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親子の「距離感」は難しい…! 独特の人生相談で人気の幡野広志さんに聞いてみた

  • 2020.2.27
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cakes史上、最も読まれた連載が書籍化されました!
ガンを宣告された写真家・幡野広志さんによる人生相談です。幡野さんのところには、なぜか多くの人からありとあらゆる人生相談が集まるのですが「悩み相談を受ける中で、親子や家族関係で、悩んでいる人が多い」とのこと。

「親子関係」は、人間関係の原点で悩みも深いテーマなのかもしれません……。

親子の「距離感」は難しい


幡野広志さん(以下、幡野):本のタイトルにもしましたが、人生の悩みを『なんで僕に聞くんだろう』とずっと思ってました。おそらく、相談者の方は「親に相談できる」という選択肢や人間関係を持てていないのかなぁ…と。自分の親に相談しても、納得のいく答えが出ないと思っているんでしょうね。

編集部(以後、―)自分が母親になってみると、耳が痛い話です。
幡野:多くのお母さんの子どもに対しての距離感、僕は「不思議だなあ」と、感じます。少し距離をとっているお父さんのことをdisっちゃったりして。

― 夫が、自分と同じくらい子育てに「一生懸命」でないのが腹立たしくなるんですよね…
幡野:子どもからすれば、お父さんまで、お母さんと同じ距離感になってしまったら、逃げ場がなくなってしまいます。あまりよくないと思います。

― 母親にとっては、「自分」と「子ども」の精神的な線引きが、難しいのかもしれません。
幡野子育て以外に何かアイデンティティを持ってないと危ないですよ。子どもが生まれると、自分の仕事や趣味を諦めてしまう人は多いですが、僕は逆じゃないのか? と、思うんです。子どもができた人ほど、色々なことをやってみるべきだと思います。ストーカーみたいな親にならないためにもね(笑)。

― 子育て以外のことをしていい…。なかなか、そうは思えない人が多いように思います。
幡野:とりわけお母さんと息子のパターンは、恋愛にかなり似たようなものを感じます。下手な恋愛みたいになっている親子を見てると、逃げられない子どもは可哀想だと思います。恋愛上手な人って、恋人との距離感の取り方が上手だと思います。

― 子どもとの距離感について、幡野さんはどう考えてますか?
幡野:今、僕の子どもは3歳ですけど、とても魅力的な存在です。子どもが生まれて、子どものことが何よりも大事になるのはわかります。あそこまで純粋無垢に自分のことを大好き!と言ってくれる存在は、他にはいませんから。「ママ大好き! パパ大好き!」という「大好きでいてもらえること」が嬉しくて、それに依存してしまうんでしょうね。


―親が「子どもという存在」に依存してしまう…。わかります。
幡野:でも、子どもが、大きくなれば親がどういう人間なのかというのはバレます。いずれ、こう、何というか……例えば依存が強い親だったらそういう人間だってことが子どもにバレちゃうんです。

僕だって、子どものころは「大人は立派で偉い人」と思っていた時期もありました。でも、大人が立派なわけではなくて、立派な人もそうでもない人がいることが自分が大人になるとわかりますよね。僕が子どもの頃、偉ぶっていた学校の先生がいましたけれど、今考えると大したことなかったと思います。いずれバレるんだから、あんまり子どもに偉そうな態度はしないほうがいいんじゃないかなと僕は思っちゃいます。

力の弱い人間に対して、どんな態度をとるかで人間性は出る
ー著書の中で、「力の弱い人間に対して、どんな態度をとるかで人間性が出る」と。
幡野:すごく出ると思います。これは、子どもに対しての話だけでもなく、たとえば、会社の後輩や、弱い立場の人に対する態度で人柄ってわかると思います。もちろん、これは男性だけでなく、女性も一緒です。

― 反省しかないです…。家庭という密室の中で、どうしても子どもに対してイライラをぶつけてしまうことがあって…たとえば、出ないといけない時間なのに子どもがダラダラしている…とか、そういう些細なことなのですが。
幡野:でも、子どもは、そういうもんなんじゃないですか? 僕は36歳で、もう36年も人間をやっているから、ある程度のことはできます。でも、3歳の息子は、地球に来て3年ですから。まだ新人ですよ。そんな人に怒ってもしょうがないかな~、と僕は思うんです。怒って子どもが成長するのだったら話は別ですけど、怒ったところであまり効果はないと思うので。

― 怒っても何もいいことないのは、頭ではわかっています。でも、毎日の生活の中で、子どもと接していると、合理的な判断ができなくなってしまう瞬間もあって…
幡野:そりゃそうですよね。その感じもわかります。お母さんの中には、完璧を求めている人が、多くいる気がします。無意識に「絵に描いたような家庭」や「良妻賢母なみたい自分」を目指してしまっているんだと思います。そんな「絵に描いた餅」を目指したって、無理なんじゃないですか?

― どうして、母親は「「絵に描いた餅」を目指してしまうのでしょうね?
幡野:う〜ん…人の目を気にしているからじゃないですか? 僕は、人の目を全く気にしないから、あまり子どもに怒らないんだと思うんです。たとえば、「オムツが早くとれることは、良いことだ」と、思っていませんか? 無理にオムツを取ろうとして、それでおもらしをして子どもにイライラして、ストレス抱えるぐらいなら、オムツが自然に取れるのを待てばいいんじゃないかなと思います。きっと、「他の子よりも早くオムツがとれる」とか「喋り出すのが早い」とか「立つのが早い」とか……。無意識に他の子と比較しちゃうんでしょうね。次は、学校の成績や習い事の上手い下手、進学先や就職先、結婚相手……と比較ばかりしていると、その先にあるのは「自分のことを他の誰かと比較する人間」のできあがりですよ。


―幡野さんは、比較とは無縁そうですね…(笑)
幡野:僕自身、誰かと比べられるのが嫌いなので、自分の子どもを他の子どもと比較するなんて絶対に嫌です。妻の実家に行くと、「早くオムツ取れるといいわね」と言われるんですけれど、「関係ねえよ」と、僕は大きい声で言っちゃいます。
人は比較する生き物だというのはわかっているんですが、あまり巻き込まれたくないので、面倒くさい人に釘を打つのは、大事な仕事かなぁと。

僕は、1人の子どもを夫婦2人で育てていて、かなりギリギリだと感じています。これは僕もやってみてわかったことです。もし、ワンオペでやらざるをえないんだったら、よっぽど他の部分を切り捨てないと無理です。家事なんか、無理。バッサリと割り切って、合理的にやっていかないと難しいと思います。

― ワンオペ育児でも「家事をきちんとやらないと」と思う人は多いですよね…。
幡野:毎日の食事を自分で作らなければいけないと思っている人は多いですが、「そんなにがんばらなくていいんじゃないかな?」と、思います。もちろん好きで楽しんで食事を作ってる人はいいのですが、うちはかなりウーバーイーツに頼っています。子育てという、あんな大変な仕事を、1人でなんて、絶対に無理です。何度も言いますが、ウチは1人の子どもを夫婦2人で育てていてギリギリです。


子どもが泣き止まない。僕はそんな時、音楽を聴いている



― 幡野さんみたいに、「合理的」+「人と比べない」だと、だいぶ楽になれそうです
幡野:そうですよ。人の目を気にするより、自分の子どもからの目を気にした方がいいですよ。僕は、子どもが泣き止まないとき、イヤホンをつけて音楽を聴くこともあります。「泣き声」でイライラするくらいだったら、イヤホンをつけて自分の好きな音楽を聴いていた方がいいじゃないですか。

―泣き声は、自分が責められている気がしてしまうんですよね
幡野:泣き声は生理的に不快だから、ですよね。それだったら僕は自分が耳栓をしたり、イヤホンで音楽を聴いて自分の気持ちを落ち着けてから子どもの対応したほうがいいと思うんです。「子どもが泣いているのにイヤホンで音楽を聴いているなんて、何て、ひどい人!」と言う人もいると思いますが、僕は「合理性に欠けるな」と、思っちゃいます。楽するところと、がんばるところを分けて考えればいいのに。


親の方が立場が強い期間なんて一瞬
― 楽をしていいところを見極める……。そういう「境地」になかなかたどり着けないです
幡野:まず、人のことを気にするのをやめたらいいと思うんですよね。周りの人のことより、自分と自分の子どものことを気にした方がいい。あとね、最終的に「子どもの評価」を「自分の評価」にすり替えちゃう人がいるんです。

― 子どもは、自分とは切り離して考えた方がいい?
幡野:そりゃそうですよ。想像するのが難しければ、「先輩」「後輩」ぐらいの関係性で考えてみたら、どうでしょう。 自分が何もできない新人の時に、「ガミガミ怒る先輩」と、「優しくいつも待って教えてくれた先輩」、どちらに信頼を置きますか? おそらく、感情的に「ガミガミ怒る先輩」を尊敬することって難しいですよね。それは親子関係でも、同じだと思います。今、子どもは自分よりも弱い存在ですが、15年ぐらいで抜かれますから。親がよっぽど成長する人でない限り、そのうち絶対に抜かれます。親の方が立場が強い期間なんて人生で圧倒的に一瞬ということを意識した方がいいと思います。

幼少期は、自分と子どもの信頼関係を積み重ねる時期


― 著書の中の「言葉で人の歩みを止めることも、背中を押すこともできるならば、できるかぎりぼくは背中を押す人でありたい」という言葉が印象に残りました。子どもの背中を押すことができるママになるために、どうすればいいですか?
幡野:子どものことを、否定しないことじゃないですか? たとえば、うちの息子がyoutubeを見て「これ、欲しい」と言った時、僕はいつも「いいね! 今度、探しにいこうか」と、言うんです。3歳の子どもが「これ、欲しい」というのは、少し噛み砕けば、「これ、いいな」ということでしょう? それを、大人の都合で「いらない」とか「すぐ飽きちゃうよ」と決めつけるのは、子どもの感情の否定だと思うんです。買う、買わないは、別の話として、「いいね! 今度、探しにいこうか」って言えばいいと思うんです。

―どうして、幡野さんは、そういうセリフがサラっと出てくるのでしょうか?
幡野:そうだなぁ、そうですね……。いずれ評価をするのは、子どもだと思ってるからですかね。最後は自分の人間性が子どもにバレるんです。だから僕は子どもに自分の価値観をできるだけ押しつけないようにしています。幼少期は自分と子どもの信頼関係を積み重ねる時期なんだと僕は思ってるんです。



幡野さんの人生相談が人気の理由

詳しくは本書を読んでいただきたいのですが、恋愛相談から家族のこと、病気の悩みなど多種多様な人生相談に幡野さんが答えています。

「家庭のある人の子どもを産みたい」「娘がイジメられていて自殺を考えている」「2歳半の息子の子育てがツラい」「娘が非行にはしった」「中2の息子の成績が悪い」「友人と同じ人を好きになった」「夫の浮気が判明し、自分の病気も発覚した」

ヘビーな相談も多いのですが、幡野さんは、子どもや立場の弱い人に徹底的に寄り添いつつ、合理的――そして、問題の本質をさらっと見抜きつつ本音で生きることの大切さを伝えてくれます。

合理的で優しい…このバランスの絶妙さが幡野さんが人気の秘密だと思いました。

…本の帯には「言葉で人の歩みを止めることを、背中を押すこともできるならば、できるかぎりぼくは背中を押す人でありたい」と書かれています。幡野さんが誰かの背中を優しく(時に強く)押している言葉をぜひ読んでみてください。子どもとの関係に役立つ言葉はもちろん、人生のヒントがたくさん散りばめられています。

(楢戸ひかる)

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