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ツンデレとカレーレシピ【彼氏の顔が覚えられません 第22話】

  • 2015.4.9
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初旬にカズヤと別れた数週間後、早くも別の男性とデートをしてしまった。どういう経緯でそんなことになったのか…。

4月は恐ろしい。ただ月が変わり、学年が一つ上がっただけなのに、いろんなことが起きすぎている。3月はほぼ白紙だった日記も、あっという間に埋まってしまうだろう。

それは、履修届けの締め切り日だった。きょうび履修届けなんてネットで簡単にできる。が、簡単だからこそつい後回しにしてしまい、気づいたらもうその日がきてしまっていた。

家でやったら絶対集中できないから、学校のパソコンエリアを使おうと思って。そしたら私と同じこと考えている生徒は他にもたくさんいたらしく、なかなか席が空かず。

待ち始めたのが午後4時。席が空いたのが、約1時間後の5時。ようやく始めるも、いざ決定ボタン押す直前で、またあれこれ目移りしてしまって。一度チェックマークをぜんぶ外して、もう一度Webシラバスに目を通したりなんかし始めて、またかれこれ1時間。

「お、イズミちゃん」

と、突然声をかけてきた彼は…誰だ。髪の毛がほぼ丸坊主と言っていいくらい短い。こんな野球部みたいな人、知り合いにいたっけ。

「あ…ひょっとして俺のことわからない? ちょっと髪切りすぎちゃったからかな…ホラ、○○だよ」

いや、名前を言われてもわかりませんけど。ただ声には聞き覚えが…。

「まさか軽音部の先輩ですか。2年生の」

「あ、ようやくわかってくれた…って、2年じゃなくて、3年ね。一応、進級できたから、俺」

正解。いや、学年間違えちゃったからギリはずれか。それにしても髪切りすぎだ。私みたいに人の顔が覚えられない人間じゃなくても、これは気づけない。

先輩の方は、よく私のこと覚えているもんだなぁと思う。ポニーテールがマイブームになってから、会うの初めてなのに。いや、これぐらいの変化は普通の人にとってはなんてことないのか。あの日マナミも一瞬で私に気づいたし。

「ひょっとして、いま履修登録中だった?」

「はい。何取るかなかなか決められなくて」

「2年って、そんな悩む余地あるっけ…必修科目もまだ多いでしょ。あと、再履修とかは」

「再履修はないです。単位、受けた分はぜんぶ取れましたから」

「へ~え! 優秀だなあ。俺なんか去年、必修科目と再履修科目選んだら、ほかに取れる授業なかったよ」

「教科書持ち込みOKの試験ばかりで、単位落とす理由がわかんないんですけど。知り合いの同級生なんて、該当項目を丸写ししたらA評価もらえたって言ってましたよ」

知り合いの同級生とはユイのことだ。冬に学校を辞めてしまったから、去年の夏の試験のときの話である。

「えっ、まじ? そんなことあるの?」

「はい。他の知り合いなんて、自身の研究レポート提出しなきゃいけないのに、書くこと無いから我流のカレーレシピを載せたら、それで単位取れたって言ってました」

他の知り合いとは、カズヤのことだ。恋人と言うべきか、元恋人と言うべきか。名前を口にするのもなんかイヤだ。

「なんだよそれ…いくらなんでも評価ザル過ぎだろ…俺みたいに一生懸命勉強してる生徒が評価されない世の中、オカシイよ…教科書に頼らない答え導いて、字数や提出期限オーバーしてでも必死でレポート埋めて…それで単位もらえないってどういうことだ…」

「それは、評価以前の問題だからじゃないですか」

嘆く先輩に、ほとんど台本を棒読みするように言う。

「イズミちゃん冷たいなぁ…慰めてくれたりっていう優しさは、君にはないの…」

「何言ってるんです。慰めたって無益じゃないですか。それよりちゃんと正論を言ってやらないと、先輩だって成長できませんし」

「そうか…じゃあこれは、俺を育てようっていうイズミちゃんの優しさなんだね…」

「は。単にぐちぐち長セリフ吐いてる先輩がキモチワルかっただけです。他意はありません」

「そうか…イズミちゃんって、ツンデレだなぁ」

「はいはいはいはい、キモイキモイキモイ」

棒読みを繰り返す。流石にキモイを連呼されたのはこたえたようで、先輩は肩を落とし、明らかにうなだれる。楽しいなぁ、先輩をいじるのは。部活に顔を出していない限りのことではあるけれど。

(つづく)

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(平原 学)

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