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新ディレクターを迎え、コントワー・デ・コトニエが変わる。

  • 2020.1.30
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今年25周年を迎えるコントワー・デ・コトニエ。アンヌ・ヴァレリー・アッシュ、アメリー・ジリエ、滝沢直己といった名前についで、2020年春夏シーズンからのクリエイティブディレクターはナタリー・マーシャル……。え、それは誰 ?どこのブランドのデザイナーだった人?と思うかもしれない。彼女はフランスの雑誌でファッションエディターとして、またスタイリストとして長いキャリアと豊かな経験を持ち、服を知り尽くしている女性である。彼女によるとても魅力的なファーストコレクションが、そろそろ世界中のブティックに登場する。彼女が考えるコントワー・デ・コトニエとは?新しいコレクションにこめたメッセージとは?ナタリーってどのような女性?彼女に話を聞いてみることにした。

新クリエイティブディレクターのナタリー・マーシャル

エッセンシャルなアイテムで、理想のワードローブを。

「エネルギーとアイデンティティをブランドに再びもたらし、欲しくなるブランド、買わずにはいられないというブランドにする。それが私の使命なのです。ブランドのDNA、ヘリテージは守りますよ。この仕事を始めるにあたって周囲の人たちに聞いてみたところわかったのは、誰もがコントワー・デ・コトニエというブランドに愛着、一種の絆のようなものを感じていること。買う買わないは別にして、好ましく見ているブランドだ、と誰もが答える特別なブランドなのですね。私に求められているのは私のビジョンなので、これまでのことにはあまり目を向けなかったのですけど、先日フランスのブティックの責任者たちにこの新しいコレクションを見せたところ、20年近く仕事をしているという女性から、“コントワー・デ・コトニエのDNAがある”と言われました。うれしい褒め言葉ですね。私が提案するのは理想的なワードローブを構成するエッセンシャルなアイテムのコレクションです。もちろん時代のエスプリに合う新しい品もシーズンごとに一部加えてゆきますけど、ブレザー、トレンチコート、マリンセーターなどはエッセンシャルなアイテムなので、次の新しいシーズンが来ても消えずに毎シーズン提案をしてゆきます」

バッグ、ブーツ、スニーカーなど小物までエッセンシャル。

アリュールをもたらす快適な服。

「私たちが提案するのは、丈が短すぎないか、シルエットがタイトすぎないかと心配することから解放されて、着る女性が自分に自信を持てる服です。いったん身につけたら、服に気を取られることのない服、快適で着る女性が美しく見える服。スタイリストとしての長い経験から私はシルエットや服の落ち方にはとても敏感で、シンプルなデザインですけど、ちょっとしたディテールや巧みなカット、美しい素材によって特別なアリュールを服にもたらしています。フェミニンなコレクション、といってもステレオタイプのフェミニニティではなく、新しいフェミニニティの提案があります。ショートヘアでもパンタロンでもフェミニニティは表現できます。大切なのはアリュール」

日常の服、機能的な服。

「フランスに対して海外の人がどういった視線を投げかけるのか、ということを知る機会があり、フランスの幸運、それはモードの文化的遺産を持っていることだと気付かされたのです。それで、シンプルで着るのに頭を悩まさない服のインスピレーションを、19世紀末から、化学繊維が大量に用いられるようになる前、つまり20世紀の半ばにかけての日常の服に求めることにしました。ワークウエア、学校の先生の上っ張り、工場作業員の仕事着、軍服、自動車修理工のつなぎ……こうした服を含め、機能性を証明したあらゆる服が私のインスピレーション源となります。もちろん、素材やボリューム感などいまの時代の服として見直しますけど、ベースはこれら。たとえば、大きな張りつけポケットのポプリンのシャツ。これはバイカーだったか消防士の服にインスパイアされています。私、ポケットをとても重要に考えているんですよ。これはとってもエッセンシャル。地下鉄の中で周囲の女性たちを見ていて、思うことです。男性と違って女性はバッグを持たなければならない。両性の平等という点からも可能な限り私はポケットをつけるようにしています。つけない場合は、服のシルエットを優先したとか、それなりの理由があるから。服一点一点について、ポケットをどうするか必ず考えています」

女性の服にポケットは大切。

遊ぶ子どもを写した昔の写真からインスピレーションを得たワンピース。ノスタルジーを感じさせる。

生地屋が持つアーカイブから、ヴィンテージのプリントを復活させた。

ミックスの可能性。

「いろいろな着方ができる、ミックスしやすい。私には、これはとても大切なことなんです。たとえとして、マリンセーターをルックブックではシルクのスカートに合わせる、というコントラストのあるコーディネートをしています。その下に白いシャツを着る、というのも提案のひとつです。ボタン留めなので肩を開けて襟を出し、袖をあげてカフスを見せて……これにシルクのスカートというのはとってもフェミニン。カジュアルに着るには、白いジーンズにブーツを合わせて。テーラリングのパンツとヒールにマリンセーターという組み合わせもおもしろいでしょう。1日のうちで、1週間のうちでさまざまな着こなしが可能な一着です。多くのアイテムがこのようにミックスできます。ひとつのアイテムを異なるコーディネートにとりこんで、楽しんでほしいのです」

美しい自然素材でも、価格は控えめ。

「コントワー・デ・コトニエと呼ばれるブランドです。コットンをはじめ、美しい自然素材が大切だと私は考えました。なので、以前に比べると自然素材が増えています。シルク、カシミア、ウール、エジプトのコットン……長持ちする素材であることもポイント。クオリティの高い服を提案したいのです。でもヨーロッパ産の素晴らしい素材を使っても価格は抑えておきたいという願いがあり、たとえば、この春夏コレクションの中で最も高額なアイテムはウール100%のトレンチコーチで395ユーロです。トレンチは以前からのデザインに改善を加えた定番タイプと、それからボリュームたっぷりのこのファッション・トレンチの2種。美しいアリュール、素材もとても良いクオリティ……そう思って服を手にとって価格を見ると、“ああ、うれしい!”という驚きがあるはずです。これって人生を楽しくしてくれますね」

シルクのブラウス。

ボリュームたっぷりのモードなトレンチ。でも誰にでも似合う。

ダブルフェイス素材のとても軽いコート。

イニシャルCDC (セデセ)。

「コントワー・デ・コトニエというと、母と娘の広告写真が大勢の人たちの記憶にありますね。“世代を超えて”という点はこれからも主張し続けますけど、別のやり方でその可能性を広げます。世代だけでなく、人種も超えてあらゆる女性に向けて語りかける服を作っていきます。コントワー・デ・コトニエというロゴはもちろんキープしますけど、ほかの可能性も豊かにという発想のひとつとして、シャツに刺繍されたイニシャルのCDCがあります。コントワー・デ・コトニエという長い名前は、社内ではCDC(セデセ)と略して呼ばれていて、今回、そのイニシャルを初めて服の中に登場させることにしたのです。これはメンズの服からインスパイアされたディテールでもあります」

コントワー・デ・コトニエの服に初めてイニシャルが登場した。

新しいコンセプトのブティック。

「昨秋、デパートのボン・マルシェの向かいに新しいコンセプトによるブティックがオープンしました。これからのCDCの方向に関わるブティックなので、このプロジェクトには私も参加しています。エピソードとしては、店に置かれている、生地屋が昔使っていた見事な大テーブル。これは南仏でのヴァカンス中に、私が偶然ブロカントで見つけたものなんです。新しいブティックのコンセプトについて相談した後のことだったので、このテーブルは店に置くのに最適では!と。それで南仏からセーブル通りへと配達され……店内に温もりと生き生きとした雰囲気を醸し出していると思います」

新しいコンセプトによるブティック。Comptoir des Cotonniers(35, rue de Sèvres 75007 Paris)

ナタリー・マーシャル

服をデザインしたい。小さい時からこう思っていたナタリーはエスモードに入学した。学校で学ぶ間にモード雑誌、モード写真に触れ、スタイリスト、ファッションエディターという職業が存在することを発見。自分がしたいのは服のデザインより、こうしたビジュアルの仕事だ!と。卒業年の実地研修で彼女は「マリー・クレール・ビス」(1995年廃刊)の編集部へ。そして、そこでエディターとなって10年間を過ごした。その後、カリーヌ・ロワトフェルドが編集長になる前の「ヴォーグ」誌で仕事をし、ついで「ロフィシェル」誌、「ビバ」誌を経て、「テクニカート・マドモワゼル」でファッション部編集長に就任。そこでは誰よりも早く若いクリエイターを紹介するのを楽しんだ。その後、雑誌ではなくトレンド予測のオフィスでモードに限らず、建築を含むさまざまな部門に関わり豊かな経験を積む。デザイナーではない彼女がクリエイティブディレクターというポストに導かれたのも、この時期が良い橋渡し役を務めたのかもしれない。

彼女はビジュアルから多くをインスパイアされる。たとえば映画。ジャン=リュック・ゴダール、エリック・ロメール、クロード・ソーテといった監督の名前を彼女は挙げた。

「フランス映画が好み。というのもハリウッドの映画のように超がつくほど洗練されていないからです。たとえばヌーベルバーグの映画に見られるようなリアルな面、ロメール作品に見られるようなシンプリシティが好き」

デルフィーヌ・セイリグ、ニコール・ガルシア、カトリーヌ・ドヌーヴといった70年代半ばの女優たちは、ナチュラルで気取りのない女性のタイプとして彼女の興味をひいている。女性アーティスト、展覧会もビジュアル面で大切というナタリーだが、何よりもインスピレーションとなり、彼女を豊かにしてくれるのは地下鉄の中の女性たちを観察をすること。シャツの色だったり、おもしろい着方だったり……。

パリ生まれのパリ育ちだが、おもしろいことに左岸に行くと外国にいるような感じを受けるという。パリで彼女が居心地良く感じるのは、右岸の2区、3区、10区のあたり。文化、人のミックスがある場所が好きなのだ。

「パリという街にはフランスのさまざまな地方の人、海外からの人が集まっています。パリに限定せず、コントワー・デ・コトニエにはフランスのエスプリ、ライフスタイルを反映させたいと思っています」

全身黒い装いで両手を大きく動かしながら語るナタリー。なんだか魔術師のように見えてきた。彼女は女性の心をこっそり読み取り、コントワー・デ・コトニエの服を着る誰をも洗練された自信あふれる女性に変身させるマジシャンなのかもしれない。

コントワー・デ・コトニエwww.comptoirdescotonniers.co.jp

 

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