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「好きなこと」をやり続ける。自分らしい生き方のヒント

  • 2020.2.12
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北海道十勝・大樹町の移住と就業支援のユニークな取り組みを活用し、酪農アーティストとして活動している木版画家の下山明花(しもやまあすか)さん。朝夕は酪農家の従業員として働きながら、好きな木版画の創作活動をしているライフスタイルや、ものづくりに対する思いなどについてお話を伺いました。

二つの顔を持つ酪農アーティスト

前編でご紹介した北海道十勝・大樹町の「若手芸術家地域担い手育成事業」を活用し、酪農アーティストとして活動する木版画家の下山明花(しもやまあすか)さん。故郷の北海道札幌から山形県山形市にある東北芸術工科大学に進学し、美術科版画コースを卒業。大学卒業時の2017年3月に大樹町に移住し、活動をスタートしました。

諦めず好きなことを続けていくために

「最初は酪農に対してあまり関心はなかったのですが、学生時代から畑作業などの田舎での自給自足の生活には興味がありました。都会のような人が多い環境よりも地方の時間がゆったりとしたところでのんびり制作活動しながら、生活できたらいいなと思っていたので、その足がかりになったらという思いはありました」。そう話す下山さんにとって、地方での暮らしは、自分の好きなことを続けていくための決断でもありました。

「アーティスト活動だけで食べていけるのは、卒業生の5%に満たない状況なんです。卒業後も創作活動を続けていくこと自体がそれくらい難しく大変なことなんです。理想は作家一本で食べていくということなのかもしれないですが、私自身、めちゃくちゃ才能があるとは思っていないし、ただ版画を作ることが楽しくて、大好きな版画の創作活動を続けていきたいと思っていました」と、若手芸術家たちの実情とともに、酪農アーティストとして活動を始めた動機を教えてくれました。
続けなければゼロに等しいアーティストとしての可能性。だからこそ、キャリアを継続していけることが何より大事だといいます。

酪農が作品に与えるもの

実際のところ、生活のための仕事と創作活動を両立させる難しさはないのでしょうか?という質問をしたところ、下山さんはこう話してくれました。

「酪農の仕事に携わりながら創作活動をしているわけですが、酪農の仕事は創作活動をするにあたって、とてもいいなと感じています。何よりも、酪農とアーティストの兼業には心のゆとりが生まれます。絵だけで食べていこうとすると、心が折れた時が大変かもしれないけど、酪農の仕事があるということで、生活面だけではなく、気持ちにも余裕を持って創作活動ができます。
絵だけでは生活がワンパターンになりがちで、どうしても行き詰まってしまうこともありますが、酪農の仕事では可愛い牛たちに癒され、頭を切り替えることができてリラックスタイムにもなります。それと、意外に体力がついて、体調が良くなりましたね(笑)。創作活動では体力を使うので、一挙両得な部分があると思います」

普段の生活に「酪農」と「アート」という二つの要素があることで、自身の作品に与える影響があるのか下山さんに聞いてみると、生まれる絵には酪農アーティストならではの魅力があることがわかりました。

下山さんは「酪農の作業で自分の見た風景が版画作品に生かされていることがあります。その作品を通して、作家のことだけでなく、地域や酪農についても知ってもらうことがあります。それは一般的な絵にはない新しい発見です。
たとえば、展示会などで私の作品を見た人が作品を通して酪農のことを垣間見ることによって、絵にしか興味がなかった人が広く地域や酪農について知るきっかけにもなっているのかなと思うことがあります」と、これまでの経験を教えてくれました。その逆も然り、酪農に興味のある人が、酪農アーティストの存在を知り、絵に興味を持ってもらうこともあるのだそう。

酪農の仕事の合間に作れるのは、ひと月に1作品

木版画家の下山さんの活動拠点は、大樹町尾田地区にある旧児童会館を改修したアトリエ。この場所は町から提供してもらっている施設です。基本的に朝と夕方は酪農家の従業員として搾乳を中心に仕事をし、それ以外の時間を創作活動にあてています。

「トータルすると、だいたいひと月に1作品くらい完成させています。私はのんびりタイプなので、締め切りがないとなかなか終わらずで(笑)」と話す下山さんは、北海道内での活動にとどまらず、2月には東京の銀座でも展示会を開催予定。現在はその締め切りに向けて、朝晩の酪農の仕事の合間に創作活動に打ち込んでいます。また地域からの依頼もあり、美術館での個展の開催や、道の駅のスタンプのデザイン制作など地域とも関わりを持ちながら創作活動を続けているそうです。

好きを続けることが社会貢献にもつながる

枠にとらわれず、酪農とアーティストという2つのフィールドで活動する下山さん。意外なところに日々の発見があり、のびのびと自分らしいライフスタイルを実現していることを知りました。地域にも貢献しながら、好きなアーティスト活動にも大きな影響を与えているようです。

酪農アーティストとしてアーティストのキャリアを生かす若手芸術家、地域、そこから生まれた作品を通じてつながっていくファンとの間に新たな可能性を感じている下山さんのお話に、これからの活躍にも期待が膨らみます。

writer / 渡邊 孝明 photo / 下山明花、渡邊孝明

取材協力

木版画家(酪農アーティスト) 下山明花
https://www.instagram.com/asuka.shimoyama/?hl=ja

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