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わたしは愛される実験をはじめた。第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」

  • 2019.12.23
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【読むだけでモテる恋愛小説36話】30代で彼氏にふられ、合コンの男にLINEは無視されて……そんな主人公が“愛される女”をめざす奮闘記。「あんたはモテないのを出会いがないと言い訳してるだけよ」と、ベニコさんが甘えた“パンケーキ女”に渇を入れまくります。恋愛認知学という禁断のモテテクを学べます。

■第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」

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イケメンがほしいか。ほしいわ。

いよいよだ。女の本能がひきつけられずにいられないタイガー(モテる男性)の口説き方があかされるときだった。私はこの日のために生まれてきたんじゃないかくらいの感じで鴨川の夜の河川敷にたたずんだ。ゆうゆうと流れる川の水が自分の煩悩そのものに思えた。

「油断してると恋と愛のはざまで溺死するわよ」きらきら町あかりを反射させる水面をながめてベニコさんはいった。ワンカールしたボブ。ばっちり濃いアイメイク。ぽっちゃり体型ながら、あいかわらずアメリカンドラマのキャリアウーマンみたいな雰囲気だった。「そもそもタイガーを狙うにはなにが必要だとおもう?」

私は考えた。「恋愛認知学のメソッドをめちゃくちゃ身につけることですか?」

「パンケーキちゃん」ベニコさんはあきれた顔をつくった。「そんなSF映画の後半で殺されるマッドサイエンティストみたいな技術崇拝思想はやめなさい」

「なんかすごい言葉でなじられた」私は口をあけた。「じゃあ、なにが必要なんです?」

「モテる女のマインド」ベニコさんはいった。「それも徹底したね」

「マインド?」

「とにかくモテる男に対しては付け焼き刃のメソッドなんか役にたたない。それよりも少しのことではゆらがないスタイルが必要よ。ほかの女とは違うなと思わせるくらいね。無数の女をなぎ倒してきたタイガーを相手にするんだから」と、指先の赤いネイルをみせた。爪や牙だといわんばかりだった。「技術の前にマインドよ」

「なんか、とにかくモテる女を作りこむ感じですね」

「虎を狩るのに無防備ではね」

「でもですよ?」私はひとさし指をあごにあてた。「モテる女の雰囲気もないのに、素朴な子がハイスペックな男子とさっと付き合うときってありません? あ、そういう子を選ぶんだ──みたいな」

「あるわ」

「じゃあモテる女のマインドがなくてもいけません?」

「パンケーキちゃん」ベニコさんは両腕を組んだ。「それはタイガーが〝駆け引きのないピュアな子に心を奪われたパターン〟よ。いろんな女をみてきたタイガーだから、そういう子に癒しを求めたりするの。だれもができる技じゃない」

「はあ」

「そういう受け身でゆるされる女のことを恋愛認知学では〝ナチュラル〟と呼ぶ」

私は、ナチュラル、とつぶやいた。新鮮な響きだった。駆け引きのないピュアな子──確かにそんな子いたかも。

目立つわけでもないのにクラスのイケてる男子から告白された子、大学のサークルで気づいたら一番人気の先輩と付き合ってた子、たまたま参加しただけの合コンでハイスペックな男子からいいよられて付き合った子──ルックスすら関係なかったりした──みんな嫌味がなくて心がキレイなんだろうなという感じだった。「そっか、あれがナチュラルか」

「うらやましい?」ベニコさんは笑った。

「はい」私はすっごいうなずいた。「生まれかわったらナチュラルになりたい」

「女子の理想よね」ベニコさんはアイメイクの濃い目をむけた。「純粋な心をもった女がレベルの高い男にみそめられるなんて。世の恋愛物語にも──シンデレラから流行のドラマまで──そのパターンが隠れていたりする。もっといえば、これは受け身なままでも、いつかステキな王子様がやってきてくれる、なんてパンケーキ女の妄想そのものよね」

それを想像するだけで舞踏会に呼ばれなかったシンデレラの姉がハンカチを噛みしめるくらいくやしかった。「ずるくないですか? こっちは無限に苦しんでるのに」

「でも、それはナチュラルにも狙ってできることではないの」ベニコさんは首をふった。「この世にはラッキーもあるってだけの話よ。たまたまタイガーに好かれやすい性質の女が、タイミングよく選ばれたにすぎない」

「タイミング? なんか偶然ってことですか?」

「偶然よ。むしろナチュラルで恋人がいない女もたくさんいるわ。彼女たちは駆け引きが苦手だから──何回か選ばれる経験をしたかどうかくらいだから──一度失恋すると、男の口説き方もわからないままドツボにはまるケースもある。もっといえば選ばれたとしても、そのタイガーが悪い男の可能性もある」

それを聞いて、合コンで出会った後輩のヒカリちゃんを思いだした。半年前に、四年つきあった彼氏にふられて、そこから苦労してるとか──あの子も、可愛いのにぬけてるところもみえてナチュラル感があったかも。心のなかのWi-Fiでがんばれとエールを送った。

「はあ、なんか。深い」私は息をついた。「みんないいことばかりじゃないんですね」

「それぞれのやり方があるってことよ。普通の女がナチュラルの真似をして、天然やピュアぶってもおかしいだけ。いい? モテ方はそれぞれなの」

「モテ方はそれぞれ、ですか」私はすごい大事なことを聞いた気がした。

「あなたのスタイルをさがしなさい」ベニコさんはピストルのように指をつきつけた。「ナチュラルから学べるのは、ときに本音や駆け引きのない態度でぶつかるのも大事ってこと。それは美しいことよ。打算もなしに、蝶よ花よ、と生きられたら幸せでしょうね。けれど、この世は一筋縄ではいかない。それだけではバッドエンドもありえる。だから私たちは──本当いえばナチュラルだって──恋愛認知学などのメソッドを身につける必要があるのよ」

私は深く青色がかった京都の夜空をみあげた。名前はわからないけれど、たぶん、いくつか星座があった。大人になれば星座やワインの名前も、すらすらカッコよくいえるようになると思っていた。でもいまになってわかるのは、自分から学ばないと、子どものころ想像したような大人にはなれないということだった。

私はゆっくり顔をおろした。「ナチュラルが、そのピュアさで男性に選ばれることがあるのはわかったんですけど──そもそもピュアさってなんなんです?」

「エゴの無さよ」ベニコさんはいった。「人間はエゴの塊のくせに──あるいはだからこそ──他人のエゴを不快に感じる生物なの。他人の自慢話なんて聞いてられないでしょう?」

「正直、苦手ですよね」

「自慢話をする男は三流よ」ベニコさんはいった。「ゆえに人はエゴの無い──めずらしく薄い──異性に心を奪われることがある。だれも足を踏み入れたことのない山の奥の湖や、疑うことを知らない小鳥のようなもの。その清らかさに経験豊富な──多くのエゴを相手にしてきた──男もころっとやられるわけよ」

「なんかレアな感じ。すごいですね」

「でもね」ベニコさんはいった。「ここで重要なのは、エゴにまみれた私たちはナチュラルにはなれないってことなの」

私はうなずいた。「それは薄々感づいてました」

夜の鴨川を背景にベニコさんもうなずいた。「エゴという名のパンケーキ」

「あの、なんでいま私なじられたんです?」

「特に理由はないわ」

「ひどい」私は唇をとがらせた。

ベニコさんは抗議を無視した。「とにかく生まれつきのナチュラルは別として、普通、エゴをなくすなんてできないものよ。禅僧だって一生かけて苦労してるのに」

「でもエゴをみせるとタイガーは引くんですよね?」

「モテる男ほど、浅はかな女のエゴを見抜いて──さけるでしょうね」

「そんな」私は声をあげた。「じゃあ、この煩悩にまみれた私はどうすればいいんです?」

「洗練させればいい」

「はい?」なんとなく自分とは遠い言葉におもえた。「洗練?」

「一度生まれたものは消しようがない。そういうときは存在を認めてあげるの。そして美しいものとして成長させる──それがエゴを磨くということよ」

「磨けるものなんですか?」

「もちろん。あえていえば〝動物的本能をおさえて人間性を獲得する〟ということね」

「なんかWikipediaに書いてそうな言葉」

「たとえば食事だって、本質は、エゴに通じる動物的な行為でしょう? だからこそ、マナーを身につけてキレイに食べることが評価につながるのよ。知性や習慣や学習で、そのエゴを、どれだけ美しくできるかってこと。つまり品の有無や大人というのは〝その人物がいかにエゴを統御できているか〟ということなのよ」ベニコさんはやれやれというふうに首をふった。「逆にいえばエゴにふりまわされているうちは年齢関係なくガキってことね」

「あ、もしかして」私は声をあげた。「恋愛認知学の〝ノン・エゴイスト・セオリー〟もその練習みたいな感じだったんですか?」

「たまには鋭いわね」ベニコさんはにやりと笑った。「意識的にエゴイスティックなふるまいを禁じることで、その場で、簡易的にモテる大人の女になるというメソッドよ」

「めっちゃ理にかなってる」

「ピュアに愛されるのを待つのもいいけれど──それはいっときの夢。少なくともそう考えておかなければいけないわ。この世が、エゴに満ちているからには駆け引きも必要よ。私たちは洗練されなければいけない」ベニコさんは指をならした。「さあ、あなたに虎を狩るための武器をさずけるわ。愛されるレッスンをはじめましょうか」

■今日の恋愛認知学メモ

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・タイガーを狙うには徹底したモテる女のマインドが必要

・【ナチュラル】駆け引きのないピュアな子。さっとタイガーに選ばれたりする。

・エゴはおさえて洗練させること。

・愛されるレッスンがはじまる──がんばらないと。

【エピソード】

第1話「黙って座りなさい、モテる女にしてあげるから」
第2話「モテたくない? だからあんたはパンケーキ女なのよ」
第3話「みつめるだけで男を口説き落とす方法」
第4話「この不公平な世界で女がモテるには?」
第5話「魔法のように男を釣りあげるLINEテクニック」
第6話「なぜモテる女は既読スルーを使いこなすのか?」
第7話「男に愛想をつかされないデートプランの作り方」
第8話「デートは5分遅刻する女が愛される?」
第9話「モテたいなら男と恋バナをすること」
第10話「ボディタッチを重ねても男は口説けない」
第11話「愛される女はさよならを知っている」
第12話「パンケーキ女、ひさしぶりの合コンで撃沈」
第13話「合コンでサラダをとりわける女子がモテない理由」
第14話「合コンに100回いっても愛されない女とは」
第15話「合コンのあとに男心を釣りあげるLINE術」
第16話「合コンにイケメンを呼びよせるLINE誘導術」
第17話「合コンには彼女持ちがまぎれているので要注意」
第18話「モテる女はグラスを近づけて男の本能をゆさぶる」
第19話「モテる女は自己紹介からデザインする」
第20話「顔をあわせて5秒で脈アリかをさぐる方法」
第21話「なぜ空気を読める女はモテないのか?」
第22話「ひとみしりを克服する方法」
第23話「友人がフラれた話をして恋愛観をさぐりだせ」
第24話「相手の好みのタイプになれなくても逆転するには?」
第25話「モテる女はさらりと男から共感をひきだせる」
第26話「場の空気にすら愛される女はここがちがう」
第27話「愛されたいなら二次会にいってはいけない」
第28話「合コンの夜にLINEを送るとモテない?」
第29話「私たちはモテそうな男ばかり好きになってしまう」
第30話「まだ男は浮気しないと信じてるの?」
第31話「モテる男に挑戦する? モテない男を捕獲する?」
第32話「恋愛の失敗は、自分がなにをしているか理解してないときにやってくる」
第33話「優秀で私だけを愛してくれるオスはどこにいる?」
第34話「私たちは想いを言葉にすることで愛される女になる」
第35話「モテない男を捕まえるためにメイクより大切なこと」
第36話「なぜあの女はハイスペック男子に選ばれたのか?」
第37話「男との会話を笑顔で逃げる女がモテない理由」
第38話「男の機嫌をとるためだけに笑ってない?」
第39話「恋愛対象外の男子に失礼にふるまってない?」
第40話「まだフラれてることに気づいてないの?」
第41話「モテる女はLINE1通目から男心を罠にかける」
第42話「暴走しがちな恋愛感情をおさえるマインドフルネス?」
第43話「いい男はよってこない、いいよってくる男はつまんない?」
第44話「LINEで絵文字を使うほどモテなくなる?」
第45話「LINEは疑問符をつければ返事がくると思ってない?」
第46話「男に未読スルーされないLINEを作ろう上級編」
第47話「男の誘いLINEに即答でのっかる女はモテない」
第48話「イケメンのLINEを既読スルーできる?」
第49話「愛される女は自分ばかりを愛さない」
第50話「モテる女のスリリングなLINEの作りかた」
第51話「彼と距離を縮めたいならLINEで〝悪口〟を共有する」
第52話「デートの約束は日にちまで決めてしまうこと」
第53話「最短でモテる男とのデートの日程を決めるには?」
番外編「モテる女は付き合う前にクリスマスプレゼントをわたすのか?」

■祝! 『わた愛』小説化・漫画化が決定

2018年11月13日公開
2019年12月21日更新

浅田悠介さんの連載『わたしは愛される実験をはじめた。』の小説化・漫画化が決定しました。
作品化を盛り上げていくべく、バックナンバーを1日2話、12時15分、22時に1話ずつ『DRESS』トップページに再掲します。

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