1. トップ
  2. レシピ
  3. 糸島・産直めぐり。そこに、豊かな素材があるから

糸島・産直めぐり。そこに、豊かな素材があるから

  • 2015.4.12
  • 10156 views

”美味しいものがたくさんある場所”として、多くのメディアなどで話題に上ることの多い福岡県糸島市。糸島といっても、島ではありません。福岡県と佐賀県の県境に位置する、人口約10万人の都市です。海も山もあり、北部海岸線沿いは北九州方面のサーファーに人気のエリアと知り、なんとなくメロウでスローなムードが流れていそうな場所というイメージを抱いていました。今回の「暮らしと、旅と...」では、食いしん坊たちの心をつかむ糸島の魅力を探ってみようと思います。

「産直市場」は、私が旅先でほぼ毎回チェックするもののひとつです。そこで買っても調理はできないのに、なぜ見たいのかという理由は挙げるときりがありません。そのなかでも一番の理由は、訪れた土地の人たちが大切に育てた野菜や新鮮な魚、工夫された加工品などをお土産にして、家族や友人たちと旅の余韻を楽しむためです。

「糸島いいよ〜。食に恵まれてて。早く移住したい!」と、食にうるさい九州在住の友人が言うものだから、いざ足を運んでみたら、あるわあるわ、私の大好きな産直市場が市内に19カ所も!人口約10万人規模の都市で19もの産直市場が存在するのは驚くべきこと。この事実は、それだけ第一次産業にかかわる人口が多いということ、そして、それらがしっかりと消費されているということを表しています。私の友人も福岡から毎週末のように通いながら、糸島に移住したら自身で田畑を耕して自給自足をしたいと言っていたっけ。 福岡空港に到着して糸島を車で目指し、まず最初に訪れたのは西九州自動車道の前原I.Cを降りてすぐのところにある「伊都安蔵里(いとあぐり)」。2009年に地元農家を中心に、”地元の人が喜ぶ産直ショップ”のコンセプトで始まったこのお店は、昭和初期の醤油蔵「旧・福寿醤油」を改修・復元した建物を利用しています。重厚感とともにモダンな雰囲気が漂う店内には、糸島産野菜をたっぷりと味わえるレストランや古民家カフェを併設しています。農家によって有機無農薬や自然農法でつくられた野菜が市場に次々と運ばれてくるなか、カフェやレストランのランチタイムでは、同じ野菜を使用してサラダビュッフェが始まりました。素材の確かさが評判となり、ここでランチを食べることを目的として糸島を訪れる人もいるそうです。

さっそく私も採れたての糸島産の野菜をたっぷりと器にとり、安蔵里オリジナルのドレッシングやオリーブオイルでいただきます。蒸したにんじんやスティックセニョールと呼ばれる茎ブロッコリーの甘さ、葉野菜の青々しさ、ほろ苦さ。野菜好きもうなる表情豊かな春野菜を堪能できます。そのうえ地元である長糸地区のお母さんたちが作る、雷山ポークの角煮と、煮しめや呉豆腐、甘煮豆など、糸島産食材を使った小鉢8品と、ご飯、お味噌汁がついた「山の御膳」(1944円)をたらふく食べて、お腹いっぱい。サラダビュッフェで、隣で野菜をとっていた女性は福岡県宗像市からここの野菜をお目当てに車を飛ばしてきたのだとか。

旅の初日にもかかわらずお土産用の調味料を物色していたら、試食だけで22種類、ずらりと並んでいるではありませんか。「つなぐ」をコンセプトにした伊都安蔵里では、野菜やお漬物、各種加工品のほか、飲食を担当する地元のお母さん方で結成された「いきいき恵 長糸の会」とお店のスタッフ、糸島の生産者たちが力を合わせて調味料や加工食品を開発しています。商品の木樽で仕込んだ生醤油や合わせ酢、オリジナル味噌などを試食してみると、どれも工夫が感じられて食卓に持って帰りたくなる味。そのどれもが無添加というのも大変魅力で、私は、「みそグラノーラ」と一番人気のおかかしょうが「美人佃煮」を購入しました。ああ、糸島の旅はこの先もお財布の紐がゆるみっぱなしだろうなあ......。

◯伊都安蔵里(いとあぐり)

[所]福岡県糸島市川付882

[TEL]092-322-2222

[時間]10:00~17:30(ランチ 11:30 ~ 14:00 かふぇ:11:30 ~17:00)

[休]第2、4火曜

[HP] http://itoaguri.jp/ さて次は、JA糸島が運営する産直市場、「伊都菜彩」へ。こちらは、地元の人たちが多く利用する産直市場ですが、実は朝一番のお客さんは福岡市内から来ている飲食店の方が多く、圧倒的な品揃えに「福岡の台所」ともいわれています。体育館のような建物内には、魚、肉、スイーツ、乾物、調味料、野菜、果物、花、卵、パンなどが分かれて陳列されており、商品バラエティの豊富さには驚きます。どのコーナーも生産者が溢れるほどいるようで、登録している生産者の名前が記された木札が壁一面にかかっているのも壮観。なんと登録されている出荷会員数は1300名だとか!糸島市内だけでそんなに!?という多さです。生産者が多い理由を店長の松隈貴幸さんにたずねてみると、「背振山系のきれいな水が急激に玄界灘に注ぎこむ間の土地は、比較的農業をしやすい土地であるといわれています。寒暖の差が少なく、気候に恵まれているのもここで農業を続ける人が多いことの理由のひとつですね」とのこと。

伊都菜彩は、スイーツのレベルが高いという評判を聞いたので早速スイーツコーナーを見に行ってみると、冷蔵ケースいっぱいに、そして棚にもあふれんばかりにさまざまなお菓子が並んでいました。店頭に出したら午前中には在庫がなくなるという評判のアップルパイをおやつに買い、ほかにも地元の醤油店の作った麦味噌、いりこ、古代米などをお土産にしました。帰宅前日に立ち寄るのがおすすめです。

◯伊都菜彩(いとさいさい)

[所]福岡県糸島市波多江567

[TEL]092-324-3131

[時間]10:00~18:00

[休]年始のみ

[HP] http://www.ja-itoshima.or.jp/itosaisai/ 最後に紹介するのは、糸島といえばなんといっても玄界灘の海の幸!8つの漁港をようするJF糸島(糸島漁業協同組合)直営の物産直売所「志摩の四季」は、糸島近海で獲れた魚を始め、農産物、加工品が販売されています。早朝には、登録している250名の漁師が獲れたての魚を自分たちで冷蔵ケースに並べるそうで、その量はあふれんばかりなのだとか。それを知っている人たちは開店と同時にお店にやってきて目当ての魚を買って帰ります。私が訪れた際は悪天候のため、しばらく船が出ておらず魚の入荷が少なめでした。遠方から足を運ぶ人のためにホームページで朝8時から9時の間に入荷実況中継をしているので、訪れる際にはそちらをぜひ参考にしてみてください。 糸島は漁港に魚市場がないため、獲れた魚の多くは志摩の四季に運ばれてきます。飲食関係の人たちも新鮮な魚を目指してここにやってきます。購入した魚は、3枚おろしにするまでは無料なので、お土産にしたい人はさばいてもらうことをおすすめします。各種宅急便にも対応しているので、暑い季節でも安心です。もし買わなくても、いけすに放たれた魚や陳列されたものを見るだけでも、土地のことが見えてくるのが産直市場の面白さ。「今の時期からは漁獲量日本一ともいわれる糸島の天然マダイが出てきますよ!」と店長の柴田洋さん。

志摩の四季に行くならぜひ海鮮丼を食べて!と地元の人におすすめをされ、「志摩の海鮮丼屋」開店直後に行ってみると、すでに何人かの人が座って食べていました。「いつものね」とオーダーしている人もいて、地元のおなじみさんも多い様子。私が頼んだのは「海鮮丼(中)850円」。ブリやヒラマサ、ブリトロ炙り、タチウオ、マダコの刺身がたっぷりと乗った海鮮丼を地元のミツル醤油が作っている甘口醤油でいただきます。コリコリとした切り身の弾力に思わずにんまりとしてしまいました。

ネタは支配人の馬淵崇さんが、その日の入荷状況を見て魚を選んでいます。お話を伺ってみると、「糸島の漁師さんは漁法はもちろん、しめ方にもこだわる方が多く、素材を扱う楽しみがありますね。ここで魚を扱っていると日々、勉強になります」とのこと。

今回は悪天候のため、残念ながら糸島の魚を買うことができませんでした。次回来る機会には大きなタイをお土産にして友人たちとのホームパーティーで出して、驚かせてみたいものです。

◯志摩の四季(しまのしき)

[所]福岡県糸島市志摩津和崎33-1

[TEL]092-327-4033

[時間]8:30~17:30(志摩の海鮮丼屋は11:00~14:00 なくなり次第終了)

[休]お盆、正月(志摩の海鮮丼屋は水曜休)

[HP] http://www.shimanoshiki.jp/

12年間観光客数が伸び続けている糸島。産直市場を目的にして訪れる方は大変多いとのこと。「糸島市は福岡市内から車で30分にある便利さもあり、福岡市内に宿泊し、1日だけ足をのばして糸島を訪れる方もいます。観光して糸島を気に入って、できればここに移住したいとおっしゃる方もいますよ」と糸島市観光協会の鬼木武幾さんは話していました。

産直市場という形態によって生産者の顔が見えることや、産直市場の設けている厳しい出荷基準など、生産者の努力によって消費者への信頼を得ているのが、現在の糸島ブランドの食材です。よき食材と生産者の近くには、移住してお店を開くシェフやパティシエ、器を作る陶芸家などが集まり、それに伴うように、美味しいものを求めて人々がやってきます。糸島のムードを、産直市場を通して少しだけ見えた気がしました。

そうそう、伊都安蔵里にいたときに、掘りたての里芋を持ってきた生産者のはるえおばあちゃんに会い、農作業所を見せてもらうことになりました。そこで見つけた面白いものは、糸島人たちによる、糸島に暮らす人たちのための自然を感じるこよみ。次回は、糸島こよみを作る人たちの話をお伝えします。お楽しみに。

の記事をもっとみる