1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 数字や文字がカラフルに見える「共感覚」とは?

数字や文字がカラフルに見える「共感覚」とは?

  • 2020.1.29
  • 1305 views

ライターのリンジーは、物心ついた頃から数字には特定の色がついて見えていた。2は明るいピンク、3は日差しのような黄色、4は紫がかった青。それぞれの数字が特定の形をしているだけでなく、実際にその色なのだ。

その結果、それぞれの色に対する思いが、その色のついた数字に対する思いになった。例えば、オレンジ色に見えるというだけの理由で、数字の7が嫌いだった。オレンジって醜い色だと思わない? この数字と色のつながりは、知らず知らずのうちに生まれていた。彼女にとっては、これが子どもの頃からの現実。アメリカ版ウィメンズヘルスに語られた、「共感覚」とは?

18歳。「共感覚」という言葉との出会い

彼女は大学1年の文学の授業で、小説『ロリータ』で知られるウラジミール・ナボコフの『Speak, Memory/記憶よ、語れ』という本を読んだ。その中で彼は、文字がカラフルに見える「共感覚」の持ち主であることを説明していた。「ちょっと待って、これに名前があるの?」と驚いた。それまでは、その感覚が “一種の現象”、ましてや一般に認められた症状なんて知る由もなかった。

米ジョージ・ワシントン大学の臨床神経学教授で、共感覚に関する4冊の本を出版したリチャード・E・サイトウィック医学博士は、この現象を何度も耳にしていた。「共感覚者は、みんな同じことを言います。彼らには物心ついたときから共感覚があり、それがないときのことは記憶にありません」

サイトウィック博士によると、共感覚を持つ子供のほとんどは、誰にでも数字や文字がカラフルに見えるものだと思っているそう。ただしこれも、「私の “A” は今までで一番きれいなピンク。君の “A” はどんな色?」などと友達に聞くまでの話。その友達はほぼ必ず混乱し、共感覚者は頭がおかしいと考える(そんなことは決してない)。そして、サイトウィック博士が言うように、一度バカにされた共感覚者は、その話をしなくなる。「こうして彼らは、そのように見えるのはこの世で自分一人だけだと思い込むようになりますが、最終的には、それに名前があることを知るのです」

共感覚=2つの感覚の組み合わせ

共感覚は、英語で「synesthesia(シナスタジア)」。“Anesthesia” とは “感覚がないこと” を指し、“syn” は通常 “共に/結合して” を意味する。よって、共感覚は文字通り「2つ以上の感覚が一緒になった状態」と言える(最も極端な共感覚者は、五感が全て連結するそう)。

でも、サイトウィック博士いわく、共感覚者の持つ感覚は普通の感覚ではない。アルファベット、数字、時間の単位、カレンダーの形式は、従来の辞書には感覚として載っていない。でも、共感覚者にとっては、そのどれもが感覚となり得る。つまり、リンジーの場合は数字に色がつくけれど、曜日や月に色がついたり、時間の単位に味を感じたりする人もいるということ(例えば6時は苦くて正午は甘いというように)。

undefined
Women's Health

事実、曜日に色がつく(日曜日は赤、月曜日は青)のは最もよくあるタイプの共感覚。次によくあるのは、書かれた数字や文字に色がつく書記素共感覚。音楽、声、環境音(犬の鳴き声やドアが閉まる音)に色がつく共感覚では、その音が形になって投影される。例えば、色のついた動く物体が目の前に現れて、しばらく光を放ってから消えていくのだ(精神的な花火みたいなもの)。

これらは数十種類ある共感覚の数例にすぎない。でも、サイトウィック博士の話では、共感覚がどの形で現れようと、大抵は一方通行。つまり、音から風景が見えることはあっても、風景から音や匂いがすることは滅多にないということ(ただし、相互共感覚の持ち主を対象にした研究もあるので、あり得ない話ではない)。

共感覚には遺伝子が関係している

サイトウィック博士によると、共感覚は常染色体優性遺伝によって受け継がれる(両親のどちらか一方に共感覚の遺伝子があれば、子供は必ず共感覚になる)。「共感覚の遺伝子は、目の色を左右するような単一遺伝子ではありません。つまり、遺伝性が非常に高いということです」。1970年代後半から80年代にかけて多数の家族を調べた結果、サイトウィック博士は、共感覚の遺伝子が複数の世代および男女両方に見られることを突き止めた。

でも、リンジーの場合、共感覚が遺伝によるものかは分からない。そうだろうと思ってはいるけれど、彼女は共感覚者であることを心の内に秘めてきた。家族の中に別の共感覚者がいて、それに名前があることを知らずにいてもおかしくない。

サイトウィック博士によれば、23人に1人は共感覚の遺伝子を持っている。でも、実際に共感覚の症状が現れるのは90人に1人だけ。また、遺伝子を受け継ぐケースが多い一方で、遺伝子の突然変異によって共感覚になることもある。

共感覚遺伝子には生物学的な目的がある

サイトウィック博士によると、第一の目的は記憶力の向上。ごく普通の共感覚者は大抵物覚えがいい。リンジーの場合は、小学2年生のとき、九九を誰より早く覚えられたのも、たぶん共感覚のおかげ。数字が覚えられなくても、色を当てにすることができたのだから。

でも、サイトウィック博士は、共感覚遺伝子の目的は他にもあると考えている。「私たち研究者は、共感覚の遺伝子が比喩のためにあると考えています。定義上、比喩とは、何かを他の何かに置き換えて表現することです。要するに共感覚者は、見た目が異なるさまざまな物事を他の物事に置き換えて表現しているということです」。そのため共感覚者は、普通の人より比喩を使うのが遺伝的に上手い可能性がある。

リンジーはライターの道を選んだけれど、常に詩的なフレーズが浮かんでくるわけではない。でも、本を読んだり、テレビを観たり、何らかの話を聞いたりすると、一見何の関係もなさそうな物事や古い記憶が一気につながるのは確か。これが理由で彼女はオーディオブックを聴くのが苦手。突然何かを思い出し、大事なことを聞き逃してしまうから。

共感覚が、内なる芸術家資質を呼び起こしてくれることもある。サイトウィック博士の仮説によると、共感覚が現れていなくても、その遺伝子さえ持っていれば、創造力は格段に高くなるのだそう。共感覚はクリエイティブな人(アーティスト、ミュージシャン、小説家、画家など)に多く見られ、アーティストとして売れなくても、共感覚者はクリエイティブな道を進む傾向にあるという。

共感覚は検査しなくても自分で分かる

共感覚が、一般的な病気と同じように診断されることはない。サイトウィック博士に言わせれば、共感覚者のストーリーこそが診断結果。

共感覚は特異な現象なので、血液検査や心理テストによって有無を確かめることができない。「その人に共感覚があることを本当に確かめたければ、その人専用のテストを作る必要があります。でも、これには手間がかかりますし、費用も高額になりがちです」とサイトウィックは説明する。

例えば、人から聞いたアルファベットや数字の色を記憶する知覚検査。「共感覚がない人たちは、一度色を覚えても、1週間後の再テストでは勘に頼るしかありません。でも、最初のテストから1年なり3年が経過した段階で、共感覚者に何の前触れもなく再テストを受けさせると、答えは大体あっています」

ちなみに、『Born This Way』を歌うレディー・ガガも有名な共感覚者。

共感覚は特殊でも、人生に悪影響は与えない

意外にも、共感覚はメンタルヘルスに悪影響を与えない。

サイトウィック博士によると、親は大抵、子供に何か異常があるのではと心配し、精神科医や発育関係のスペシャリストに相談する。ところが、共感覚という言葉を聞いたことすらない医師が多く、一種の精神病エピソードの初期症状だと思われたり、総合失調症か何かと勘違いされたりする恐れがあるので厄介。でも、このような不安を抱く必要はない。

実際に、共感覚がもたらす最も一般的な精神面への悪影響は、共感覚者であることを打ち明けた相手に変人扱いされたときの恥ずかしさだろう。

だからといって、共感覚と生きるのが常に楽とは限らない。稀とはいえ相互共感覚に対処するのは、特に難しいときがある。刺激物の多い場所(多彩で明るく、混み合ったタイムズスクエアなど)では、精神的に疲れやすい。

それでもやはり共感覚は素晴らしい特性。みんな共感覚を天からの贈り物と捉え、それと共に生きる日々を楽しんでいる。共感覚者は「構造の違う現実」を生きているにすぎない。

日常生活の中で、共感覚を意識することは少ない。でも、数字と文字には昔も今も色がつく。これがリンジーの共感覚が見せる世界。彼女は今日も、その中で普通に生きているだけ。

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。Text: Lindsay Geller Translation: Ai Igamoto

元記事で読む
の記事をもっとみる