の髪をわしゃわしゃとなでまわす。

「なにするのー?」

私が体をよじりながら避けようとすると、

「これだよこれ、友里ちゃんのいいところ! 的確なツッコミ! 鋭い切れ味超サイコー!!」

ケタケタ笑うイナガキくんに、私もつられて笑っていた――。





楽しい時間は過ぎ、帰りの電車を待つホームで、ふいに疑問に思ったことを確かめたくなった。

「ところで、聞きにくいことなんだけど、ご両親、最近どうしてるの?」

「一昨年、父親が倒れちゃってさ。あ、たいしたことないんだ、単なるギックリ腰だから。それでちょっと寂しくなっちゃったみたいで……」

「誰かいい人と再婚したの?」

「それがね、なぜか母親に連絡取ったみたいで、いろいろ食事の差し入れとかしてもらってるうちに復縁しようという話になって、今、温泉地にあるマンションでふたりで暮らしてるよ。だからね。今、夫婦仲が怪しくても、長い目で見れば大丈夫なんじゃないかなって思ってる。それにね」

イナガキくんは言葉を切ると、そっと私の耳に唇を寄せてくる。

(宇野未悠)

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