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極私的・偏愛映画論『インテリア』

  • 2020.1.28
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選・文 / 平澤まりこ(イラストレーター)

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出典 andpremium.jp

品のよい色の取り合わせと美しい余白がもたらす洗練。

グレイ、ベージュ、オフホワイト、そんな色合わせが好きだ。品よく凛としながらも温かく、絵でも服でも空間でも、その何でもないような取り合わせには美しい余白を感じ、心惹かれる。主人公イヴの部屋もまたそんな色調で全てがシックに纏まっていて何度観ても、あゝ素敵と思う。が、住みたいかといわれると少し違うのだ。

舞台はロング・アイランドの海を望む美しい別荘。高名なインテリアデザイナーとして活躍するイヴは、自分の描く完璧なる理想の家を築き上げていた。花器の配置ひとつにもピリリとした緊張感が漂うような家で、常に夫や子どもたちに支配的に振る舞うイヴ。そんな暮らしに耐えきれなくなった夫はある日、試験的別居を切り出す。
あくまで冷静に言葉を選んで話す夫アーサーの淡いピンクのシャツにグレーのネクタイという上質な装いは、まさにイヴ好み。すべてが長きに渡り彼女の指揮によって纏められていたことが、さりげなく伝わってくる。その家がついに崩壊を迎えたのだ。
この作品に流れる色調はほとんどがペールトーンで、イヴの部屋には計算された余白がある。でも「抜け」がないのだ。だから息がつまる。風通しのよさこそが心地よさだ、と私は思っている。たぶんインテリアも人間関係も。この家に程なくやってきた夫の新恋人パールはイヴと正反対で、明け透けで偽りがなく、品には欠けるけれど愛嬌のある風通しのよい人だ。その人はただひとり真っ赤な服を着て登場する。それを合図に物語は動き出す……。

頑固になればなるほど、ひとは脆くなる。そうとしか生きられない不器用さが痛々しくも、自分の美学を貫き通したイブの潔さにも惹かれる。やむを得ず一人暮らしをはじめたアパートのその洗練された空間といったら! 捨てられた女の意地か? というほどカッコイイ。そして得意の喜劇要素を一切入れず、BGMも入れずに家族を描き切ったウッディ・アレンの潔さと美意識も天晴れ。自分の信じるものを貫きつつも、柔らかな余白を持つ大人でありたいなぁ、と思う。部屋にも心にも。

illustration : Yu Nagaba

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出典 andpremium.jp

「この家はモダンすぎるのよ」とイヴにダメ出しをされる次女ジョーイの部屋も1970年代の東海岸らしいシンプルな佇まいで素敵。素地の額に軽やかなドローイングを飾っているさりげないセンスも必見。

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出典 andpremium.jp

Title
『インテリア』
Director
ウディ・アレン
Screenwriter
ウディ・アレン
Year
1978年
Running Time
93分

MARIKO HIRASAWA 平澤まりこ(イラストレーター)
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出典 andpremium.jp

セツ・モードセミナー卒業後、イラストレーターとして広告、雑誌、装画などを手がける。著書に旅の体験を綴った『イタリアでのこと 旅で出会った、マンマとヴィーノとパッシオーネ』(集英社)、『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社)、小川糸との共著『ミ・ト・ン』(白泉社)、あべはまじとの絵本『ねぶしろ』(millebooks)、かのうかおりとの共著『チーズの絵本』(millebooks)など。
https://www.instagram.com/hirasawamariko/

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