1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. ちっとも寂しくなんかなかったのに・・・【E-girls山口乃々華連載 ののペディア/温もり】

ちっとも寂しくなんかなかったのに・・・【E-girls山口乃々華連載 ののペディア/温もり】

  • 2020.2.14
  • 217 views

E-girlsメンバーの山口乃々華さんが、瑞々しい感性で綴る連載エッセイ「ののペディア」。今、心に留まっているキーワードを、50音順にひもといていきます。

第23回「ぬ」:温もり

東京で一人暮らしを始めてから、そろそろ8年目になる。もうそんなに経つのか、という気持ちだ。

今年の2月はおかしな天気。わたしも桜の木と同じく、春だと勘違いしてしまいそうなくらい、暖かい日がある。そんな日は、上京したときのことを思い出させてくれる。

・・・

実家を出ていくわたしを、母が心配そうな顔をしながら、でもいつも通りに玄関先で見送ってくれたことを、今でも覚えている。

そんなふうにあっさりと新生活は始まった。

一人暮らし、といっても初めの3年間は寮暮らしで、部屋から出ればすぐにメンバーと会える環境だった。

そのおかげで、我慢できないほどのホームシックになることもなかったし、なにより“初めての一人暮らし”に、かなりワクワクしていた。

憧れのピンクのタンスを置いて、花柄のベットカバーを掛けてそれから真っ白のドレッサーを置いたりもして。そんな部屋に住めるのが嬉しくて、楽しみで、仕方なかったのだ。

東京に来てからは、なんだかんだ忙しい日々が続いた。

新生活という名の魔法はいつのまにか溶け、ひとりの部屋に帰り眠ることにも、慣れていった。

しかし、ある日のこと。

前日の余りのカレールーを、電子レンジで温めようとして、誤って器をひっくり返してしまった。

カレールーはまだまだ新しいピンクのラグの上に綺麗に広がった。

ただのドジな失敗だけれど、びっくりして、その瞬間なぜか急に寂しさを感じた。カレーだらけになったラグを見ていたら、わっと涙が溢れてきた。

泣きながら思った。こういうちょっとしたハプニングが起きても、誰も来てくれないんだ、と。

実家にいたときは、家族の誰かしらが来てくれて、片付けを手伝ってくれただろう。「何やってるの、もう〜」と叱るか、笑ってくれたはずだ。

そう思ったらもう、涙が止まらなかった。それまではちっとも寂しくなんかなかったのに、急に“ひとり”を実感したのだと思う。

わんわんと泣きながら、落としてしまったカレーをティッシュで拭いた。でも、拭いても拭いても汚れは取れず。

今度はイライラしてきた。カレーに八つ当たりした。

もうなかったことにしてしまおう、とそのままラグを丸めて、粗大ゴミとして捨ててしまった。

ガランとした部屋を見て、ラグ、捨てちゃだめだったな、とまた気持ちが暗くなった。感情がごちゃ混ぜになり、やるせなかった。

寂しさを感じるようになってからは、部屋の中に人形を置いたり、抱き枕を買ったりもしたけれど、それではわたしが求めている温もりを感じることはできず実家によく帰るようになった。

実家から東京に戻る日は、そのあとに仕事や予定がないと、なんとなく気持ちが沈んでいくのがわかった。

さっきまで家族と一緒だったのに、突然ひとりになるその静けさが、わたしの中の何かにチクっと刺さるのだった。

家族の温もりなんて、実家に住んでいたときは全然わからなかった。だけど心にしっかりと染み付いていたからこそ、離れてひとりで暮らしてみたとき、思いもかけないきっかけで、寂しさという感情になって表れたのだと思う。

・・・

今、一人暮らしは、わたしの日常になっている。

あの頃に比べたら、ちょっとやそっとのことでは動じないくらいに逞しくなった。

それでも、思い立ったらすぐ帰れる距離に実家があることに、未だかなり助けられているのが正直なところ。

【ののペディア/温もり】心が知っていたこと

元記事で読む