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ジョナサン・アンダーソンが語るクラフトの力と桑田卓郎、そしてロエベの最新コレクション。

  • 2020.3.2
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Photo_ Jamie Stoker
Photo: Jamie Stoker

ジョナサン・アンダーソンロエベ(LOEWE)のクリエイティブディレクターに就任したのは7年前。以来、彼は1846年創業のこの老舗ブランドに、クラフトの持つモダンな空気を吹き込んできた。そのジョナサンが2020-21年秋冬コレクションで目指したのは、「ファッションに人間味を取り戻すこと」。そのためのアプローチとして彼は、「2018年ロエベ財団クラフトプライズ」の受賞者である日本人のセラミックアーティスト、桑田卓郎とのコラボレーションを試みた。

桑田がこのコレクションのために制作したのは、陶製のペンダントやバッグのチャーム、トップやドレスのボディスに付けるスタッズなど。それらが、ウールやブロケード、厚手のコットンといった重厚な素材のアイテムに組み合わされた。ジョナサンは今回のアプローチを、異なる要素を一つのアイテムの中に融合させるというより、異なるモノ同士の出合いであると語っている。

VOGUEは、パリコレでの発表の前、パリにあるロエベのスタジオでジョナサンに会い、彼がクラフトに夢中になる理由、そして、ファッションという流動的なものが進む未来について、話を聞いた。

陶芸家の桑田卓郎。Photo_ Benoit Peverelli
陶芸家の桑田卓郎。Photo: Benoit Peverelli

──なぜ桑田卓郎とコラボすることになったのですか?

僕はいつも、陶芸家とのコラボレーションを夢見ていました。1980年代に三宅一生とイギリスの陶芸家、ルーシー・リーがそうしたように。彼らのようなコラボレーションを今やる意味とはなんだろうと考えていたんです。僕は卓郎の作品のコレクターです。彼はとても若いけれど、あらゆる世代の陶芸家たちに影響を与える存在です。遠くから見ると、僕らのコラボ作品はレザーのように見えますが、実は磁器。ネックレスやバッグはそのまま商品化する予定ですが、服はまだどうすれば商品として成立させられるか構想中です。ファッションとクラフトを結びつけるため、今回のショーピースは学校などの団体に寄贈する予定です。

ロエベ2020-21年秋冬コレクションより。Photo_ Filippo Fior/ GoRunway.com
ロエベ2020-21年秋冬コレクションより。Photo: Filippo Fior/ GoRunway.com

──桑田氏が制作したネックレスやバッグは、日本の茶道で使われる抹茶碗を着想源にしていると聞きました。茶の湯と同じような厳かな感覚をファッションにももたらしたいと思いますか?

服を着るという行為には、どこか儀式のような感覚があると思います。何を着るか決断する必要のない制服というアイデアを好む人もいますが、僕にとって服を着るというのはある種のパフォーマンス。それはジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)でも追及していることで、オフィスでもドレスアップするというアイデアです。

ロエベの2020-21年秋冬コレクションで発表されたバッグ。Photo_ Benoit Peverelli
ロエベの2020-21年秋冬コレクションで発表されたバッグ。Photo: Benoit Peverelli

──今回のコラボレーションは、あなたにとってどんな意味を持ちますか?

クラフトはいつも僕に何かを語りかけてくれる存在です。クラフトには、人の手のぬくもりや痕跡がありますが、つい僕たちは、ファッションも人がつくったものだということを忘れがちです。スマフォのスクリーン上でものを見ることに慣れてしまい、目の前にあるものを見ているようで、もはや本当には見ていないんです。だから僕は、服づくりの現場を工芸家のアトリエのような場所にしたい。そうして、ファッションに感情や手触り、人間らしさを取り戻したいんです。

同じく、桑田が制作したアクセサリーパーツ。Photo_ Benoit Peverelli
同じく、桑田が制作したアクセサリーパーツ。Photo: Benoit Peverelli

──2020年秋冬コレクションにはボリューミーなシルエットが多く見られます。その着想源は?

今シーズンはボリュームを追求しました。参考にしたのは、ディオール(DIOR)バレンシアガ(BALENCIAGA)といった戦後のパリのデザイナーたち。彼らの革新的な作品が他のヨーロッパ諸国に及ぼした影響や、それが他国で翻訳されたり変換される過程で失ったものとは何かについて考えました。つまり、その原型を海の向こうのイギリスやスペインへ輸出すると、現地のテイラーなどの解釈によってディテールが変化し、生地が変わり、オリジナルとは別のものになっていくわけです。

今回、僕たちはフランスやイタリア、日本で一から生地を開発しました。ウールとシルクのジャカード織です。ジュエリーとしてのファッションとは何かを探求すべく、ビーズをたくさん使用しました。ショーでは、それらをスニーカーに合わせたりしました。僕はベーシックなアイテムが好きなんです。あと、日本の籠細工を参考にレザーバッグをデザインしました。

Photo_ Filippo Fior/ GoRunway.com
Photo: Filippo Fior/ GoRunway.com

──日本のアートや文化がこのコレクションの大きな部分を占めているということですね?

日本はいつも僕のインスピレーション源です。2019年のロエベ財団クラフトプライズで京都を訪れたとき、モダニズム建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエがデザインした日本家屋を見て、感銘を受けました。ミースが提唱した環境に溶け込む建物というアイデアは時代を超越しています。中世のヨーロッパでは、空間を暗い照明と暗い家具でつくりあげていましたから。

──今、ファッション業界ではショーのあり方とその妥当性が議論されるようになっています。このことがファッション界の将来に与える影響をどう思いますか?

皆、ショーはやらなくてもいいという考えに傾倒していますが、同時に我々はコンテンツを欲していて、その意味でショーはコンテンツをつくるのに最適な方法でもあります。デザイナーたちはそれぞれに、体制に従うというより独自のあり方を模索する必要があると思います。トム フォード(TOM FORD)がロサンゼルスでショーを開催したければ、そうするべきです。誰かがつくったシステムを真似るのではなく、自分にとって正しいことをするのが重要だと感じています。

僕個人にとってのショーは、始まりと終わりをつくってくれるもの。ある一定の期間制作に費やしたら、ショーによってバン!と終わる。そしてまた次に進む。つまり、終止符のようなものなんです。今のところ、ショーに代わる区切りのつけ方を見出せていません。

10年前には誰もが、「ああ、ショーはデジタル化され、我々はそれをライブストリーミングするんだ」と思っていましたが、そうはなりませんでした。ファッションの情緒的な側面が見られるという点に、何か特別なものがあるのかもしれない。人々がファッションを議論するためにある空間に集まり、その周りをモデルたちが歩くという奇妙な発想ですが、これを失くすことで多くのものが失われると感じています。それは、「なぜ展示会を開く必要があるんだ?」と言っているのと等しいのです。

岐阜県にある桑田のアトリエにて。Photo_ Benoit Peverelli
岐阜県にある桑田のアトリエにて。Photo: Benoit Peverelli

──つまりファッションを、例えばアート作品や建築物と同じように捉えるべきだということですか?

僕たちはずっと前に、ファッション業界のエリート主義的な線引きを壊してきたと思っています。今やアートや建築を見るように、純粋にファッションの創造性を楽しむことができる時代。若い世代は常に、「なぜ物事はこうであるべきなのか」と既存の常識や固定観念を問いながら制作しています。それこそが絵を描いたり、ドレスをつくったりすることの目的であると僕は思います。僕らが今生きているこの瞬間を映し出したり、それに挑戦したりすべきです。

ファッションもアートも、突き詰めれば結局のところ商業です。もちろんファッションを大量に売るのは難しい時代だと自覚していますが、アート界も、誰もがあえて認めようとはしませんが、商業的になりつつあることは確かです。

Text: Liam Freeman

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