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喫煙してOK!? 「健康を気にし過ぎると体に悪い」ことが判明

  • 2015.4.8
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【パパからのご相談】

40代。男性です。3年前に総合商社を脱サラして、小さな専門商社を起業しました。 おかげさまで業績は順調なのですが、忙しかったこともあり独立してから一度も健康診断を受けていません。もっともどこか体調が悪いということもなく、この3年間で医者にかかったのは風邪で2度と虫歯で1度だけです。サラリーマン時代は強制的に健康診断を受診させられて、指摘されることはいつも決まって、「ガンマGTP値とコレステロール値が高い」ということでした。でもだからといって体に自覚を伴う異常は何もなく元気で仕事ができており、毎日が楽しいです。「健康を気にし過ぎるとかえって体によくない」という話も聞きますし、特に問題なければこのままのスタイルでいいのではないでしょうか。

●A. 気にし過ぎがよくないのは本当ですが、“気にしなさ過ぎ”のリスクもあります。

こんにちは。エッセイストでソーシャルヘルス・コラムニストの鈴木かつよしです。ご相談ありがとうございます。

実は小生も30代の終わりに小さな会社を起こしてからしばらく健康診断を受けず、医療機関にかからなかった時期がありました。正社員もしくは正職員の立場でずっとお勤めを続けている方ではありえないことですが、ご相談者さまや小生のように“独立・開業”したケース。あるいは、アルバイトのような非正社員の形で働いていらっしゃる方ですと、「何年も健康診断を受けていない」という人が少なからずいることは事実です。

“自覚症状が出たときには病状が相当進行してしまっている疾患”に対しては、健康診断を受けないことは大きなリスク要因となります。ただ一方で、ちょっと疲れがたまっただけでも起こりうるような些細な症状を、「何か深刻な病気が潜んでいるのではないか」のように気にし過ぎることは、心の健康という意味でよくないのは確かでしょう。

●「ブレスローの7つの健康習慣を忠実に実行するほど不健康になる」という調査結果

ここに1つ、面白い研究結果があります。東京慈恵医科大学総合健診・予防医学センター教授の和田高士氏が、米国カリフォルニア大学教授のレスター・ブレスロー博士が1965年に発表した、「忠実に実践すれば(メタボが減少し)死亡率が低くなる7つの項目」について、わが国におけるその真偽のほどを2000年から2007年までの7年間かけて追跡調査した結果です。

ブレスローの7つの健康習慣とは、

・男性は標準体重のプラス20%未満から5%不足まで。女性はプラス10%未満の、“適正体重”を維持する

・7~8時間の睡眠時間

・ほとんど毎日朝食を取る

・間食はしない。しても1日1度のみ

・喫煙をしない

・飲酒は一度に4杯以下

・激しいスポーツや水泳・長距離歩行などを頻繁にする

といったものなのですが、和田教授が日本人9554名を対象に調査した結果、「日本人には効果がなかった。これらを忠実に実行すればするほど、特に男性の場合はそれがストレスとなってメタボがむしろ増加し、不健康になるという意外な結果が見られる」という趣旨の報告をしたのです。

●「コレステロールの数値を気にし過ぎて肉を控えるのは間違い」と断言する医学博士たち

また、次のようにおっしゃる医学博士の方々もいらっしゃいます。(「週刊現代」2014年7月5日号より抜粋)

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『過去に100歳以上の高齢者(百寿者)105人を訪問調査したことがあります。すると、百寿者の方々は、1日の摂取カロリーに占める動物性たんぱく質の割合が、日本人の平均値よりも10%近く高かった。それまで私も、肉は控えた方がいいと思っていましたから、この結果には衝撃を受けました』 『そもそも、コレステロールは体内にとって必要不可欠なもので、細胞膜をつくる大切な材料。だから、コレステロールが減ってくると、細胞の機能や構造に障害をきたしてきます』(日本応用老年学会理事長・柴田博医学博士) 『300以上ある人は少し下げたほうがいいですが、それ以下ならクスリはまったく要りません。クスリで無理に下げると、無口になって、うつになる。過去に、大学の学者が行ったJRとの共同研究で、駅のホームから飛び込み自殺をした55~60歳男性のほぼ全員がコレステロール値を下げるクスリを飲んでいたという結果も出ています』(順天堂大学医学部特任教授・奥村康医学博士)

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●「どこも痛くないのに何で病院なんか行かなきゃいけないんだ?」と聞いたおばあちゃん

会社を起こす直前、小生は北関東にある私立の医療福祉系大学で職員として勤務していました。併設の病院で各種の健康診断を行っていたため、日頃からお付き合いのあった地元の高齢者の方々に、「たまには健康チェックしに、うちの病院に健康診断を受けに来てくださいね」と折に触れて言って歩いていたのですが、あるとき90歳近い農家のおばあちゃんにそう言うと、「ここ50年というもの、病院なんか行ったこともない。どこも痛くないのに何で病院なんか行かなきゃいけないんだ?」と聞かれ、返す言葉がありませんでした。

本当に健康な人というのは、このおばあちゃんのような人のことなのです。

50年もの間、毎日せっせと畑を耕し、実った作物を収穫して、昼には70年連れ添ったおじいちゃんと畑で弁当を開き、子どもたちを育て、子どもがお勤めに出ている間は孫たちのおやつを作る。そうやって忙しく生きてきたおばあちゃんに、「健康チェックに病院に行け」などと間抜けな勧誘をしている自分が愚かに思えたものです。

おばあちゃんのような正真正銘の、“健康な人”にとっては健康診断の数値など、これっぽっちの意味も持たないのだということを、小生は恥ずかしながらそのとき初めて知ったのでした。

●健康を気にし過ぎることにはマイナスの意味しかないのか?

それでは、健康を気にし過ぎるという行為には、マイナスの意味しかないのでしょうか?

ご相談者さまがたった一人で生きてらっしゃるのだと仮定したなら、その答えは、「YES」かもしれません。なぜなら何十年も健康診断を受けずに、ある日突然何らかの症状が発症し、「もはや手遅れです」と診断されたとしても、ご本人にとってはそれはそれで充実した人生であったと思えるからです。

ただし、ご相談者さまのご家族にとっては、そうではありません。奥さまやお子さんたちにとっては、「どうしてあの人は(親父は)市から案内が来る年に1度の無料健診くらい受けてくれなかったのだろう。今となっては、諸々の準備のできる時間が少な過ぎる」というのが、正直な実感であろうと推察されます。

だから健康を気にし健康診断を受けるという行為は、実は自分のためでなく、自分のことを大切に思ってくれている家族のためにすべき行為だと言うことができるのです。

●アンジェリーナ・ジョリーさんに見る、“健康を気にする気持ち”

最後に1つ、“健康を気にする”ことを、より良い未来につなげようとしている人の例として、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーさんのエピソードを紹介しておきたいと思います。

ジョリーさんが乳癌予防のために両乳腺を切除する手術を受けたことを2013年5月に公表し、今年(2015年)3月には卵巣癌の進行を防止するために卵巣と卵管の切除を公表したことが、わが国でも広く知られています。

このような行動様式は(もちろん一般の庶民には考えられないような巨額の財産をお持ちの人だからこそできることではあるのですが)、ある意味で、「予防医療の最も先鋭的な実践」と表現できるもので、母親を含めて3人の近親者が遺伝性の乳癌・卵巣癌で若くして亡くなっている家族歴を考慮して、“遺伝性疾患によって早逝することを回避”するために“現代医学の最高水準の検査・治療システムを駆使”して、選択されたものでした。

もちろんこのような決断をあまり快く思わない人も、少なくありません。「セレブリティ-が少しでも長生きしたいから、あり余るお金を使って最先端の検査を受け、最先端の手術を受けただけのことじゃないか」と揶揄する声も実際に聞かれます。

けれど、小生はこう思うのです。ジョリーさんは夫のブラッド・ピットさんとともに慈善活動家としても知られ、実の子どもたちと一緒にカンボジアやエチオピアの子どもたちを養子として引き取り、育てています。

もちろん寄付活動も毎年何億円・何十億円という単位で行っているわけですが、お金を寄付することはともかく養子を引き取って実子と一緒に育てることは、子どもという存在への“博愛精神”がなければできることではありません。ジョリーさんは、子どもたちと過ごす時間や慈善活動に携わる時間を、あと数年程度で終わらせたくはなかったのではないでしょうか。

結論として、ご相談者さまに回答させていただきたいと思います。健康を気にし過ぎることは、その目的が、「自分以外のため」であれば、自分も周囲も幸せにする、とても“健康”な精神的傾向と言えるのではないでしょうか。ご相談者さまの家族構成などはうかがっておりませんが、ご相談者さまの大切な人のことを思うのであれば、今より少しだけ“健康”を気になさってみてください。

【参考リンク】

・「一無、二少、三多」はメタボを効果的に減らす|日本生活習慣病予防協会

●ライター/鈴木かつよし(エッセイスト)

慶大在学中の1982年に雑誌『朝日ジャーナル』に書き下ろした、エッセイ『卒業』でデビュー。政府系政策銀行勤務、医療福祉大学職員、健康食品販売会社経営を経て、2011年頃よりエッセイ執筆を活動の中心に据える。WHO憲章によれば、「健康」は単に病気が存在しないことではなく、完全な肉体的・精神的・社会的福祉の状態であると定義されています。そういった「真に健康な」状態をいかにして保ちながら働き、生活していくかを自身の人生経験を踏まえながらお話ししてまいります。2014年1月『親父へ』で、「つたえたい心の手紙」エッセイ賞受賞。

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