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コロナウイルスがファッション業界に落とす影。

  • 2020.2.7
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コロナウイルスの影響で、ゴーストタウン化した北京最大級のショッピングモール、三里屯ヴィレッジ。2020年2月1日撮影。Photo_ Getty Images
Precautionary measures taken in Beijing due to coronavirus outbreakコロナウイルスの影響で、ゴーストタウン化した北京最大級のショッピングモール、三里屯ヴィレッジ。2020年2月1日撮影。Photo: Getty Images

「中国・北京にある弊社の旗艦店には、1日平均600〜800人が来店します。そのうちの90〜120人が購入に至りますが、先週は、1日あたりの来店者数がたった5人でした」

とある老舗ラグジュアリーブランドのシニアディレクターの言葉には、新型コロナウイルスが経済に与える影響の甚大さが表れている。この店だけではない。北京中のラグジュアリーブランドのショップには閑古鳥が鳴き、閉店に追い込まれるケースも発生している。

1月7日に中国の武漢市で新型コロナウイルスが発生して以来、中国の感染者数は3万人に届きそうな勢いだ。そのうち560人以上が死亡し(2月6日現在)、致死率は2パーセントほど。事態の大きさや緊急性を考えると、コロナウイルスがファッション業界にもたらした苦悩など微々たるものだが、これがきっかけで、いかにファッション業界が中国に依存していたかが露わになった。

遡ること20年。2000年時点のファッション業界に占める中国市場の大きさは、世界全体の売上のわずか2パーセントほどだった。それが今や、世界最大の市場である。経営コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーの調査によると、2019年のラグジュアリー商品(ファッション、時計、及び宝飾品)の35パーセントは、中国で購入されたか、中国人が海外で購入したもの。この数字は、アメリカとヨーロッパの合計に比すると、わずか2パーセント下回るだけだ。

それほどの巨大市場であるがゆえに、2019年に起こった香港民主化デモと、それに対する中国の対応には、多くのブランドがあくまで静観するスタンスをとった。しかし、今回はそうはいかない。

渡航制限により、中国の重要ショップのバイヤーやエディター、インフルエンサーなどのフロントロウの常連たちは、2020年秋冬コレクションへの不参加が予想される。そうなると、2月7日からのNYを皮切りに、ロンドン、ミラノ、パリコレクションは、一体どうなってしまうのだろう。

イタリアファッション協会(Camera Nazionale della Moda Italiana)は、ショーに出席できない人々のためにライブストリーミングを提供する予定だが、中国市場に依存している多くのラグジュアリー企業は、この窮状から脱するために、あらゆる施策を講じる必要があるだろう。

LVMHの取締役会長兼CEOを務めるベルナール・アルノーは、コロナウイルスについて、こう述べている。

「2カ月から2カ月半の間に解決されれば、そう大きな問題ではありません。しかし、この状況が例えば2年も続くことになれば、状況は一変するでしょう」

確かに、コロナウイルスによる中国市場の麻痺は、ラグジュアリー業界にとって打撃どころの騒ぎではない。死活問題だ。ラグジュアリー企業が積極的に医療用品の支給や研究のための多額の寄付を行なっているが、それもそのはず、人ごとではないからだ。けれど、その迅速かつ人道的な対応には、世界中の賞賛が集まっていることも確かだ。

LVMHはすでに中国赤十字に230万USドル(約2億5000万円)を寄付し、中国のために医療用品を調達すると約束。同様に、ケリングやロレアル、その他ファッション企業もチャリティー財団に多額の寄付を行い、コロナウイルスに有効なワクチン開発に資金援助するべく取り組んでいる。

「パリがくしゃみをすると、ヨーロッパが風邪をひく」とは、19世紀前半の著名政治家が語ったメタファーで、当時の民主化運動の広がりに言及したものだった。しかし、まさにこの状況が、パリの代わりに武漢から起こっている。それほどまでに、中国が世界経済に与える影響は甚大なのだ。しかし経済など、人命の重みの比にもならない。私たちは自らの命が脅かされてはじめて、何よりのラグジュアリーは健康であることに気付かされたのだ。

From VOGUE.COM

Text: Luke Leitch

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