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わたしは愛される実験をはじめた。第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」

  • 2019.12.25
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【読むだけでモテる恋愛小説42話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

■第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」

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とにかく我慢。LINEを我慢。

私は恋愛認知学の〝トラップメソッド〟を実践することにした。出会いのあとにあえて連絡しないことで、相手の食いつき具合をテストするというものだ。言葉にするのは簡単だけれど、実践するのは去年の忘年会で当たった激辛のペヤングを食べきるくらい辛かった。

ひとり暮らしの家にいるときはもちろん、食事中も、通勤中も、なんなら仕事中までスマホの画面を気にする始末だった。一度、デスクワーク中に画面がピカッと光ったのでトイレにかけこんだところ楽天公式アカウントからの通知でなさけなかった。

夜、テラサキさんのアイコンをみてはドキドキした。大自然の中にはった緑のテントの前で撮った全身写真──正直キモいけどスクショして何度も拡大した。おもわず通話ボタンをおしかけたときは全身から汗がでるかと思った。

イケメンよ。はやくLINEを送ってこい。

夕食後、ああだこうだと歯を食いしばってクッションにパンチを入れたあと──ひとりでいるといろんなことを考えてしまう──ベニコさんにLINEをおくった。不安のあまりだれかとLINEしたかった。とにかく緑のアイコンにふれたかった。

『ベニコさん』私は、ちゃぶ台に、上半身つっぷしながら送信ボタンをおした。

『なに』と、しばらくして返信があった。スマホのむこうでは、ぽっちゃり体型ながら、ワンカールした黒髪、欧米風メイク。ブラックスーツを着て、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンという感じなのだろう。

『つめたくないですか?』

『そういう反応をうかがうだけのLINEはキモいわよ』

『うううなんかこの瞬間にもテラサキさんに他の女子がアプローチしていい感じになってデートしてるんじゃないかとか不安なんですけど』

『パンケーキちゃん。句読点を打たずに、うねうねニシキヘビみたいに文章をつなげるのはやめなさい。男はLINEの美しさからも女を品定めするわ』

私はさっきの文面をみた。たしかに不安になる文章だなと思った。『LINEの美しさですか』

『そうよ。メールや他のSNSとも違った空気感があるでしょう? それを捉えているか。たとえば改行もなしに、長文を、新聞みたいに並べても見づらいだけ』

そこでベニコさんは投稿した。ぽんと漫画みたいな吹きだしがでる。

『それよりは』ベニコさんは続けた。『こんなふうに連投した方がみやすかったりする──連投しすぎはウザいけど。三、四行ごとにね』

『国語の授業みたい』

『なんだって恋愛の授業になるってだけよ。もう私たちは子どもじゃない。どれだけ大人としてふるまえるかがモテるかと同じ意味になるの』

『はい』私はお茶を飲んだ。『あ、それでテラサキさんにLINEしたくてたまらないんですけど』

速攻で返信がきた。『だから、あんたはパンケーキ女なのよ』

『ひどい』

『感情に突き動かされてるときは自覚することから。いい? いままで焦ったように行動してうまくいった恋愛なんかあった?』

私はスマホを手に考えた。一度に思ってることを全部しゃべってドン引きされたり、返信がないからと追撃LINEしてしまったり、急にドタキャンされないか不安で確認して変な感じになったり──そんなことばかりだった。壁にかけたプーさんの時計の針音がきこえた。

私の息は乱れた。こみあげた恥ずかしさで叫びながら頭をちゃぶ台にぶつけたかった。この年齢になって、そこまで感情について考えたことがないという発見にも衝撃を受けた。『なんか感情にふりまわされてきたかも。いまもですけど。ちょっと』

『人生も恋愛も、感情的になった人間から脱落していくわ』

『すでに脱落者の私はどうしたらいいんですか』

『安心なさい』ベニコさんはいった。『頭にホイップクリームのつまったパンケーキ女のために、感情的になったときに心をおちつける恋愛認知学のメソッドをおしえてあげる』

私はなじられたこともスルーして食いついた。『そんなのがあるんですか』

『いい? パンケーキ女になりそうだったら、まず、その感情的になろうとしてる自分に気づくことからよ。あ、いま不安につぶされそうだな、怒ろうとしてるな、ドキドキで暴走しかけてるな、とかね。自分を客観視するのが第一歩よ。次に、その感情は、どんな形や色だろうかとイメージしてみる──ぼんやりと──それを遠くからながめるの』

『ながめるんですか』

『夜空の星でもながめるようにね』

『歌詞みたい』

『いいから、そこのパンケーキ女もやってみなさい』

私はスマホを手に目をとじた。

真っ暗だった。呼吸の音がした。すると心のなかで〝テラサキさんにLINEを送らなければという不安と焦り〟を感じた。胸の奥に、じわじわ丸いものが浮かんでいる気がした。うすいピンク色かも。はっとして、次に、それを遠くからながめるようにした。

自分なりの速度ですこしずつ距離をとった。それを遠くの星みたいにながめていると、その球体が、自分のものでないような気がした。きれいだなとすら思った。そして息をするごとに心のなかがおちついてくるのがわかった。

気持のいいところで目をあけた。

まわりの景色がもどってくる。視界がすっきりしてるように感じた。さっきの感情がゼロになったわけではないけど、ふっと小さくなって心のどこかに整理された感じだった。まわりの色彩もくっきりして部屋の空気にも味がした。

『どう?』と、タイミングをみはからったようにベニコさんからLINEがきた。

『なんか、おちつきました』私は胸をふくらませて息をすった。

『マインドフルネスを恋愛認知学式に解釈したものよ』

『マインドフルネス? きいたことあります──瞑想とかヨガみたいなやつですよね?』

『心をおちつける心理学だとでも考えて。男のLINEを待っているときや、デートの前でも、恋愛だけでなく人生のあらゆるときに使えるわ。いい? 感情的になってしまうときこそ、クールにふるまうべきときなのよ』

私はスマホの画面に浮かんだ、ベニコさんの言葉を目に焼きつけた。このメソッドを教えてくれたベニコさんの心づかいに感謝した。『ありがとうございます』

『そして、はじめに待つと決めたからには──待たなくてはならない』

テラサキさんとのLINEのことらしかった。『あの、返信はくるんでしょうか?』

『合コンはどうだったの?』

私は居酒屋でのことを思いだした。自慢じゃないけどベストを尽くしたと思う。ふたりだけで話すこともできたし、最後には、打ち解けた空気もできていたはずだ。少なくともそう信じたかった。『仲良くなれたと思ってます』

『ならば試すだけの価値はあるわ』ベニコさんは送信した。『合コンでは上手くふるまえていたかどうかの答え合わせね。とはいえ返信がこなくても、こっちからLINEを送るだけ。気楽にかまえなさい。こちらから送る前に、ちょっと立ち止まって、あちらから送られてこないかチェックしてみる。トラップ・メソッドはそれくらいのものよ』

その言葉にふっと心が軽くなった。そっか。そうだよね。そこまで神経をとがらせることでもないんだ。うんうん、うなずきながらスマホをちゃぶ台においた。座椅子にもたれた。肩をまわした。ばきぼき骨がなった。ストレッチしよう。

そのときスマホの通知が光った。

ぴくっと目の端がとらえた。やりとり中だからベニコさんでないことはわかった。手を頭の上にのばしながら、私の脳は、車にはねられた瞬間のようにスローモーションで動いた。頭のなかで走馬燈がまわった。光速でいろんなことを考えた──まさかテラサキさん?

■今日の恋愛認知学メモ

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・LINEの文章にもこだわること。長文をつめない。連投しすぎない。数行ごとにあける。

・感情にふりまわされないこと。

・【恋愛認知学式・マインドフルネス】感情をしずめるメソッド。①自分の感情に気づく。②形や色をイメージする。③それを遠くからながめる。

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短でモテる男とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」

■祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定

2019年1月29日公開
2019年12月24日更新

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。
作品化を盛り上げていくべく、バックナンバーを1日2話、12時15分、22時に1話ずつ『DRESS』トップページに再掲します。

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